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科学技術振興機構報 第864号

平成24年3月13日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)
URL http://www.jst.go.jp

画期的なアンチエイジング化粧品(原料)を創製・販売するベンチャー企業設立
(JST 研究成果最適展開支援事業(A−STEP)の研究開発成果を事業展開)

JSTは産学連携事業の一環として、大学・公的研究機関などの研究成果をもとにした起業のための研究開発を推進しています。

平成21年度より京都大学に委託した研究開発課題「新規γ−グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)阻害剤によって引き起こされる細胞内コラーゲン産生の応用」(開発代表者:平竹 潤 京都大学 化学研究所 教授、起業家:松本 和男)では、全く新しいコンセプトに基づく画期的なアンチエイジング化粧品(原料)の創製を目指して研究開発に取り組んできました。この成果をもとに平成24年3月2日(金)、メンバーらが出資して「株式会社ナールスコーポレーション」を設立しました。

平竹教授は以前、アミノ酸(グルタミン酸)の誘導体注1)として設計・合成した化合物「ナールスゲン(GGsTopTM)」に強力なγ−グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)注2)の阻害作用を見いだし、選択的にGGsTopTMを作り出すことに成功しました。

今回、平竹教授は大阪市立大学 大学院生活科学研究科の小島 明子 准教授や湯浅 勲 名誉教授らとの共同研究により、そのGGsTopTMには、強力なGGT阻害活性とともに、皮膚線維芽細胞によるコラーゲンやエラスチン(コラーゲンとともに、皮膚のつや・張りを保つ重要なたんぱく質)の産生を促進する特性があることを発見しました。さらに、共同研究開発パートナーの株式会社ドクターシーラボにおける人でのモニタリングテストでも“保湿効果や肌弾力の向上とともに、適度なシワ改善効果”の発現が見いだされ、新しいタイプの“アンチエイジング化粧品(原料)”となり得ることが実証されました。また、安全性の面でも、化粧品として必要な所定の試験を完全にクリアし、商品名「ナールスゲン」として製造・販売することを決定しました。

今後の事業展開として、関連部門との連携・協業によりコスト面および製剤面での改良を図り、今後5年間で1億7000万円の売上げを目指し、世界市場にも深く浸透させていきます。さらに、薬用化粧品として展開するために、医薬部外品の許認可取得を目指します。これらの技術、情報蓄積により、医療への道も開いていく予定です。そのためには、限りなく大学など公的機関を含め、関連分野との連携、協業を推し進め、人々の「健やかな快い生活」に貢献することを目指します。

今回の企業の設立は、以下の事業の研究開発成果によるものです。

研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A−STEP) 本格研究開発ステージ 起業挑戦タイプ

研究開発課題 「新規γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)阻害剤によって引き起こされる細胞内コラーゲン産生の応用」
開発代表者 平竹 潤(京都大学 化学研究所 教授)
起 業 家 松本 和男(株式会社ナールスコーポレーション 代表取締役)
起業支援機関 吉田 秀之(公益財団法人 京都産業21 主幹)
研究開始年度 平成21年度(継続中)

A−STEPは大学・公的研究機関などで生まれた研究成果をもとに、実用化を目指すための幅広い研究開発フェーズを対象とした技術移転支援制度です。今回の「株式会社ナールスコーポレーション」設立により、JSTの「プレベンチャー事業」、「大学発ベンチャー創出推進」、「若手研究者ベンチャー創出推進事業」、およびA−STEPによって設立したベンチャー企業数は、119社となりました。詳細情報:http://www.jst.go.jp/a-step/

<開発の背景>

日本の化粧品の総売上げ(約1兆4000億円)や大手化粧品会社の売上高は、この数年、停滞あるいは下降気味ですが、アンチエイジング化粧品市場だけは堅実な成長を続けています。その背景には、消費者の商品選択動機が単なる有名ブランド指向ではなく、好ましい効能を実感できる「自分の肌に合う」実質適合型化粧品選びへと移行しつつあり、それに伴い、異業種(医薬品、食品、業界など)からの参入が著しいことが挙げられます。さらに、安全・安心と価格に加え、化粧品の効果が科学的に証明され(evidence−based cosmetics)、納得できる商品であるか否かを評価する機運が高まっています。

そのため、科学的な根拠に基づき、安心して使える化粧品(原料を含む)が創製できる大学発ベンチャーが時代の流れに沿ったものであり、確固たる科学的裏付けを持つ大学発の知的財産をアンチエイジング化粧品(原料)分野に展開し、その製造・販売会社設立を目指しました。

<研究開発の内容>

皮膚の張りやつや、弾力を保つために重要な線維状たんぱく質のコラーゲンやエラスチンは、皮膚真皮にあるヒト皮膚線維芽細胞によって作られます(図1)。GGsTopTMの作用は、その線維芽細胞に働きかけ、コラーゲンの生合成を約2〜3倍に促進させます(表1)。その効果は、肌に良いと言われるビタミンCの16倍にも上ります。また、ビタミンCとの相加効果も見られ、GGsTopTMがビタミンCとの併用により、さらに高いコラーゲン産生亢進作用を示すことが実証されました(表1)。しかも、ある一定量(約3倍)以上のコラーゲンを産生することはなく、適度な量のコラーゲン増大にとどまることは、コラーゲン産生が細胞自身のコントロール下にあることを示すものです。

それに加え、これまで注目度が低く、実際に発現を促す成分があまり報告されていなかったエラスチンの産生も、同時に1.5倍以上促進させ(図2)、また、HSP47(生合成されたコラーゲンが、三重らせんのコラーゲン線維に成熟するのを助けるたんぱく質)の合成も大きく促進します(図3)。その結果、単なるコラーゲンの産生促進のみならず、正しく成熟したコラーゲン線維が増え、重要な弾性線維であるエラスチンとともに、皮膚の張りや弾力、つやなどを保つと期待されます(後述のヒトモニター試験結果 図6図7図8図9参照)。

また、GGsTopTMには、紫外線暴露による活性酸素の生成を顕著に減少させ(図4)、皮膚の光老化を軽減する効果や、傷の治癒に重要な表皮の角化細胞の遊走・増殖促進効果も見いだされています(図5表2)。これらの特性は、紫外線による肌の光老化を抑えるばかりでなく、皮膚のターンオーバーを促し、紫外線で傷ついた細胞の新陳代謝を促すことで、例えば、紫外線により生じたメラニン色素の排出を早め、真皮のコラーゲンが作る膠原線維(こうげんせんい:堅い線維)とエラスチンが作る弾性線維(しなやかな線維)によって肌弾力を回復させることで、肌のシミやくすみを取り去り、みずみずしい肌を再生させる相乗的な効果が期待できます。

さらに、ヒト線維芽細胞に対しては、1mMの高濃度(コラーゲン産生促進を引き起こすのに必要な濃度の1000倍)においても、何ら細胞毒性を示さず、GGsTopTMは、安全で、皮膚を健全かつ若々しい状態に保つ「アンチエイジング効果」を複合的に発揮する好ましい特長を備えていることが分かりました。

人でのモニター試験では、GGsTopTMを含有する化粧水の2ヵ月連用により、角質水分量が顕著に増大し(図6)、また、肌弾力も向上しました(図7)。すなわち、細胞レベルでのコラーゲン、エラスチンの産生促進と対応する有用性が、人でのモニター試験でも実証されたことになります。

また、GGsTopTMは、人でのモニター試験において、既存のアンチエイジング剤(抗しわ剤)として広く使われている合成ペプチドと比較しても、勝るとも劣らない成績を示し、非常に有用なアンチエイジング化粧品原料であることが分かりました。

GGsTopTMは、科学的根拠に基づいて作用機序が解明された数少ない「アンチエイジング化粧品成分」です。GGsTopTMはGGTを選択的に阻害し、その結果、天然の抗酸化物質であるグルタチオンを生合成するのに必要なシステインを細胞に供給できなくすることで細胞のグルタチオン量を減少させます。その結果として、細胞内の活性酸素種がわずかに増え、その酸化ストレスを細胞が察知することで、通常は眠っている抗酸化ストレス応答のスイッチをONにし、あらゆる酸化ストレス対抗手段(抗酸化ストレス応答酵素群、サイトカイン類)を立ち上げ、コラーゲンやエラスチン産生の促進を含む、一連の「アンチエイジング」作用を発揮するものです。すなわち、GGsTopTMは、細胞に軽い酸化ストレス(警告)を与え、細胞がもともと備えている防御機構を目覚めさせることにより、細胞自身が抵抗力や回復力を発揮するきっかけを作る、一種の「ワクチン」のような作用を持っています。つまり、化合物が直接的なアンチエイジング活性を持っているわけではなく、細胞自身が本来持っている抵抗性や回復力を引き出すための脇役に徹しているからこそ、細胞にとっては何一つ有害な作用を及ぼさないと考えられます。

安全性に関しては、日本化粧品工業連合会の化粧品安全性評価の指針に基づき、9項目の安全性試験を実施し、全てにおいて陰性(毒性・刺激性なし)であることを確認しました。さらに、微生物を使った変異原性試験(Amesテスト)による変異原性や、動物細胞を用いた染色体異常も認められず、発がん性はありませんでした。

また、株式会社ドクターシーラボでの3ヵ月間にわたる3回の人でのモニター実験(顔肌に塗布)でも、肌荒れや健康トラブルなどは全く見られませんでした。現在までに、細胞レベル、動物実験、人でのモニターテストのいずれにおいても、不都合な毒性、刺激性、副作用などは全く認められていません。

<今後の事業展開>

以下の諸事項を実践することにより、持続可能で健全な企業を構築し、化粧品業界および関連業界、さらに最終的には国民の「健やかさと快さ」への貢献を目指します。

今後、特許防衛などを含め、研究開発体制の一環としても両大学と設立会社とは密な連携を取りながら、産学連携を推進していきます。

<参考図>

図1

図1 皮膚の構造とコラーゲン

真皮の線維芽細胞がコラーゲンやエラスチンを作り出し、皮膚を内側から支える堅い線維や柔軟な線維を形成し、皮膚の張りやツヤを維持します。線維芽細胞の働きが衰えると、コラーゲンやエラスチンの量が減少し、肌の弾力性が低下する結果、肌のタルミやシワが増加します。

表1

表1 GGsTopTM(ナールスゲン)によるコラーゲン産生亢進とビタミンCの作用

GGsTopTM(ナールスゲン)は、健康な肌の維持に必要なビタミンCの1/10以下の濃度で、皮膚細胞のコラーゲン産生を約2倍に増強させ、さらに、ビタミンCとの相加効果も見られた。すなわち、ビタミンCとの併用により、さらに高いコラーゲン産生亢進が期待される。

図2

図2 エラスチンの産生促進効果

エラスチンは、堅いコラーゲン繊維(膠原繊維)を支える役割を担う柔軟な線維(弾性線維)で、肌の弾力を維持する非常に重要なたんぱく質。皮膚や血管に多く含まれ、年齢とともに減少しシワの原因となる。

図3

図3 HSP47の産生促進効果

HSP47は、コラーゲンが正しい三重らせん線維を作る過程に必要なたんぱく質で、また、線維芽細胞で生合成されたコラーゲンを細胞外に運び出す役割も担う。線維芽細胞の活性化(コラーゲンやエラスチンを盛んに作り出す)の指標ともなり、HSP47の発現量が多いと、線維芽細胞が元気に活動していることを示す。

図4

図4 GGsTopTMによる過酸化水素(H)の産生抑制作用

細胞に紫外線が当たると、光化学反応により、細胞内に活性酸素を生じる。GGsTopTMを低濃度与えた線維芽細胞では、この活性酸素(この場合、過酸化水素Hで測定)の生成を顕著に抑制する。そのため、紫外線による肌の光老化を抑える働きが期待できる。

図5

図5 ヒト角化細胞の増殖促進作用

表皮を構成している角化細胞に、低濃度のGGsTopTMを与えると、細胞が活発に動き回り、増殖が盛んになる。その結果、細胞をはぎ取った溝(スクラッチ幅a、bで表示)が早く埋まる。表皮の角化細胞の増殖は、傷の治癒に関係しているため、ひび、あかぎれ、切り傷などの創傷治癒効果が期待できる。

表2

表2 ヒト角化細胞の増殖促進作用

GGsTopTMを与えた角化細胞は、与えた濃度に応じて活発に動き回り、増殖が盛んになる結果、培養細胞を物理的にはぎ取った溝幅が7割も早く埋まる。

図6

図6 GGsTopTM 含有化粧水による肌の角質水分含量の改善

ヒトモニター試験の結果、GGsTopTMを0.005%含有する化粧水を2ヵ月使い続けると、肌の角質水分含量が顕著に増大する。すなわち、みずみずしい肌を作ることに役立つ。

図7

図7 GGsTopTM含有化粧水による肌弾力の向上

ヒトモニター試験の結果、GGsTopTMを0.005%含有する化粧水を1〜2ヵ月使い続けると肌弾力が大きく増加する。これは、細胞レベルの実験で示された、コラーゲンやエラスチンの増加を裏付ける結果である。GGsTopTMは張りやつやのある肌を作り、タルミや小じわの解消に役立つことが期待される。

図8

図8 人でのモニター試験による、(A)角質水分含量の経時変化と(B)肌弾力改善の経時変化

被験者:30代〜50代の一般女性 10名、3ヵ月連用
GGsTopTM:10μM、合成ペプチド3%を含む化粧水との比較
プラセボ:化粧水のみ

GGsTopTMを0.005%含有する化粧水を1〜3ヵ月使い続けると、市販の抗しわ剤(合成ペプチド)と比べても、勝るとも劣らない効果があった。プラセボは、「偽薬」のことで、有効成分が何も入っていない化粧水。心理効果を排除し、正確な効能を調べるため、いずれの実験も、実験者および被験者ともに、使用しているサンプルに何が入っているかは知らされていない(二重盲検テスト)。

図9

図9 人でのモニター試験による、しわスコアの比較(3ヵ月連用後)

GGsTopTM:10μM、合成ペプチド3%を含む化粧水との比較
プラセボ:化粧水のみ

GGsTopTMを0.005%含有する化粧水を3ヵ月使い続けると、小じわが大きく減少し、市販の抗しわ剤(合成ペプチド)と比べても、勝るとも劣らない効果があった。プラセボは「偽薬」。実験はいずれも二重盲検テストによる結果。

<用語解説>

注1) 誘導体
ある化合物の構造を少し変え、異なる物性や生理活性を付与した類似化合物。基本構造はもとの化合物と似ているが、保護基を付けたり、官能基を変えたりして、化合物の特性に変化を持たせた類似物。
注2) γ−グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)
生体内で、活性酸素や重金属など有害物質の除去に重要な役割を担っているグルタチオン(γ−グルタミルシステイニルグリシン:γ−Glu−Cys−Gly)の代謝分解の第一段階を担う重要な酵素。システインを構成成分とするグルタチオンは、生体内ではシステインの貯蔵体としても機能しており、GGTの作用によって分解されることでシステインを生じ、これが細胞に取り込まれて、新たなグルタチオンを生合成する原料に使われる。従って、GGTを阻害することは、グルタチオンの分解を抑えて抗酸化ストレスに寄与するばかりでなく、細胞にシステインが供給できなくなる結果、細胞内のグルタチオン濃度が減少するという相反する二面性を持ち、その生理学的意義は複雑である(諸刃の剣)。また、GGTは、γ−GTPとも呼ばれ、肝機能(アルコール性肝疾患など)のマーカー酵素として、人間ドックの検査項目ではおなじみの酵素である。ただし、肝疾患があると、なぜ血中のGGTレベルが上昇するか、その理由ははっきりとは分かっていない。

参考:<企業概要、ほか>

<お問い合わせ先>

<開発内容に関すること>

京都大学 化学研究所 生体触媒化学研究領域
〒611-0011 京都府宇治市五ケ庄
平竹 潤(ヒラタケ ジュン)
Tel:0774-38-3231
E-mail:

株式会社ナールスコーポレーション
〒615−8245 京都府京都市西京区御陵大原1−39 京大桂ベンチャープラザ南館2203号室
松本 和男(マツモト カズオ)
携帯番号:090-9626-2065
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

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