資料1

戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究
(平成15年度発足)

研究領域「高機能性反応場」研究総括

小林 修 氏
(東京大学 大学院薬学系研究科 教授)

■ 研究領域「高機能性反応場」の概要
 新たな有用物質をゼロから作り出すことのできる有機合成化学への社会の期待は極めて大きい。一方、物質科学の基盤を成す個々の有機反応においては、これまで求められてきた高収率、高選択収率などの効率化の問題に加えて、地球環境に負荷をかけない、持続可能なプロセスへの対応が益々重要になってきている。
 本研究領域ではこれらの点を鑑み、新しい視野に立って高機能を有する反応場(高機能性反応場)を創製し、これを活用した効率的かつ環境にやさしい(環境調和型)新プロセスを駆使して、医薬品、機能性物質・材料などの有用物質を創り出す。
 まず、有機溶媒に替わる新たな反応媒体として水に着目する。水中では多くの脂溶性有機化合物は不溶であり反応の大きな障害となってきたが、本研究領域では、触媒と界面活性剤を組合せた一体型触媒を用いると、水中でナノスケールの疎水的な反応場を構築できるという独自の知見に基づき、独創的な反応場を積極的に活用し効率的な反応を実現する。この他超臨界流体やイオン性流体、反応基質自体を反応場とする無溶媒反応にも着目し、さらにマイクロチップなどによって作り出される微小空間を新しい反応場として捉え、研究を展開する。
 また、環境調和型化学プロセス実現のもう一つの柱として、マイクロカプセル化触媒、高分子Carcerand型触媒など独自に開発した触媒をベースにして、高活性を有し繰り返し使用にも耐え得る革新的な固定化触媒の開発を目指す。固定相として高分子を用いる触媒と反応基質によって構築されるナノスケールの反応場を活用することによって、これまで実現できなかった個々の反応における反応性や選択性の達成を図る。
 さらに、新たに開発した方法論に基づき、抗マラリア剤や抗真菌剤などの創薬に繋がる医薬品候補化合物や、ナノカプセルの高次構造構築などによる新規機能性物質を探索していくと同時に、ナノ触媒の構造解明と形状制御、触媒の固定化による無毒化とそのメカニズムの解明など、有機化学、有機合成化学を超えた学際領域での多面的かつ複合的な研究を展開する。
 本研究領域は、原子・分子レベルでの精密な組織・構造制御に基づき、ナノレベルで制御された高機能性反応場の開発を通じて、環境への負荷を最大限に低減し、資源を無駄なく活用し、エネルギー効率を極限まで高めた高速・高効率・高選択的物質変換プロセスの実現を目指すものであり、戦略目標「環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製」に資するものと期待される。
■ 研究総括 小林修氏の略歴等
1. 氏名(現職) 小林 修(こばやし しゅう)
(東京大学 大学院薬学系研究科 教授) 44歳

2. 略歴
昭和58年3月 東京大学理学部化学科卒業
昭和60年3月 東京大学大学院理学系研究科修士課程修了
昭和62年3月 東京大学大学院理学研究科博士課程中退
昭和62年4月 東京理科大学理学部応用化学科助手
昭和63年4月 理学博士学位取得(東京大学)
平成3年4月 東京理科大学理学部応用化学科講師
平成4年4月 東京理科大学理学部応用化学科助教授
平成10年5月 東京大学大学院薬学系研究科教授

 この間
平成5年  ルイパスツール大学(フランス)客員教授
平成6年  京都大学客員助教授
平成8年  ナイメーヘン大学(オランダ)客員教授
平成9年 マールブルグ大学(ドイツ)客員教授
平成9年-平成13年  科学技術振興事業団・戦略的基礎研究推進事業「単一分子・原子レベルの反応制御」研究代表者
平成14年-現在 科学技術振興事業団・基礎的研究発展推進事業「ナノスケールの触媒および反応場を活用する環境調和型プロセスの開発」研究代表者

3. 研究分野
有機合成化学、有機金属化学

4. 主な学会活動等
国際学術誌「Journal of Combinatorial Chemistry」 Associate Editor (1999-現在)
国際学術誌「Advanced Synthesis & Catalysis」 Associate Editor (2000-現在)
国際学術誌「Molecules Online」Editorial Advisory Board (1997-2000)
国際学術誌「Synthesis」Editorial Advisory Board (1999-現在)
国際学術誌「CHEMTRACTS-Organic Chemistry」Expert Analyst (1999-現在)
国際学術誌「Chemical Reviews」Editorial Advisory Board (2000-現在)
第5回f−元素に関する国際会議(5th International Conference on f-Elements)コオーガナイザー (2003)

5. 業績等
 水中で安定に機能するルイス酸として、希土類金属トリフラート(ランタノイドトリフラート)を初めて見いだし、「水中で安定なルイス酸」を体系化した(Synlett, 1994; J. Am. Chem. Soc., 1998)。それまで、ルイス酸は水中では速やかに分解または不活性化する、というのがいわば化学の常識であったが、本研究はその常識を打ち破るもので、世界的にも高い評価を受けている。さらに、ルイス酸-界面活性剤一体型触媒などの開発により、水のみを溶媒とする反応系を開発(J. Am. Chem. Soc., 2000)、従来ほとんど不可能と考えられてきた水中での触媒的不斉合成反応の開発にも成功するなど(J. Am. Chem. Soc., 2001; 2002; 2003)、この分野の研究をリードしている。一方、これまでに全く例のない新しい固定化触媒として、「マイクロカプセル化触媒」を開発した(J. Am. Chem. Soc., 1998)。この触媒は、電子的な相互作用に基づいて触媒を高分子上に担持するもので、触媒担持に関して全く新しい概念を提唱した。本触媒は、高活性を有し、回収、再使用も容易であり、また、毒性のある触媒を担持することでその毒性を消失させるという興味深い結果も明らかにしている。またごく最近、この触媒をより発展させ、汎用性の高いCracerand型触媒の開発にも成功している(J. Am. Chem. Soc., 2003)。さらに、触媒的不斉合成の分野でも、イミンの触媒的な活性化に成功し、初めての触媒的不斉Mannich反応、Aza Diels-Alder反応などを開発するなど(J. Am. Chem. Soc., 1997; 1998; 2000)、多くの独創的かつ革新的な研究成果を挙げている。

受賞等
平成 3年  日本化学会進歩賞「カルボカチオン種を用いる高立体選択的反応の研究」
平成 9年  Springer Award in Organometallic Chemistry (Springer賞)
平成12年  Novartis 化学賞、Nagoya Lectureship賞
平成13年  NPS Distinguished Lecturer賞、
 IBM科学賞「新しい有機化学反応媒体の構築と環境調和型化学プロセスに関する基礎研究」
平成14年  名古屋シルバーメダル
 Organic Reactions Lecturer賞、

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This page updated on October 22, 2003

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