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<用語解説>

注1) 代謝
 代謝とは新陳代謝の略称で、酵素と呼ばれるたんぱく質を触媒として、外界から摂取した比較的簡単な物質から生命が必要とする物質を合成したり、外界から吸収した物質を分解して得たエネルギーを利用するなどの生化学反応の総体です。代謝に関与する物質の種類や数は生物種によって大きく異なり、微生物では数千種類、植物では20万種を越えるとされています。

注2)古細菌
 細菌は、真正細菌と古細菌(真核生物の核に似ている)と名付けられた2つのグループに分かれます。真正細菌については、その代表である大腸菌をはじめ古くから研究がなされてきました。他方、古細菌に関しては、1970年代にその分類概念が提唱された後、本格的な研究が開始されました。なお、古細菌という呼称は、その多くが強酸・高温などの極限環境に生息するため、それらの生育環境が太古の地球環境に類似していると想像されることから名付けられましたが、コモノートが真正細菌より古細菌に近かったという根拠は、はっきりしていません。

注3) 熱水チムニー
 深海底で、100度以上の高温になる熱水を噴出している噴気孔。

注4)転写制御
 ゲノムに記録された遺伝子の多くは、いつも使われているわけではなく、ヒトの各細胞中、ある瞬間に使用されている遺伝子は全遺伝子の数%以下とも言われています。大腸菌のようなバクテリアでも、環境の変化を察知して使用する遺伝子を変えます。この変化の過程が転写制御です。転写調節因子と呼ばれるたんぱく質が各遺伝子の上流部位に結合し、メッセンジャーRNAへの転写を抑制あるいは促進することにより行われます。
 代謝関連の転写制御機構を少し変形して、“環境の変化”を“同じ個体の別細胞からのシグナル”へと置き換えることにより、多細胞生物が構築されています。同じゲノム配列を持ちながらも、手の細胞は手へと、目の細胞は目へと分化していくのはこのためです。バクテリアの代謝の制御とヒトのような多細胞生物の“体の形成(ボディー・プラン)”は、一見全く異なるように見えますが、同じ原理で制御されているのです。

注5)細胞内共生
 真核細胞は、核やミトコンドリア、葉緑体といったコンパートメントから構成され、各コンパートメント内にはそれぞれのゲノムDNAが存在します。したがって、これらのコンパートメントは、かつては独立した生き物だったと考えるのが一般的です。これらが1つの細胞内に共生した結果、真核細胞が誕生したと考えられています。細胞内共生に際しては、コンパートメント同士の連絡が必要だったはずで、共生初期の段階で各生物が持っていた転写制御機構が変形されて、これを可能にしたと考えられます。