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科学技術振興機構報 第908号

平成24年9月7日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL https://www.jst.go.jp

政策形成・実施における科学と政治・行政との関係
に関する論説のサイエンス誌への掲載について

ポイント

JST(中村 道治 理事長) 研究開発戦略センター(「CRDS」:吉川 弘之 センター長)では、政策形成・実施の過程において科学と政府が果たすべき役割および責任のあり方について数年前より検討を進めてきました。本年3月にはその成果を政府に対する戦略提言としてとりまとめましたが、このたび、本検討をもとに今後日本が進めていくべき取組みを論じた有本 建男 政策研究大学院大学 教授 兼CRDS副センター長と佐藤 靖 CRDSフェローによる論説が、米国サイエンス誌に査読を経て受理され、同誌2012年9月7日号に掲載されます。

Tateo Arimoto and Yasushi Sato, “Rebuilding Public Trust in Science for Policy-Making,” Science 337 (7 September 2012), pp.1176-1177. DOI番号:10.1126/science.1224004.

本論説では、まず、2011年3月の東日本大震災および東京電力福島第一原発事故の発生後、科学技術に対する信頼が損なわれ、政府(政治・行政)と科学(科学者・技術者個人とその集団)の役割および責任に関する議論が高まりを見せていることに触れ、今後、政策形成・実施の過程における政府と科学の関係に関する行動規範を策定し、教育訓練を実施するなど、必要な取組みを進めるべきであると指摘しています。

次に、政府と科学との関係をめぐる近年の国際的な動きを紹介しています。米国ではオバマ大統領が就任以来、政府における科学の健全性確保のための取組みを強力に推進しており、英国でも、政府と科学的助言者との関係に係る包括的な原則が2010年に策定されました。最近では、本年5月、科学の評価のあり方および科学の健全性に関する国際的な議論の促進を目的として、全米科学財団(NSF)が主導して「メリットレビュー・サミット」が開催され、同会合でグローバル・リサーチ・カウンシル(GRC)が設立されました。また、インターアカデミーカウンシル(IAC)は現在「研究の公正および科学の責任に関するプロジェクト」を展開しており、科学の責任に関する原則・指針を含む世界の科学者コミュニティー向けの教育用資料の作成を行っています。

最後に、グローバルで不確実な時代を迎え、国内だけでなく国際的にも、科学技術の知識・経験を有効に活用するための仕組み作りや、政府と科学者コミュニティーとの間の信頼関係の構築と不断の対話が必要であることを強調しています。

<論説の内容>

日本では、2011年3月の東日本大震災および東京電力福島第一原子力発電所事故の発生後、政府および科学者コミュニティーの役割と責任が問われました。事故への対応や食品安全の基準、除染の進め方などに関して、科学者コミュニティーは有効な科学的助言を政府に提供できたのか、あるいは政府は科学者コミュニティーの知見をうまく活用できたのか、といった点について幅広く議論がなされました。科学技術に対する社会的信頼が損なわれたことを示す世論調査の結果も明らかになりました。

日本において、科学者コミュニティーと政府とをつなぐ有効なシステムが必要とされていることは明らかです。東日本大震災のような大災害への対応のためだけではなく、あらゆる政策課題について、科学的知見に基づく政策形成の有効性および健全性を確保するための枠組みが求められています。近年、科学技術と社会との関係が一段と深化し、科学と政治・行政との関係も高度化・複雑化してきており、そのような枠組みの構築は緊急の課題となっています。

本論説では、このような現状認識を表明したうえで、科学と政策形成との間の適切な関係の構築を目指した近年の海外の取組みを紹介し(別紙1参照)、つづいて東日本大震災以降の日本における動きに触れました(別紙2参照)。そのうえで、JST 研究開発戦略センター(CRDS)が本年3月に公表した「政策形成における科学と政府の役割及び責任に係る原則試案」について解説しました(下記参照、詳細は別紙3を参照)。

政策形成における科学と政府の役割及び責任に係る原則試案
(CRDS、2012年3月)の項目

今後、同試案をたたき台として幅広い関係者・関係機関による議論が行われ、そうした議論を通して日本でも科学と政治・行政との関係に関するルールが熟成していくことが望まれます。全体的な原則のほか、分野の特性に配慮しつつ関係する各組織が独自の行動規範を定めることも期待されます。

本論説においてはまた、科学と政治・行政との間の適切な関係の構築は各国の緊密な連携のもとで行われるべきものであることを述べました。そうした取組みは、グローバル化した現在の世界において多様な課題を解決していくことに貢献するものと考えられます。

<添付資料>

別紙1:海外における最近の取組み

別紙2:日本における最近の動き

別紙3:CRDSの原則試案の内容

別紙4:今後の展望

<お問い合わせ先>

科学技術振興機構 研究開発戦略センター
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
有本 建男(アリモト タテオ) 、佐藤 靖(サトウ ヤスシ)
Tel:03-5214-7481 Fax:03-5214-7385
E-mail:

(英文)Publication of a Science article on the proper relations
between science and the government in policy making and implementation