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資料2

平成21年度 戦略的創造研究推進事業(さきがけ)
新規採択研究者および研究課題概要

戦略目標:「異分野融合による自然光エネルギー変換材料及び利用基盤技術の創出」
研究領域:「太陽光と光電変換機能」
研究総括:早瀬 修二(九州工業大学 大学院生命体工学研究科 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
市川 結 信州大学 繊維学部 准教授 層間励起移動を用いた光捕集系を有する広帯域有機薄膜太陽電池 通常型 3年 光捕集・伝達システムを有する有機薄膜太陽電池の創出を目指します。有機薄膜太陽電池は、省エネルギー製造プロセスで大面積生産が可能であることから有用な次世代太陽電池として注目されていますが、エネルギー変換効率が未だ不十分です。さまざまな波長の光を吸収する積層構造にエネルギー伝達のための一方向的な励起移動の仕掛けを組み入れることで、太陽光スペクトルを有効活用し、変換効率の向上を目指します。
大北 英生 京都大学 大学院工学研究科 准教授 高分子太陽電池の新発電原理の分子論的探求 大挑戦型 5年 高効率な有機太陽電池を創出するためには、光吸収による励起子生成から、励起子拡散、電荷分離、電荷輸送、電荷収集にわたるすべての素過程を正確に理解し、マクロ物性をミクロな素過程と結び付けて素子特性を評価する研究開発が不可欠です。本研究提案では、これら一連の素過程をレーザー分光法により解明し、高効率化のための本質を明らかにするとともに、次世代太陽電池の創出のための新発電機構を探究します。
大平 圭介 北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 助教 瞬間結晶化によるガラス基板上への超高性能多結晶Si薄膜形成 通常型 3年 フラッシュランプアニール(FLA)を用いた瞬間結晶化により、安価なガラス基板上に形成される、膜厚1μm以上の高品質多結晶シリコン(poly-Si)薄膜の結晶化は、周期凹凸構造を形成しながら平面方向に進行します。本研究では、この結晶化機構を明確化するとともに、周期構造と太陽電池特性との関連性を明らかにすることで、太陽電池用材料としての高品質化への指針を得て、効率15%以上の低コスト薄膜poly-Si太陽電池を実現するための基盤技術を確立します。
岡本 晃一 京都大学 大学院工学研究科 特命准教授 プラズモニクスを利用した高効率・超薄膜太陽電池 通常型 3年 枯渇する化石資源に替わり、太陽光発電に期待が集まっています。本研究ではプラズモニクスを用いた新しいアプローチにより、太陽電池の飛躍的な光電変換効率の改善と、超薄膜化によるコスト削減を目指します。プラズモニクスの太陽電池応用は近年注目されており、その実用化が期待されています。そこで、これまで独自に培ってきたプラズモニック発光増強技術を応用することにより、初めての実用化達成を目指します。
佐伯 昭紀 大阪大学 産業科学研究所 特任准教授 マイクロ波法によるドナー・アクセプター系薄膜中の光誘起電荷ナノダイナミクス 通常型 3年 バルクヘテロジャンクションに代表されるドナー・アクセプター含有薄膜中で、光パルス照射により過渡的に生成した電荷キャリアが引き起こすナノスケール電気伝導度とそのダイナミクスについて、マイクロ波を用いた非接触時間分解測定を行います。測定・解析、理論・計算、材料から多面的に有機太陽電池の基礎科学にアプローチし、新たな光電気特性評価手法の確立と新規光機能性材料の開発を目指します。
沈 青 電気通信大学 電気通信学部 助教 半導体量子ドットの多重励起子生成と太陽電池への応用 通常型 3年 半導体量子ドットに関して、1個のフォトンから多重励起子(MEG)を効率的に生成出来ることが最近発見され、その現象を利用した半導体量子ドット増感太陽電池の変換効率の向上に向けた研究が期待されています。本研究では、ナノ構造TiO2光電極に対して、半導体量子ドットを増感剤として適用し、1MEG効果の発現と向上に関わるメカニズムの解明と実験条件の最適化を行い、2各ナノ接合光機能界面の改質と制御に還元し、光電変換効率の向上を目指します。
當摩 哲也 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター 研究員 交互分子積層により結晶性を制御した高性能太陽電池の研究開発 通常型 5年 有機薄膜太陽電池に使用される有機半導体は、従来法による作製では有機半導体が凝集し、特性が大きく低下します。この解決手段として交互分子積層膜形成法を提案します。この手法により凝集性の高い半導体材料を導入しても凝集過程前に膜形成が完了するため、高品質の有機膜の作製が可能です。交互積層のためp-n接合面積増大による光起電流増大とタンデム化による光起電圧上昇を達成でき、10%を超える変換効率が期待できます。
橘 泰宏 大阪大学 大学院工学研究科 講師 量子界面制御による半導体量子ドット増感太陽電池の開発 通常型 3年 半導体量子ドットは、サイズに依存して、光学特性並びにポテンシャルエネルギーレベルが変化する現象を示します。この量子ドットを電荷輸送性を持つ金属酸化物半導体と組み合わせると、光励起された量子ドットから金属酸化物への電荷移動が可能となります。本研究では、この電荷移動の速度並びに収率を制御する因子を解明し、さらに界面量子ナノ構造を制御することによって、高効率太陽電池の開発を行います。
田部 勢津久 京都大学 大学院人間・環境学研究科 教授 量子切断・波長変換による太陽光発電高効率化 通常型 5年 太陽光の短波長成分の光子を2つに切断して、太陽電池の発電効率を向上できる材料の開発を目指します。特に波長0.5μm以下の光子を全て吸収し、1μm光子に分裂させれば、電子-正孔対を最大効率で発生させることができます。量子切断は、希土類イオンの電子準位を効果的に利用して、波長変換する現象です。4f-5d許容遷移で、紫外から0.5μmまでの波長域の光を200%の量子効率で長波長変換する材料を開発します。
太野垣 健 京都大学 化学研究所 助教 ホットキャリア太陽電池へ向けたキャリア間相互作用制御の探索 通常型 3年 マルチエキシトン生成やオージェ過程など、半導体ナノ構造で顕著となる多体キャリア効果について、超高速レーザー分光とナノ構造の制御を用いて解明します。キャリア間の相互作用を制御し利用する方法を開拓し、従来の太陽電池においては熱として散逸されていた光励起キャリアの余剰エネルギーを有効に利用するホットキャリア太陽電池の原理実証を目指します。
江 東林 自然科学研究機構 分子科学研究所 准教授 シート状高分子を用いた光エネルギー変換材料の創製 通常型 3年 本研究では、シート状高分子が提供する特異な空間構造に着眼し、幅広い波長領域にわたって効率的な光捕集が可能なアンテナ分子の人工的な構築を目指します。ならびに「方向性を持たせた高速励起エネルギー伝達」を実現し、「巨大な内部表面を介した効率的な電荷分離」、そして「二相連続性から生まれた電子・ホールの独立輸送経路の確保」などの過程が連鎖して働く革新的な光エネルギー変換材料の創製を狙います。
野瀬 嘉太郎 京都大学 大学院工学研究科 助教 カルコパイライト型リン化物を用いた新規太陽電池の創製 通常型 3年 近年、化合物半導体太陽電池として、銅インジウムガリウムセレン化物(CIGS)が実用化されています。しかし、希少元素であるインジウムやガリウムには供給や価格の問題があります。本研究では、CIGSと同じカルコパイライト構造を持ち、安全で豊富な元素で構成される亜鉛すずリン化物に着目し、原子配列制御および添加元素による特性制御、薄膜作製プロセスの確立を行い、安価で高効率な太陽電池の実現につなげていきます。
丸本 一弘 筑波大学 大学院数理物質科学研究科 准教授 有機薄膜太陽電池の劣化機構のミクロ解明と耐久性向上 通常型 3年 本研究では、高感度高精度かつ分子レベルでミクロ評価が可能な電子スピン共鳴(ESR)の解析手法と、有機薄膜太陽電池の作製技術との異分野融合による革新的技術により、有機薄膜太陽電池研究で現在大きな問題の1つとなっている、電荷蓄積に伴う素子の劣化機構をミクロな観点から解明します。この劣化機構についての知見に基づいて、素子構造を改良し、特性を評価するとともに、耐久性の大幅な向上を目指し、有機太陽電池の実用化に貢献します。
吉田 弘幸 京都大学 化学研究所 助教 超低速電子線源を用いた有機半導体の伝導帯の直接観測法の開発 通常型 3年 有機薄膜太陽電池は、2種類の性質の異なる有機半導体が接触した構造をもち、光照射により正電荷をもつ「ホール」と負電荷をもつ「電子」に分離することで発電しますが、これまで、電子の伝導を担う伝導帯の電子構造を解明するよい研究手段はありませんでした。本研究では、超低速電子線を用いて有機半導体に損傷を与えずに精度よく伝導帯を調べる新しい解析法を開発します。この成果は、有機薄膜太陽電池の動作解明や発電効率の向上につながると期待できます。

(五十音順に掲載)

<研究総括総評> 早瀬 修二(九州工業大学 大学院生命体工学研究科 教授)

本研究領域では、次世代太陽電池の提案につながる研究を対象とし、化学、物理、電子工学などの幅広い分野の研究者の参画により異分野融合を促進し、次世代太陽電池の実用化につながる新たな基盤技術の構築を目指し、平成21年度から募集を開始いたしました。募集に当たっては、色素増感系、有機薄膜系、量子ドット系高性能太陽電池の研究、従来とは異なるアプローチによるシリコン系、化合物系太陽電池を対象とする研究、まったく新しい原理に基づいた太陽電池の創出につながる界面制御技術、薄膜・結晶成長、新材料開拓、新プロセス、新デバイス構造などの要素研究も対象としました。次世代太陽電池の創出という視点を重視し、理論研究から実用化に向けたプロセス研究にわたる広域な研究を対象として募集しましたところ、計106件の応募がありました。これらの研究提案を12名の領域アドバイザーのご協力を得て書類選考を行い、研究提案25件を面接対象といたしました。面接選考に際しては、研究構想が本領域の趣旨にあっていること、研究計画に高い独創性と新規性を有し、挑戦的であり、また単なる基礎研究ではなく、提案者自身が将来の太陽電池のどこにどのように役立つ目的基礎研究なのかを理解していることを重視して厳正な審査を行ないました。また、審査に当たっては、応募課題の利害関係者の審査への関与や、他制度の助成金などとの関係も留意しました。

選考の結果、平成21年度には、シリコン系太陽電池、有機薄膜、色素増感太陽電池、化合物太陽電池、および量子ドット太陽電池に関する要素研究、太陽電池物性評価方法、新材料合成などの広い分野の提案の中から、14件(うち大挑戦型1件を含む)が採択となりました。いずれも新しい発想に基づく意欲的な研究課題であり、将来の太陽電池像を明確にできるテーマであると考えています。採択されなかった提案にも、重要な提案や独自性のある提案は多くありました。しかし重要であっても、本研究領域の趣旨に合わないものは不採択としました。これらの提案者に関しては、今回の不採択理由を踏まえて提案を練り直し、再度挑戦していただくことを望んでいます。来年も、次世代の新太陽電池を目指す目的基礎研究という視点から募集を行なう予定ですので、本年度以上に独創的で、新しい太陽電池にどのように役立つかを明確にした基礎、応用研究提案を期待しています。