JSTトッププレス一覧 > 科学技術振興機構報 第418号
科学技術振興機構報 第418号

平成19年8月28日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)-8404(広報・ポータル部広報課)
URL http://www.jst.go.jp

重金属を迅速・高感度・高精度に測定する小型分析装置の開発に成功

(マイクロTAS――土壌・水質など汚染現場で威力)

 JST(理事長 沖村憲樹)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「微小電気化学セルを利用した重金属分析装置」の開発結果を、成功と認定しました。
 本開発課題は、筑波大学大学院数理物質科学研究科教授 鈴木博章氏らの研究成果を基に、平成16年3月から平成19年3月にかけて積水化学工業株式会社(代表取締役社長 大久保尚武、大阪本社〒530-8565 大阪市北区西天満二丁目4番4号、資本金 1,000億円、電話:06-6365-4122)に委託して、企業化開発(開発費約180百万円)を進めていたものです。
 本新技術は、重金属注1を含む試料溶液を微小電気化学セル注2(以下、チップ)に導き、電位走査に対する電流の応答を測定することにより、重金属を迅速かつ高感度に分析する小型分析装置に関するものです。
 重金属の高感度分析のほとんどは現在、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光、原子吸光注3などの技術を用いた大型の分析装置によって行われています。しかし、工場跡地などの現場で分析ができなかったり、分析精度は高いが時間がかかるなどの問題があります。
 本開発は、採取した試料をその場(オンサイト)で手軽に分析したいとする要請に応えるものです。測定に用いるチップは、センサー、流路、および前処理機能を高精度に集積化したものであり、そのチップをティッシュ箱サイズの小型読取機に挿入することにより測定します。小型読取機には、試料溶液の特性に応じて流路や流速を最適化するソフトウェアを導入しています(図1)。
 その結果、5分以内の分析時間に、±50%の分析精度を大きく上回る性能で有害指定重金属(Pb,Cd,As,Se,Hg)を高感度(環境基準の1/10以下)に分析することが可能となりました。このため、現場での分析調査目的に限らず、製造プロセスの工程管理や研究用分析装置など広範な分野での利用が期待されます。

 本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 重金属のオンサイト分析可能な装置への期待が高まっています。

 昨今の環境問題や土壌汚染対策法注4の施行に伴って、土壌をはじめとする環境中の重金属を分析する重要性が高まっています。また、食の安全への関心が問題になっているなかで、農地や農業用水などの農業環境や、さらに地下水などの環境水の汚染状況を正確に把握する必要性が増しています。しかし、これらの汚染状況の調査や管理においては、熟練と時間を要する公定法では負担が大きく、また環境基準濃度以下の重金属を精度良く測定する装置は、大型で高価な装置に限られているのが現状です。そのため、持ち運びができ、手軽で短時間に、高精度な重金属分析のできる装置の出現が期待されています。

(内容) 小型でありながら、環境基準に対応する重金属を迅速・高感度・高精度に分析する装置を実現しました。

 開発された装置は、専用の「チップ」と呼ばれる微小電気化学セルを採用した、迅速で高精度な重金属分析が可能なティッシュ箱サイズの可搬型分析装置です。本装置を専用ソフトウェア搭載のノート型パソコンに接続することによって、容易にオンサイトでの分析が可能となります(図1)。
 チップは、「ストリッピングボルタンメトリ」注5と呼ばれる原理をもとに分析を行う微小電極センサー、重金属の濃縮前処理を行う微小カラム注6、それらをつなぐ微小流体用素子などから構成されています。
 分析の原理は次のようなものです。まず試料に溶解している重金属イオンを、マイナスの電位をかけることによって微小電極上に析出させておきます。次いで電極の電位をプラス方向に走査させながら再び重金属イオンとして溶出させることによって、溶出時の電位から物質を特定し、流れた電流量から重金属イオンを定量するものです(図2)。
 プラスチック材のチップの製作にあたっては、チップ内の電極や濃縮カラム、移送流路の形状精度をマイクロレベルに高め、ばらつきの小さい加工を可能とする技術を確立しました。同時に装置側のチップホルダーについても、電極接点の接続性と流体通過部のシール性の確保を図っています。これらの工夫に加え、試料溶液の特性に応じて流路や流速を最適化するソフトウェアの導入などにより、小型装置でありながら、従来にないレベルの感度(環境基準の1/10以下)、分析時間(5分以内)、分析精度(本開発の目標であった±50%の分析精度を大きく上回る精度)にて、有害指定重金属(Pb,Cd,As,Se,Hg)の分析を行うことが可能となりました。
 近年、分析に必要なリアクターやセンサー、流路などをチップ上に小型化・集積したシステムはマイクロTAS(Total Analysis Systems)と呼ばれ注目されています。しかし国内においては、大学の研究成果の企業での実用化は、必ずしも順調とは言えません。そのような中で、本開発は高機能なマイクロTASの研究成果の先駆的な実施例として位置づけられます。

(効果) 小型で高精度な分析が可能なため、広範な利用分野が期待されます。

 本分析装置はティッシュ箱程度の大きさでありながら、重金属分析を高感度・高精度、短時間に可能とするもので、現場で採取した試料をオンサイトで分析したいとする要請に応えるものです。
 また、土壌汚染対策法で測定の義務づけられた有害指定重金属は六価クロムを加えた6種(Pb,Cd,As,Se,Hg,Cr(VI))ですが、これまで小型分析装置としては市場になかった5種の重金属分析が可能な本装置の開発(六価クロムだけの小型分析装置は既存)により、全有害指定金属 のオンサイト分析ができるようになりました。
 本分析システムは、現場での即時分析が望まれる土壌汚染浄化ビジネスや各種環境アセスメント関連で有効であるほか、今後、製造現場での工程管理や小規模事業所での成分管理、研究向け分析など広範な用途での利用が期待されます。

図1 本装置の外観
図2 本装置の原理図
デモンストレーション
<用語解説>
開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

積水化学工業株式会社 環境・ライフラインカンパニー 京都研究所
〒601-8105 京都市南区上鳥羽上調子町2番地の2
主任研究員 岩佐 航一郎(イワサ コウイチロウ)
TEL: 075-662-8637 FAX: 075-662-8598

独立行政法人科学技術振興機構
産学連携事業本部 開発部 開発推進課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3
三原 真一(ミハラ シンイチ)、成田 吉重(ナリタ ヨシシゲ)
TEL: 03-5214-8995 FAX: 03-5214-8999