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科学技術振興機構報 第796号

平成23年5月9日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)
URL http://www.jst.go.jp

フレキシブル薄型人感センサーを実用化するベンチャー企業設立
〜環境にやさしく、広く応用可能なセンサーの実現へ〜

(JST大学発ベンチャー創出推進の研究開発成果を事業展開)

JST(理事長 北澤 宏一)は産学連携事業の一環として、大学・公的研究機関などの研究成果をもとにした起業のための研究開発を推進しています。

平成20年度より神戸大学に委託した研究開発課題「高品質な有機強誘電性薄膜作製における標準化技術の開発」(開発代表者:石田 謙司 神戸大学 大学院工学研究科 准教授、起業家:堀江 聡)では、環境にやさしい柔軟なフィルム状の赤外線センサーの開発に成功しました。この成果をもとに平成23年4月19日(火)、メンバーらが出資して「株式会社センサーズ・アンド・ワークス」を設立しました。

このフィルム状の赤外線センサーは、人が放射する1〜10μm(マイクロメートルは1メートルの100万分の1)帯の赤外線を検知して、人の存在や動き、移動方向を把握します。従来の赤外線センサーは、鉛を含有するセラミック系材料を素子として用いたものが主流でした。しかし、鉛は生物が過剰摂取すると中毒症状を引き起こして生態系に悪影響を及ぼすことや、多方向同時検知には大きな赤外レンズが複数個必要で構造が複雑となり小型化が困難なことから、鉛を含まない、小型・薄型の柔軟なフィルム状の赤外線センサーが望まれています。

石田 謙司 准教授を中心とする本研究開発チームは、これまで蓄積してきた有機強誘電体注1)の薄膜作製におけるナノ構造制御技術および素子化技術を活用して、柔軟なフィルム状の赤外線センサーアレイ(1枚のフィルム上に複数のセンサーを集積化したもの)の量産手法を確立することに成功しました。

本製品は、EUの特定有害物質の規制であるRoHS指令注2)に適合するため、環境にやさしい素材で、住宅・店舗やロボット、情報家電、健康器具などに外観を損なわずに組み込むことができる人感センサーなどとしての実現が期待されます。

今後の事業展開として、まずはコア製品技術を普及させるために少量製造・販売を通じた共同研究開発を進めながら、大学において信号処理能力などを併せ持つモジュールの開発・システム化を進め、顧客の多様なニーズに応えて安全安心で快適な社会実現に貢献することを目指します。

今回の企業の設立は、以下の事業の研究開発成果によるものです。

独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進

研究開発課題 「高品質な有機強誘電性薄膜作製における標準化技術の開発」
開発代表者 石田 謙司(神戸大学 大学院工学研究科 准教授)
起業家 堀江 聡(神戸大学 大学院工学研究科 特命助教)
起業支援機関 孝本 浩基(京都高度技術研究所)
研究開始年度 平成20年度(継続中)

独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進では、大学・公的研究機関などの研究成果をもとにした起業および事業展開に必要な研究開発を推進することにより、イノベーションの原動力となるような強い成長力を有する大学発ベンチャーが創出され、これを通じて大学などの研究成果の社会・経済への還元を推進することを目的としています。今回の「株式会社センサーズ・アンド・ワークス」設立により、JSTの「プレベンチャー事業」および「大学発ベンチャー創出推進」によって設立したベンチャー企業数は、111社となりました。本事業は、現在、「研究成果最適展開支援プログラム【A−STEP】」に発展的に再編しています。

詳細情報:http://www.jst.go.jp/a-step/

<開発の背景>

現在、防犯・防災、医療・福祉、省エネ、環境監視、産業、アメニティーなど多様な分野でのセンシング技術注3)の活用によるユビキタスセンサーネットワーク注4)の実現がなされつつあります。特に、人の動きや位置検出といった人と機械のコミュニケーションを仲介する赤外線センサーは、住設・家電の高付加価値化、省エネ化の一翼を担うものとして新規市場を創出し始めています。

しかしながら、こうしたホームユース分野での従来の赤外線センサー素子では環境負荷物質とされる鉛が使われ、センサー素子の形を自由に作りにくいことから住設・家電のデザインが制限され、市場ニーズに十分に応え切れていませんでした。

そのため、ホームユース市場分野において、センサー素子の形状にとらわれない、住設・家電、セキュリティー機器、楽器、アミューズメント機器やその他日用品に自由に組み込み可能なセンサーの創出が期待されています。

<研究開発の内容>

石田准教授らのチームは、環境低負荷物質である有機強誘電体を用いた焦電型赤外線センサー注5)に関する基礎研究を通じて、ナノ構造制御された強誘電素子作製技術を確立しました。高温プロセスが必要な無機強誘電体では困難であったフィルム基板へのセンサー形成を可能とするとともに、真空蒸着を応用したパターンニングと緻密な構造制御を実現することで、均一な品質を確保した量産化技術を達成しました。デバイスとしては、柔軟なフィルム状の基材の上に素子構造を作製することにより、図1aに示すような曲げることのできるセンサー素子を実現しました。これにより住設・家電などのデザインに合わせて容易に組み込むことができる赤外線センサーができます。さらに、有機焦電素子作製の豊富なノウハウを活用し、レンズ一体型のアレイモジュール(Radial IR Scanner)を開発しました(図1b)。これは、個別にレンズを搭載したセンサー素子を並べたアレイ型であるため、人や物の動く方向の検知ができるとともに、モジュールの柔軟性を生かし、センサーフィルムを曲げて検知したい空間にレンズを向けることで検知エリアの設定が可能です。形状としても特殊レンズの個別配置により薄型化が可能です。将来は、柔軟なフィルム状の素子のパターンニングにより、200μmサイズの素子を一次元アレイ化することも可能であるため、非接触での機器操作など、携帯端末、AV機器への搭載も期待できます。

このように、より生活に密着した利便性・商品融合をキーワードにしたセンサーの開発(図2)を目的とし、材料開発・生産技術・商品開発を一元化したものづくりを実現し、事業化に結びつけることができました。

<今後の事業展開>

今後の事業展開として、まずは有機材料の特性を生かしたフレキシブルセンサーアレイをもとに、薄型・広視野・高分解能センシング技術を広く提供していきます。さらに人感センシング用途を中心に、センサーフィルムと顧客商品との融合や、信号処理技術や通信技術などの周辺技術を取り込み、センサーネットワーク化などにも対応できるモジュール商品開発(図3)を進め、安心安全で快適な社会実現に貢献します。

<参考図>

図1

図1 作製したセンサーフィルム

a)は18mm×18mm、厚み25μmのフィルム上に10個の素子を配したアレイモジュール(Radial IR Scanner)。 b)はレンズを伴った5個の素子からなる一次元アレイで方向検知、視野角コントロール可能な人感センシングモジュール。

図2

図2 開発した人感センシングアレイモジュール(Radial IR Scanner)の特徴と用途

図3

図3 本技術の応用事例

a)は「人の方向検知を利用したシステム」で、通路に配したアレイセンサーによって照明や空調などを最適な室内環境で提供する。 b)は「非接触入力デバイス」で、手などのジェスチャー動作をアレイセンサーで検知してディスプレイ操作を行う。

<用語解説>

注1) 強誘電体
自発分極を有し、外部からの電界によって分極の向きを変化できる誘電体。強誘電体は温度変化によって分極変化を示す焦電性と外部圧力によって分極変化を示す圧電性との双方の性質を併せ持つ。
注2) RoHS指令
欧州連合(EU)において、2003年2月13日に公布、2006年7月1日より施行された「電気・電子製品での特定有害物質使用を制限する」指令。特定有害物質として電気・電子製品に含まれる鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB(ポリ臭化ビフェ二ール)、PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)の6種類が使用制限対象となっている。
注3) センシング技術
ある物理量、化学量の変化を測定可能な電気・光信号に変換し、その状態変化を検出する技術。例えば、温度、光、変位、電位、電流、成分などの変化を検出する。人間の五感に相当する機能であり、測定対象の状態に影響を与えず、高感度かつ高速応答であることが好ましい。
注4) ユビキタスセンサーネットワーク
複数のセンサーからの自立的な情報流通に基づき、最適なサービスを提供できるインフラストラクチャーをいう。一例として、在宅患者の健康管理や交通情報、ホームセキュリティなどがある。
注5) 焦電型赤外線センサー
焦電素子を用いた赤外線センサー。分極成分を有する誘電体からなる焦電素子は、赤外線を受けた時に、分極変化により電気的応答をするので、その性質を利用している。光源を必要としないパッシブ型で他方式の赤外線センサーよりも構造が簡便で、高感度化が可能である。

参考:<企業概要、ほか>

<本件お問い合わせ先>

株式会社センサーズ・アンド・ワークス
本社:〒600-8813 京都府京都市下京区中堂寺南町134番地
財団法人 京都高度技術研究所8A15
事業所:神戸大学 VBL棟303号室(平成23年6月開所予定)
堀江 聡(ホリエ サトシ)
Tel:078-803-6679 Fax:078-803-6679
E-mail:

独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 産学連携展開部
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
加藤 豪(カトウ ゴウ)、廣田 昭治(ヒロタ ショウジ)
Tel:03-5214-0016 Fax:03-5214-0017