JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第666号資料2 > 研究領域:「革新的次世代デバイスを目指す材料とプロセス」
資料2

平成21年度 戦略的創造研究推進事業(さきがけ)
新規採択研究者および研究課題概要

戦略目標:「新原理・新機能・新構造デバイス実現のための材料開拓とナノプロセス開発」
研究領域:「革新的次世代デバイスを目指す材料とプロセス」
研究総括:佐藤 勝昭(東京農工大学 大学院工学府 特任教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
海住 英生 北海道大学 電子科学研究所 助教 スピン量子十字素子を用いた新規な高性能不揮発性メモリの創製 通常型 3年 高度情報化社会の発展に伴い、メモリデバイスの更なる高集積化・低消費電力化が要求されています。この要求を満たすためには、従来にない革新的なデバイスの創製が必要となります。本研究では、強磁性薄膜のエッジとエッジの間に有機分子を挟んだ強磁性体/有機分子/強磁性体スピン量子十字素子を提案し、これにより全く新しい動作原理で駆動する高抵抗変化率、低電流密度を兼ね備えた新規不揮発性メモリデバイスの創製を目指します。
組頭 広志 東京大学 大学院工学系研究科 准教授 ナノキャパシタ構造を用いた低環境負荷メモリの開発 通常型 3年 不動態を形成する金属と酸化物との界面酸化還元反応により自然形成されるナノキャパシタ構造を利用して、高性能と低環境負荷が両立した抵抗変化型不揮発性メモリ(ReRAM)の実現を目指します。そのために、本研究では酸化物エピタキシー技術と放射光による界面解析技術を駆使して、高クラーク数元素のみで構成されるナノキャパシタ構造ReRAMの特性制御法・作製プロセス法を確立し、環境負荷の低い不揮発性メモリに向けた開発を行います。
高橋 和 大阪府立大学21世紀科学研究機構 特別講師 フォトニック結晶ナノ共振器シリコンラマンレーザーの開発 通常型 3年 究極的な微小サイズと世界一のQ 値を持つフォトニック結晶ナノ共振器を用いて既存技術の常識を覆す極微小・超省電力Siラマンレーザー素子を実現します。このデバイスは省電力・メタルフリーといった環境ニーズに加え、高密度集積・光通信帯動作・既存LSI技術との整合性といった利点を持っています。そのため次世代高速コンピューターや光通信に必要とされるLSIチップ光配線や全光ネットワーク技術のキーデバイスになると期待されます。
冨岡 克広 北海道大学 大学院情報科学研究科 博士研究員 Si/III-V族半導体超ヘテロ界面の機能化と低電力スイッチ素子の開発 通常型 3年 従来のMOSFETの原理で超えることができない理論限界の壁を、新しい動作原理のスイッチ素子で乗り越えます。具体的には、シリコンとIII-V族化合物半導体をナノスケールの結晶成長技術で接合し、欠陥のない理想的な接合界面(超ヘテロ界面)を作製します。そして、その界面で生じるバンド不連続性を利用し、低電力で駆動するスイッチ素子の開発を行います。
中野 幸司 東京大学 大学院工学系研究科 助教 分子配列制御による有機トランジスタの高性能化 通常型 3年 有機電界効果トランジスタは、次世代有機エレクトロニクスにおけるスイッチング素子として必要不可欠です。本研究では、電荷輸送を担うユニットとしてヘテロアセンに着目し、それらを高秩序に配列させることで電荷移動度を飛躍的に向上させます。具体的には、有機化合物の特徴を最大限に生かした溶液プロセスによる素子作成に適用可能な分子へと進化させ、実用的次世代有機トランジスタ用半導体材料を開発することを目指します。
中村 浩之 大阪大学 大学院基礎工学研究科 特任助教 誘電体トランジスタを用いたスピン操作 通常型 3年 誘電体中の電子スピンの方向を電気的に操作する手法を構築します。誘電体としては「スピン・軌道相互作用」という性質が非常に大きい「5d遷移金属元素」を含む材料を使い、シリコンなど通常の半導体では実現できないスピン機能を得ることを狙いとします。大きな目標として、誘電体中を流れる電子スピンの方向をゲート電界により数10nmで回転できる「ナノチャネル・スピントランジスタ」という、次世代型の論理回路の実現を目指します。
西永 慈郎 早稲田大学 理工学術院 助教 有機・無機半導体ヘテロ構造を用いた新規デバイスの開発 通常型 3年 フラーレンにⅢ-Ⅴ族化合物半導体で培われた結晶成長・評価法を応用し、有機・無機半導体へテロ界面の構造制御を行い、電子デバイスへの応用展開を行います。具体的には有機半導体結晶成長の動的観察法を発展させ、結晶粒界のない高移動度有機薄膜を製作します。また、C60・多価金属複合体による大気中で安定動作する太陽電池と、C60分子を添加したGaAs結晶による省電力高速トランジスタや高密度メモリの開発を行います。
野口 裕 千葉大学 先進科学センター 助教 光制御型有機単一電子デバイスの開発 通常型 3年 本研究では、省エネルギー性と高機能性を併せ持つ「光制御型有機単一電子デバイス」を新たに提案し、その機能を実証します。デバイスは有機分子により光機能性を付与されたナノスケール金微粒子と超微細電極(ナノギャップ電極)から成り、アナログ・デジタル変換器や多機能論理回路素子に応用できます。有機分子の高度な光機能性を利用し、複雑な情報処理機能を一素子に集約させた次世代デバイスの構築を目指します。
野田 優 東京大学 大学院工学系研究科 准教授 各種ナノカーボン構造体の自在実装 通常型 3年 カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェンは、優れた電荷移動度と電流耐性から半導体集積回路の次世代材料として期待されますが、その実用化には製造/実装プロセスの階層的な開発が鍵となっています。本研究では、独自のコンビナトリアル手法を援用した分子構造・自己組織化形態制御により、二層グラフェン半導体層、多層CNT縦配線、多層グラフェン横配線など、多様なナノカーボン構造体を自在に実装する技術基盤を構築します。
東脇 正高 (独)情報通信研究機構 新世代ネットワーク研究センター 主任研究員 III族酸化物/窒化物半導体複合構造の界面制御とデバイス応用 通常型 3年 近い将来、窒化ガリウム(GaN)はシリコンと並び半導体電子デバイス材料の中核を担うと予想されます。今後GaNトランジスタを新たな応用分野に利用拡大していくためには、高品質な絶縁膜が必須であります。本研究ではⅢ族酸化物をその有力候補として着目し、超高真空中での連続製膜により外的な要因を排除した理想的な酸化物/窒化物複合構造を作製し、系統的な解析により、GaNトランジスタの性能向上ならびに新展開を目指します。
町田 友樹 東京大学 生産技術研究所 准教授 グラフェン量子ドットを用いた新機能素子の実現 通常型 3年 グラフェン(単層グラファイト)はディラックフェルミオンと呼ばれる相対論的粒子が電気伝導を担い、極めて特異な物性を示します。本研究提案では、既存の材料系では不可能な室温動作新機能素子の実現を目指します。具体的には、1室温において単一電子トランジスタとして動作するグラフェン量子ドット素子の作製、2グラフェンを利用した超高感度THz電磁波検出の実現、3グラフェン量子ドットにおけるスピン伝導制御の実現を目指します。
山本 浩史 (独)理化学研究所 基幹研究所 専任研究員 電子相関を利用した新原理有機デバイスの開発 通常型 3年 有機デバイスは近年フレキシブルエレクトロニクス材料として注目を集めていますが、その動作速度や安定性についてはまだ改良の必要があります。そこで、本研究では化合物型有機半導体、その中でも電子間のクーロン反発のために通常の半導体や金属では起きないような現象が見られる強相関物質に特に注目し、強相関物質ならではの特性を生かした高性能トランジスタ・有機太陽電池の開発を目指します。

(五十音順に掲載)

<研究総括総評> 佐藤 勝昭(東京農工大学 大学院工学府 特任教授)

本研究領域は、CMOSに代表される既存のシリコンデバイスを超える革新的な次世代デバイスの創成を目指す新しい材料の開拓およびプロセスの開発を目的として、平成19年度から募集を開始しました。初年度はスピントロニクスの分野を中心に108件の応募があり、11件を採択しました。昨年度は、採択が少なかったワイドギャップ半導体など広い分野からの提案を呼びかけて、98件の応募があり、10件を採択しました。いずれも、革新的次世代デバイスを目指すに相応しい魅力ある提案でしたが、金属、半導体を対象とする提案が中心で、有機/分子系の採択が少数でした。そこで、今年度は特に有機/分子系の提案を期待する旨明記して公募しました。

その結果、幅広い研究分野から、これまでで最多の120件の応募がありました。これらの研究提案を11名の領域アドバイザーと9名の外部評価者のご協力を得て書類選考を行い、研究提案26件を面接対象としました。面接選考に際しては昨年度同様、研究構想が本領域の趣旨に合っていること、特に、研究計画が高い独創性と新規性を有し、挑戦的であること、将来の産業化が期待できること、また提案者が明確な目的意識を有していることを重視して厳正な審査を行いました。また、選考に当たっては、応募課題の利害関係者の選考への関与を避け、他制度への助成金なども留意しました。

選考の結果、平成21年度は12件の優れた研究課題を採択候補とすることが決まりました。研究分野としては、期待通り、有機/分子系の関わる研究課題が半数を占め、その他、スピントロニクス、ナノワイヤ、ワイドギャップなど幅広い分野が含まれる結果となりました。採択研究課題は、3年間を通してみると、初年度に構想した「領域のねらい」どおり各分野をバランスよくカバーできたと考えております。採択課題は、いずれも高い倍率をくぐりぬけてきた優れた研究提案であり、独創的かつチャレンジングなテーマであると考えております。採択されなかった提案の中にも、基礎的に重要な研究課題や独自性の高い提案がありましたが、本領域の戦略目標に沿ったものであるか、また、デバイスへの応用展開が考えられているかなど、総合的に評価して、残念ながら不採択とせざるを得ませんでした。

本領域の募集は、今年度で終了いたしますが、これらの提案者は不採択理由を踏まえて提案を練り直し、さきがけをはじめJSTの他の研究領域へ応募されることを期待しております。