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科学技術振興機構報 第449号

平成19年12月12日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報・ポータル部広報課)
URL http://www.jst.go.jp

「地球上で最初に誕生した生命(コモノート)」の姿に一歩迫る発見

(コモノートの代謝制御機構から生命の起源解明に向けて)

 JST(理事長 北澤 宏一)は、「地球上で最初に誕生した生命(以下、コモノート)」の代謝(注1)系転写制御機構の解明に迫る発見を得ました。
 生命がたどった進化の過程で、太古の地球上に最初の細胞として現れたコモノートは、まず、真正細菌と古細菌(注2)に分かれたと考えられています。しかし、大腸菌を代表とする真正細菌が良く知られているのとは対照的に、古細菌の機能や特性は良く理解されていませんでした。
 本研究グループは、コモノートが持っていたはずの機能や特性は、真正細菌と古細菌に共通する機能や特性の中に見出されるとの仮説に立脚。特に古細菌の代謝調節機構に注目し、これを詳細に検討することで、真正細菌と古細菌が唯一共有する遺伝子転写因子群による制御機構の全貌を明らかにしました。

 これまで本研究グループは、沖縄海溝の熱水チムニー(注3)で生育する古細菌「パイロコッカス菌」を使ってアミノ酸分解制御機構を研究してきました。この代謝制御機構を詳細に調べる中で、FFRPと呼ばれる一群のたんぱく質が、この代謝に関わる様々な遺伝子の転写制御に関与することを突き止めました。
 FFRPは大腸菌にも存在します。今回、パイロコッカス菌由来のFFRPについて立体構造の詳細や代謝制御機構の解析を行ったところ、大腸菌との間に多くの共通点が見つかりました。この結果は、コモノートを祖先とする地球上の全生物が持つ多様な転写制御機構の原型を推定させるものであり、「生命とは何か、その出発点を知る」という生命科学の究極課題を解明するための足がかりとなるものです。
 本成果は、JST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の「たんぱく質の構造・機能と発現機構」研究領域(研究総括:大島泰郎 環境微生物学研究所・所長)における研究テーマ「FFRPたんぱく質群によるDNA・リガンド識別機構の解明」の研究代表者・鈴木理(独立行政法人 産業技術総合研究所 脳神経情報研究部門 DNA情報科学研究グループ・研究グループ長)と研究グループのメンバーである横山勝志(JST研究員)、石島早苗(独立行政法人 産業技術総合研究所 脳神経情報研究部門 DNA情報科学研究グループ・テクニカルスタッフ)らによって得られたもので、2007年12月12日(米国東部時間)発行の米国科学雑誌「Structure」(Cellの姉妹誌)に掲載されます。


<研究の背景と経緯>

 生命科学の目標のひとつは、「生命とは何か、その出発点を知る」という究極の問題への解答を見つけることです。地球上の生命は全て共通の祖先であるひとつの細胞、「地球上で最初に誕生した生命(以下、コモノート)」から分岐したと考えられており、生命の出発点を知るにはコモノートがどのようなものだったかを知ることが重要です。しかし、恐竜の体や生活様式が化石から推定できる状況とは異なり、40億年近い昔に生存した細胞の内側を知ることは極めて困難です。
 近年、細菌の中には、良く研究されている大腸菌などを代表とする真正細菌とは別に、古細菌と呼ばれる一群が存在することが明らかになりました。コモノートはまず、真正細菌と古細菌に分岐したとされることから、両者の共通項が明らかになればコモノートの成り立ちを知る手がかりが得られます。しかし、研究の歴史が浅い古細菌については解明されていない部分が多く、通常の分子生物学的アプローチの適用範囲も制限されてきました。

<研究の内容>

古細菌であるパイロコッカス菌が、栄養源(アミノ酸)の濃度を感知し、
饗宴-飢餓モードに対応しながら遺伝子の転写を制御する「FFRP」を持つことを発見

 これまで本研究グループは古細菌のゲノム配列を決定し、また、これを解析する中で、各古細菌が数個から十数個の特定タイプの転写制御(注4)に関わるたんぱく質・FFRP(Feast/Famine Regulatory Protein:饗宴-飢餓・制御たんぱく質)を持つことを明らかにし、その構造や代謝制御機構解明に取り組んできました。
 この結果、沖縄海溝の熱水チムニーに生息する古細菌・パイロコッカス菌のFFRPのひとつが、アミノ酸の一種である「リジン」の濃度で外界の栄養状態を感知し、これをバロメーターにして饗宴モードと飢餓モードに対応して会合状態を変化させること、そして、これに基づき代謝に関係する遺伝子群(全遺伝子の約20%)を制御する機構を持つことを明らかにしました。
 パイロコッカス菌は、頭上の海から降り注ぐ魚等の残骸に含まれるたんぱく質から得たリジンなどのアミノ酸類を栄養源として生育し、栄養源が多いと増殖します。リジンと相互作用するとFFRPは図1のように8量体を形成(2量体4つが会合)し、FFRP遺伝子上流に位置するDNAに選択的に結合します。この結果、FFRP遺伝子の転写が抑制されて細胞中のFFRPの数が減少し、代謝関連遺伝子上流には結合できなくなるため、パイロコッカス菌の全代謝系は活性化されて"饗宴モード"に入り、菌は活発に増殖しはじめます。
 一方、リジンが少ない低栄養状態では、FFRP8量体は2量体へと解離し、FFRP遺伝子上流部に位置するDNAとの結合は弱まります。この結果FFRP2量体の数は細胞あたり6000程度まで増加し、200ヵ所以上の遺伝子上流に結合して、これらの転写を抑制(図2)するため、代謝は"飢餓モード"に突入し、増殖が抑えられます。この代謝系の転写制御機構は、FFRPの構造や機能をさまざまな角度から研究したことにより解明されました。
 真正細菌を代表する大腸菌にも同様に、アミノ酸の一種である「ロイシン」の濃度で外界の栄養状態を感知するFFRPによる転写制御機構が存在します。この共通点に着目し、研究チームは、コモノートも同様の機構を持っていたに違いないと推定しました。

<今後の展開> 

 ヒトのような真核生物は、古細菌と真正細菌の細胞内共生(注5)によって誕生したとされます。今回、明らかになったコモノートの代謝系の転写制御機構は、地球上の全生物が持つさまざまな転写制御機構の原型です。この機構を多様に変化させることで、真核生物を含む地球上の全生物はさまざまな機能を得たと考えられます。
 例えば「空間と時間」、すなわち多細胞性真核生物のボディー・プラン(体の形成)や概日周期の制御に遺伝子の転写が深く関わっていることが分かっていますが、その源は今回明らかになったコモノートの遺伝子の転写制御にまで遡ります。
 今回、転写制御機構の出発点が解明されたことにより、今後、酵母のような単細胞性真核生物、さらにはヒトのような多細胞性真核生物が誕生した過程が明らかになるものと期待されます。

図1:"饗宴モード"にあるパイロコッカス菌のFFRP8量体の立体構造
図2:"飢餓モード"にあるパイロコッカス菌のFFRP2量体の立体構造
<用語解説>

<掲載論文名>

" Feast/Famine Regulation by Transcription Factor FL11 for the Survival of the Hyperthermophilic Archaeon Pyrococcus OT3 "
(超好熱性古細菌パイロコッカス属菌OT3株の生存のための、転写因子FL11による饗宴・飢餓制御)

<研究領域等>

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下のとおりです。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域 「たんぱく質の構造・機能と発現メカニズム」
(研究総括:大島 泰郎 共和化工(株)環境微生物学研究所 所長)
研究課題名 「FFRPたんぱく質群によるDNA・リガンド識別機構の解明」
研究代表者 鈴木 理(独立行政法人 産業技術総合研究所 脳神経情報研究部門 DNA情報科学研究グループ 研究グループ長)
研究実施場所 独立行政法人 産業技術総合研究所
研究期間 平成15年度〜平成20年度

<お問い合わせ先>

独立行政法人 産業技術総合研究所 脳神経情報研究部門 DNA情報科学研究グループ
〒305-8566 茨城県つくば市東1−1−1 産総研つくばセンター中央6−10
鈴木 理(すずき まさし)
Tel:029-861-6582 Fax:029-861-6041
E-mail:

独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造事業本部 研究推進部研究第一課
〒102-0075 東京都千代田区三番町5番地 三番町ビル
瀬谷 元秀(せや もとひで)
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