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資料1

戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATOタイプ)
(平成18年度発足)

研究領域「ナノ液体プロセス」研究総括

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下田 達也 氏
(北陸先端科学技術大学院大学 教授)

研究領域「ナノ液体プロセス」の概要
 現在の高度なIT社会はハイテク電子デバイスの進歩の賜物です。電子デバイスの製造過程では全ての技術パラメータは最適化されているように思われますが、電子デバイス産業をエネルギー効率、資源効率的な観点から見ると改善の余地が大いにあります。例えば高価なハイテク素材であるシリコンウェハーやレジスト材料の有効利用率は非常に低く、材料の不要部分を削って作るプロセス上、材料の多くが無駄になっています。現在の製造プロセスの発想から脱却し、液体化した材料を必要な場所に必要な量だけ吹き付けるという発想で電子デバイスの作製を行なうことで、高価、稀少、有害な材料の使用量や廃棄量を大幅に抑えることが可能になると期待されます。現在の多くの電子デバイスはナノメートルサイズのデバイスを作製する技術で製造されるため、液体化した材料をナノスケールで目的の箇所に配置する技術としてナノ液体プロセスを提案します。ナノ液体プロセスは集積回路や高密度メモリ等の電子デバイスの製造方法を根本から変えうる将来の基幹技術として期待され、製造プロセスの低環境負荷化、低エネルギー化や低コスト化を同時に実現することが可能と考えられます。
 本研究領域では、微小液滴内での溶質の移動(輸送)の挙動や自己組織化能力に対する理解を深め、量子力学的なミクロの問題に還元して扱う新しい科学領域「ナノ輸送科学」を開拓します。また、得られた知見を基に液体の多様な能力を利用してナノサイズの電子デバイスを作製する技術基盤の確立を目指します。
 具体的には、(1)溶質、溶媒と基板との間に働く分子間力、溶液と基板間の電荷移動、溶質の化学ポテンシャル、溶媒和力などの、ナノスケール領域では強く影響が現れる各種相互作用を制御するために、液体内での物質の微小輸送能力や自己組織化能力の理解を深めます。(2)ナノ液体プロセスで利用可能な各種の高次機能性液体の開発を目指します。特に、液体中に固体に類似した構造を持つ「疑似固体構造内包溶液」とでも言うべき高機能性液体を提案し、従来よりはるかに低温で半導体デバイス等のナノデバイス作成が可能な製膜技術の確立を目指します。(3)分子間力の作用範囲での溶媒中の溶質挙動を解明・制御し、微小液滴内で材料の堆積を制御する場「液体チャンバー」の内部で、溶質を自発的に基板上の狙った場所に堆積させるというボトムアッププロセスによる固体製膜の実現を目指します。(4) 上記の材料、プロセスをベースにして高性能なMOS-FETおよびその集積回路, 超高密度メモリ、分子素子などのナノデバイスの製造基盤の確立を目指します。(5)ナノデバイス研究ツールとして研究室レベルで扱うことが可能で、基板投入からデバイス作製、分析、電気特性分析までの機能を1台に備えた「デスクトップラボ装置」の開発を目指します。
 本研究領域は、ナノ輸送科学という新領域を開拓し、高性能なナノデバイスを低エネルギー、省資源で製造する技術的な基礎を創成することを目指すもので、戦略目標「ナノデバイスやナノ材料の高効率製造及びナノスケール科学による製造技術の革新に関する基盤の構築」に資するものと期待されます。
研究総括 下田達也氏の略歴等

1.氏名(現職) 下田 達也(しもだ たつや)

 (北陸先端科学技術大学院大学 教授)54歳

2.略歴

昭和52年 3月  東京大学工学部金属工学科 卒業
昭和63年 2月  博士(工学)(東京大学)「(論文題目)高性能希土類ボンド磁石に関する研究」
昭和52年 4月  株式会社諏訪精工舎(現セイコーエプソン(株))開発部 研究開発員
昭和60年11月  セイコーエプソン(株) 基礎開発部1Sグループ 課長
平成 元年 4月   〃 開発本部 機能材料研究部 部長
平成 8年 4月   〃 研究開発本部基盤技術研究所 所長
平成10年 9月   〃 英国ケンブリッジ研究所Consulting Director
平成14年 6月   〃 フェロー(理事)就任
平成16年11月   〃 研究開発本部 副開発本部長
平成18年 9月  北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアルテクノロジーセンター 教授
   この間
平成 元年 4月〜平成 2年 3月 名古屋大学大学院工学科非常勤講師
平成 7年 4月〜平成 8年 3月 信州大学理学部非常勤講師
平成11年 4月〜平成18年 9月 北陸先端科学技術大学院大学 材料科学科客員教授
平成15年 1月〜平成15年 3月 東京工業大学資源化学研究所非常勤講師

3.研究分野

 磁性材料、電子デバイス、溶液プロセス科学

4.学会活動等

平成 5年12月〜現在  日本金属学会北陸信越支部理事
平成 6年 6月〜平成 6年 7月  粉末粉体冶金協会参事
平成14年 4月〜平成17年 3月  SSH(Super Science High School) 諏訪青陵高校講師
平成14年 9月〜平成15年 8月  AM-LCDプログラム委員長
平成15年 9月〜平成18年 5月  NEDO基盤技術研究促進事業 総括責任者
 「液体を原料としたシリコントランジスタ製造技術の開発」
平成16年 4月〜現在  日本MRS副会長
平成18年 5月〜現在  JST戦略的創造研究推進事業(さきがけタイプ)
 「物質と光作用」領域アドバイザー

5.業績

 1977年から1994年にかけて、高性能希土類合金、ボンド磁石、鋳造圧延磁石の開発を行ってきた。具体的には、飽和磁化は高いが保磁力が低くて実用化できなかったSm2Co17系に対し、Sm-Co-Fe-Cu-Zr系についての組成研究と熱処理の研究を行い、エネルギー積において当時の世界最高記録を持つ高性能合金と希土類ボンド磁石を開発している(Proc. of 4th Intl Workshop on R-Co Magnet (Hakone Japan), 1979)。その後、Pr-Fe-Cu-B系高性能希土類磁石の発明と開発を行った。継ぎ目のない大型の磁石が作成可能で、精密なリニアーモータなどの用途に適した磁石であるとして注目を浴びている。
 1994年以降は、マイクロ液体プロセスによる電子デバイスの創生、高性能Si-TFTとフレキシブル・エレクトロニクスの開発を行っている。これは、機能性液体から電子デバイスを作成する「マイクロ液体プロセス」と呼ぶ独自プロセスであり、このプロセスで、有機ELデバイス(Tech. Digest of SID, 1999)、有機トランジスタ(Science, 2000)、シリコン薄膜トランジスタ(Nature, 2006)、フレキシブル多層配線基板等の多くの有機、無機の薄膜やデバイスを開発し、液体プロセスの可能性を示してきた。マイクロ液体プロセスは、ディスプレイ製造や実装の世界に暫時導入され、数年後にはこの分野の製造法を根本から変えるものと期待される。また、TFT回路をプラスティック基板上に形成する技術としてSUFTLA(Surface Free Technology by Laser Ablation/Annealing)プロセスを発明した(IEDM Tech. Dig., 1999)。このプロセスの利用により、それまではTFT回路の形成が不可能であった基板上にも回路形成が可能となる。この技術を利用して、フレキシブルな液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電気ディスプレイを開発、併せてSRAM、指紋センサ、非同期CPU(Digest of Tech. Papers of ISSCC05, 2005)などの電子デバイスもプラスティック基板上に形成することを実現し、SUFTLAはフレキシブルエレクトロデバイスを実現する最も先端的で具体性のある技術として注目されている。

6.受賞等

 平成 3年 5月 市村産業賞
 平成 5年 5月 科学技術長官賞(全国発明表彰)
 平成 6年 9月 日本応用磁気学会論文賞
 平成15年 4月 日経BP技術賞エコロジー部門賞
 平成16年 8月 Asia Display04/ IMID'04, Basic and Original Technology Prize, Grand Prize
 平成17年 7月 AM-LCD2004, Best Paper Awards
 平成18年 4月 日経BP技術賞情報通信部門賞