本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景) 未活用の植物繊維質を生活習慣病の予防食として有効利用

 とうもろこしなどの植物繊維質の細胞壁は、セルロースやヘミセルロ-スなど多種類の糖質群で構成されており、中でもヘミセルロースにはアラビノキシランの形でアラビノースが多量に含まれています。
 アラビノースはヒト体内でシュクロース(砂糖)分解酵素の働きを抑制してシュクロースの消化・吸収を抑える性質を持っています。このことから、アラビノースは表1の様な特徴を持つことから、糖尿病の予防や治療での血糖値の上昇を抑制する新規の機能性甘味料としての利用が期待されています。
 しかし、現在まではアラビノースの製造については、試薬用としてアラビノキシランを強酸で加水分解する方法でおこなわれていましたが、特定の糖を選択的に切断・遊離することが困難で、目的以外の糖も遊離してしまい精製工程が複雑となるため、アラビノースの大量生産は困難とされていました。

(内容) 原料の限定分解と連続クロマトグラフィーにより多糖類からアラビノースを選択性良く分離・精製

 本新技術は、とうもろこし種皮を酸分解して、アラビノースを選択性良く切断・遊離させ、さらに複数のクロマトグラフィー分離カラムを用いた新規の糖分離方法を用いて、連続的抜き出しを行うことにより、大量生産を実現するものであります。
本新技術の研究者らは、植物繊維質に含まれる各種の多糖類の結合状態を解析し、アラビノキシランを形成するアラビノースの結合部位を、特定の穏和な条件下で酸による加水分解処理により選択性良く切断できることを見出しました。これにより、従来、特定の糖を選択的に切断遊離することが困難であった酸による加水分解法の問題点を解決しました。さらに、酸分解により遊離したアラビノースを含む糖質の混合液からの分離精製について、複数のクロマトグラフィー分離カラムを用いて、連続的にアラビノースを分離・抜き取ることが出来る新規な分離・精製法の検討を行い、アラビノ-スを効率よく分離・精製できることを明らかにしました。
 本新技術は、この原理をスケールアップし大量生産に適した製造工程を実現したもので、酸分解、脱色・不純物除去、糖分離、濃縮・結晶化の4工程より構成されます。 特に量産化のために最適化された2工程の詳細は以下の通りです。

 酸分解工程
 具体的には濃度0.1~0.5%の酸を用いて、穏和な反応条件で加水分解し、アラビノースの結合部分を選択性良く切断します。従来の酸分解濃度の1/75~1/15に設定し、アラビノース以外の糖の遊離・生成を抑制しアラビノースの生成の選択性を高めています。 遊離した単糖類に占めるアラビノースの割合は50%程度となります。

 糖分離工程
 酸分解後に不純物を除去した液には、アラビノースとその他の糖成分であるアラビノキシロオリゴ糖、キシロオリゴ糖などが含まれています。本新技術では、新規な分離形式を有するクロマトグラフィー装置によりこれらの糖の分離を行います。この方式では、糖質混合液を連続供給し、複数のクロマトグラフィー分離カラム内で循環させながら順次分離・抜き取りをおこないます。分離されたアラビノースは、実績のある粉末化技術を用いて、高純度製品(純度99%以上)とします。

 以上の要素工程技術の適用により、アラビノースの大量生産に適した連続プラントにスケールアップを行い、図1図2に示す月間原料処理量100トンのプラントにより量産化が確認されました。

(効果) アラビノースは糖尿病予防や肥満防止の需要に応える機能性甘味料

 本新技術により製造されたアラビノースは、シュクロースの消化・吸収をコントロールする機能を有し、またアラビノース自体もシュクロースの約50%の甘味でありながら、ほとんど腸管から吸収されないという性質を持つため、糖尿病の食事療法やその予防のための食事に使用される甘味料など、機能性食品素材として広く利用が期待されます。また、アラビノース分離後に残存するアラビノキシロオリゴ糖、キシロオリゴ糖なども、整腸作用等の機能から広く利用が期待されます。
 本新技術では、とうもろこしをはじめとする穀類の種皮を有効利用して、酸分解やクロマトグラフィー分離により、効率よくアラビノースを大量生産することができ、これらの今後の需要に応えることができます。

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This page updated on March 23, 2004

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