横山液晶微界面プロジェクト


1.総括責任者

 横山浩(電子技術総合研究所 分子物性ラボリーダー)

2.研究の概要

 液晶は、棒状あるいは円盤状の有機分子が作る特殊な液体状態であり、ミリメートルに及ぶマクロ領域にわたって分子が向きを揃え、結晶に匹敵する高い分子配向秩序を保つところにその特徴がある。液体に埋め込まれた分子配向の柔らかい秩序は、外部電場や界面状態に敏感に応答してその向きを変えることができ、この特異な性質を活用して液晶ディスプレイが実現されている。液晶状態は、分子集団それ自身が自発的に生ずる強烈な分子トルクによって、分子が自己配向することで実現されている。このことから液晶は、広く一般に、分子間の認識や協調作用によって一分子単独では実現し得ない複雑な構造と機能をもつ超分子システムのプロトタイプとしても、近年注目が集まっている。分子間の協調が生み出す分子トルクが制御できれば、液晶に限っても格段に多様な光物性や界面特性の実現が可能となり、ディスプレイを超えた液晶の新たな応用展開が拓かれると期待できる。その一方で、液晶における分子トルクは、数ナノメートルから数100ナノメートルのメゾスコピック領域を通じて階層的に形成されるもので、その解明は、理論的にも実験的にも、液晶研究の未開拓領域として残されてい るのが現状である。
 本研究は、液晶性発現の真の舞台であるナノメートル領域の液晶に焦点をあて、液晶の階層構造と物性を実験・理論の両面からシステマティックに探求し、メゾスコピック液晶科学という新分野を開拓しようとするものである。本研究では、数ナノから数100ナノメートルの人工的な微小構造体と液晶分子との複合構造体(これを微小界面の集積体という意味で“液晶微界面構造”と呼ぶ)を研究推進のための独自のブレークスルーとして導入し、とくに空間規則性のある複合構造における液晶の挙動を観測することで、液晶の機能発現の仕組みとその人為的制御の方策を探求する。液晶微界面構造の構成には、走査プローブ加工技術を中心としたナノテクノロジーからのアプローチと、液晶秩序を媒介とする規則的複合体の自己組織法の2つの対極的なアプローチを相補的に採用し、ナノ構造形成の一般的技術の一翼としての発展を目指す。こうして作製されるナノメートル領域の規則性を持つ微小球体、細線、薄膜と液晶分子が作る微界面構造について、液晶相転移の観測や計算機シミュレーションに基づいて、階層的な分子集合構造と分子場形成との関連を解明する。これと同時に、光、電場などの外部 刺激に対する液晶微界面の応答を、分光技術にくわえて新たな走査プローブ技術等を駆使して観測することで、マクロな液晶秩序の形成機構を明らかにするとともに、メゾスコピック液晶による近接場光注1)制御などの新物性を探求し、デバイス応用の芽を発掘する。
 本研究によって、液晶研究とナノテクノロジーの合流に基づく新しい液晶科学の創出が期待されるとともに、自己組織型のフォトニック機能液晶の創製をはじめとして、ナノ構造制御に基づく高速高効率液晶デバイス、有機無機ハイブリッド量子効果素子など、次世代情報エレクトロニクスを支える新規デバイスの創出が期待される。

3.研究の進め方

 本研究では、(1)理論・シミュレーション、(2)微界面物性、(3)メゾスコピック液晶の3つのグループを設定し、相互に密接な連携を保ちつつ研究を展開する。それぞれのグループでは、ナノメートルスケールの微界面構造を形成する手法の開発、液晶微界面の秩序構造、近接場光物性、電子物性の理論・シミュレーションによる解析、およびその実験的研究とフォトニックデバイス等への応用探索を有機的に組み合わせて研究を行う。

4.研究事項

 (1)理論・シミュレーション

 分子統計力学と計算機シミュレーションにより、液晶微界面系の持つ階層的メゾスコピック構造と物性を解析する。とくに、微界面構造が生み出す、分子の個性とメゾスコピック物性との間の実験的検証に耐える相関関係の発掘に重点をおき、これを足がかりとして液晶性発現の起源や界面配向現象の分子レベルでの解明を進める。また、ナノ粒子を液晶に分散した分散型液晶微界面系について、ナノ分散体の秩序配列構造が液晶を媒介として自己組織されるための条件を明らかにするとともに、そのような系で重要となる近接場効果を取り入れた光物性の理論を構築する。

 (2)微界面物性

 液晶中の構造欠陥や人工ナノ構造に伴う局所的な特異構造を広く微界面と捉え、それらが高次の構造化を引き起こす諸条件と物性を追究する。液晶微界面の構成手法として、ここでは、走査型プローブ顕微鏡リソグラフィ技術を用いたナノ構造界面形成法と、液晶を媒介とするナノ分散体の自己組織化法の2つの相補的アプローチをとる。新規液晶材料の合成や表面改質法の探索などの材料科学的な研究を基盤に、高次構造間の相転移の解析と、ナノメートルスケール、単一粒子・単一分子の精度での相互作用の評価手法の開発・応用を通じて、微界面の構造支配要因を定量化することで、液晶微界面のシステマティックな構成原理を確立する。

 (3)メゾスコピック液晶

 ナノメートル領域の微細構造と液晶との相互作用によって発現する、液晶の新しい秩序構造と物性を実験的に探求する。具体的には、微界面構造が液晶相転移、弾性、光物性、界面配向性に及ぼす効果を明らかにし、液晶の新しい応用コンセプトを開拓する。また、液晶微界面に固有の現象として、液晶を媒介とする電子、光の近接場効果と、液晶の集団性に基づくそれらの外場制御の可能性について研究する。

5.研究期間

 平成11年10月1日〜平成16年9月30日

用語解説

注1) 物質が発生する光には、空間を伝播する光と物質近くから離れることのできない光の2つがある。後者を近接場光という。空間を伝播する光はエネルギーを物質から持ち去ってしまうが、近接場光は物質近傍にエネルギーが局在するために、物質と強く相互作用することができる。

This page updated on October 5, 1999

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