戦略目標:「社会的ニーズの高い課題の解決へ向けた数学/数理科学研究によるブレークスルーの探索(幅広い科学技術の研究分野との協働を軸として)」
研究領域:「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」
研究総括:西浦 廉政(北海道大学 電子科学研究所 教授)
氏名 | 所属機関 | 役職 | 研究課題名 | 研究型 | 研究 期間 |
研究課題概要 |
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石川 博 | 名古屋市立大学 大学院システム自然科学研究科 | 准教授 | 非記号計算の基礎理論の構築と構造学習への応用 | 通常型 | 3年 | 昨今増加が著しい画像や映像、各種計測データなどのアナログ情報で表される現実の世界と、インターネットに代表され、デジタル記述されるサイバー世界における情報の概念の間に橋渡しをすることを目指します。そのために構造一般を記述する基本である計算の概念を非記号空間内に直接表現し、複雑な構造を持つ情報一般を統一的に扱う理論を構築します。また画像などの高次元データ中にパターンを見つけることへの応用を目指します。 |
一宮 尚志 | 京都大学 大学院理学研究科 | 特定研究員(グローバルCOE) | 数学を応用した動力学シミュレーション法の開発 | 通常型 | 3年 | 現在分子動力学シミュレーションは物理、化学、生物、医学など多くの分野において不可欠な研究ツールとなっていますが、同時にいくつかの限界にも直面しています。中でも、非常に短い時間のダイナミクスしか計算できないという問題は、多くの応用において深刻な欠点となっており、解決法が模索されています。本研究では、分子動力学系を1つの力学系と捉え、特に遷移ダイナミクスの数学的構造を解析することにより新しい動力学シミュレーション法の開発を目指します。 |
伊藤 公人 | 北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター | 准教授 | インフルエンザウイルスの遺伝子変異に内在する数学的構造の探求 | 通常型 | 3年 | 本研究では、インフルエンザウイルスの遺伝子変異に内在する数学的構造を探求し、インフルエンザウイルスの変異を予測する手法を開発することを目的とします。情報科学・数学・生命科学が協働し、過去に流行したインフルエンザウイルスの遺伝子配列を大規模に解析し、将来の変異を予測する数理モデルを構築します。そして、数理モデルの予測する変異と実際に起こる変異を比較し、予測の精度を明らかにします。 |
川北 素子 | 滋賀医科大学医学部 | 准教授 | 符号・暗号のための代数曲線論 | 通常型 | 3年 | 近年情報通信分野が目覚しく発展しており、インターネット、携帯電話など各種サービスに不可欠な基盤技術が符号・暗号理論です。1970年に代数幾何符号、1985年に楕円曲線暗号が考案され、代数曲線論が大変有用なことが判明しました。しかし応用に必要な有限体上の代数曲線について未知な部分が多く残されています。本研究では、符号・暗号の視点から、代数曲線のさまざまな性質を解明し、安全・安心で効率のよい情報通信社会に貢献することを目指します。 |
北畑 裕之 | 千葉大学 大学院理学研究科 | 講師 | 非平衡系における界面張力の数理物理学 | 通常型 | 3年 | 界面張力に関する研究は古くから進められており、時間的に変化せず一様な系における界面張力の理解はすでに完成されています。ところが、系が時間変化したり空間的に非一様である場合の界面張力を理解する枠組みは未完成です。本研究では、界面での物質輸送実験の詳細な解析ならびに、流体力学としての界面張力についての議論によって、時間変化したり空間的に非一様な場合の界面張力を取り扱える数理・物理の構築を目指します。 |
斉藤 朝輝 | 公立はこだて未来大学 システム情報科学部 | 准教授 | 真軌道によるシミュレーションの実現とその応用 | 通常型 | 3年 | コンピューターを使ったシミュレーションは、科学の発展に欠かせないだけでなく、工業製品の設計や天気予報・自然災害の予知などで幅広く使われており、現代社会を支える基盤技術となっています。本研究では、コンピューターで正確に実行できる整数演算のみを用いて、数値誤差の入らない新しいシミュレーション方法を確立し、さらに、それを物理などの諸分野で現れるカオス現象のシミュレーション解析に応用することを目指します。 |
坂上 貴洋 | 九州大学 理学研究院 | 助教 | 揺らぐ結び目構造の数理 | 通常型 | 3年 | DNA、蛋白質など生体高分子の機能発現において、トポロジー効果が重要となる例は枚挙に暇がないが、これを系統的に解析する理論的基盤は未発達です。本研究では、結び目理論とその他の数理科学分野との協働により、揺らぐ結び目構造の数理的記述を構築し、そこに見られる普遍的性質を明らかにします。紐状分子に内在するトポロジー効果の研究における結び目理論の新たな可能性を追求し、基礎、応用の両面から飛躍的発展を図ります。 |
田村 隆志 | 大阪大学 大学院基礎工学研究科 | 助教 | 非線型マクロ経済モデルのためのフレームワークの構築 | 通常型 | 3年 | 動学的確率一般均衡(DSGE)モデルと呼ばれる非線型マクロ経済モデルを、数学的に厳密に扱うためのフレームワークの構築を目指します。現在のマクロ経済学では導出されたDSGEモデルを解析する際に、定常状態の近傍で線型化してから解析を行っています。このような手法は強い非線型性を持つモデルを解析する際には適用することが出来ません。本研究では、そのような非線型性の強い DSGE モデルの解析手法と数値計算法を確率制御理論を用いて確立することを目指します。 |
寺前 順之介 | (独)理化学研究所 脳科学総合研究センター | 基礎科学特別研究員 | 非線形情報理論:環境雑音を活用する次世代情報処理の実現 | 通常型 | 3年 | 私たちの脳では、不規則で確率的な神経細胞が集まり、極めて高度な情報処理を安定して実現しています。その理解には、不規則で確率的な信号が、脳の非線形ダイナミクスにどう影響するかを解明する新たな数理科学が必要不可欠です。本研究では、この数学を構築し、揺らぎを積極利用する次世代情報処理の原理を解明します。さらに工学的なデバイス開発とも連携して脳型情報処理の実現を目指します。 |
浜野 正浩 | (独)沖縄科学技術研究基盤整備機構 数理生物学ユニット | 研究員 | 情報論理学の新パラダイムがもたらす生物現象の計算構造の解明 | 通常型 | 3年 | 本研究では、21世紀に入って明らかになりつつある計算論理学に対する新しいパラダイムを用いて、生物・生命現象に潜む計算的性質を解明します。具体的には、RNA干渉などの遺伝子制御構造に潜在する計算構造をπ計算や微分可能λを用いて表現し、その制御構造を解明します。さらに生物学的フィードバックの表現を通してそのダイナミズムを明らかにします。これらの論理学と生物学のインタラクションを通じて、新しい計算モデルを自然現象の中で構成・実現します。 |
水口 毅 | 大阪府立大学大学院工学研究科 | 講師 | 力学系における不安定対称解の探査と制御の新展開 | 通常型 | 3年 | コインを投げると、表か裏の面が出ますが、他にちょうど立っているものを考えることもできます。この直立したコインは,ちょっとゆらぎを加えるだけで倒れてしまうことから、不安定であるといいます。しかし、この不安定なコインは、表が出るか裏が出るかのちょうど真ん中であり、コインの運動を考える上で重要な役割を果たしています。このように不安定だが重要な役割を果たすものを見つけ、その活用方法の創出を目指します。 |
溝口 紀子 | 東京学芸大学教育学部 | 准教授 | 非線形放物型方程式の解の爆発とその応用 | 通常型 | 3年 | 非線形放物型方程式の解の爆発を新しい視点から数学的に研究し、それを他分野の研究に応用することを目指します。ここで扱うテーマは既存の「解の爆発」とは大きく異なります。これまでのほとんどの研究では爆発時刻までの挙動を対象としていたが、本研究では解の爆発後も弱解として延長できるような不完全爆発を扱います。実験や観測で現れる現象を不完全爆発として捉えることが出来れば他分野への新しい応用が期待されます。 |
(五十音順に掲載)
<研究総括総評> 研究総括:西浦 廉政(北海道大学 電子科学研究所 教授)
本研究領域は、数学研究者が社会的ニーズの高い課題の解決を目指して、諸分野の研究者と協働し、ブレークスルーの探索を行う研究を対象とするものです。
数学は全科学を推進してゆく最も大きな駆動力であると同時に、多くの国民に理解され、身近なものとして歩んでゆかなくてはなりません。そのためにこれまで以上に諸分野とつながる開かれた重要な知として大きな期待が寄せられています。とりわけ「孤立した知からつながる知」を切り開く先駆的研究は次世代の数学を形成するひとつの契機となると考えられます。そのために諸分野の研究対象である自然現象や社会現象に対し、数学的手法を応用するだけではなく、それらの数学的研究を通じて新しい数学的概念・方法論の提案を行うなど、数学と諸分野との双方向的研究を重視する研究が対象となります。これらが中長期的には、人類が抱える多くの困難かつ複雑な問題の解決の糸口となると考えられます。
平成21年度のさきがけ(個人型研究)の公募は若手研究者を中心として総数73件の応募がありました。これまで以上に数学のみならず諸分野の研究者による数学を要とする分野横断的提案がなされ、裾野の広がりを感じさせるものとなりました。
提案課題は符号理論、力学系、金融・経済問題から情報通信、統計、非線形物理、さらには感染症問題と幅広い応募があり、また広い意味での生命科学に関わる課題も多く見られました。いずれも国内外の第一線で活躍されている優秀な研究者の提案で、前年度と同様にさまざまな分野とのつながりを意識し、新たな切り口を開拓しようとする意欲的な提案が数多くありました。これらの研究提案を10名の領域アドバイザーの協力を得て、厳正に書類選考を行い、特に優れた研究提案23件に対して面接選考を行い、最終的には12件(内女性研究者2名)を採択するに至りました。選考に当たっては、応募課題の利害関係者の選考への関与を避け、他制度の助成金なども留意し、公平・厳正に行いました。書類・面接選考に際しては、研究の構想、計画性、課題への取り組みなどの観点のほか、諸分野とのつながりを具体的にどのように実現させうるのか、その姿勢や他の助成金などではできない斬新な取り組みを重視いたしました。面接選考で採択されなかった提案、また書類選考の段階で面接選考の対象とならなかった提案の中にも、重要な提案や独自性の高い提案が数多くありました。ただ、数学と諸分野との関連が明確でなく、開拓精神が乏しいものは不採択としました。このさきがけ(個人型研究)が、数学と諸分野をつなぐインターフェイスとなる人材の育成にも寄与することを強く期待しています。