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【用語解説】

注1 アゾベンゼン:
シス体、トランス体という2つの異性体があるフォトクロミック分子で、紫外光を照射するとトランス体からシス体へ、可視光を照射するとシス体からトランス体へと異性化反応を起こします。異性化に伴って分子長が変化するため、巨視的には伸縮運動すると見なすことができます。分子ピンセットにおいては、光で駆動する動力源となっています。

注2 フェロセン:
平行にならんだ2つのシクロペンタジエニル基(5角形の平面状の官能基)の間に鉄原子をサンドイッチした構造を有しています。シクロペンタジエニル基は自由に回転することができるため、蝶番あるいはベアリングのような役割を果たすことができる部品としてはたらきます。分子ピンセットにおいては、アゾベンゼンの伸縮運動を回転運動に変換する働きを担っています。

注3 亜鉛ポルフィリン:
中央に亜鉛原子を有する、平面状のπ共役系分子です。中心の亜鉛原子が塩基性の窒素原子と強く相互作用する性質をもつため、その相互作用を利用して分子を捕らえることができます。

注4 ビイソキノリン:
医薬品原料や金属イオンの定量などに用いられる、キノリンの異性体であるイソキノリンが2つ結合した、塩基性窒素原子を有するプロペラ状の分子です。

注5 円二色性スペクトル:
円偏光という特殊な光を用いた測定法です。円偏光は回転の向きを持った特殊な光で、その向きにより、右偏光、左偏光という2種に分類されます。分子に円偏光を照射したとき、分子にねじれなどが生じていると右偏光と左偏光に対する吸収効率に差が生じます。その様子を測定したスペクトルを円二色性スペクトルと呼び、分子の立体構造の評価に用いることができます。

注6 紫外可視吸収スペクトル:
多くの有機分子は最外殻電子の励起に必要なエネルギーが紫外可視光領域にあるため、その範囲で特徴的な吸収を持ちます。その領域の吸収スペクトルを紫外可視吸収スペクトルと呼びます。