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科学技術振興機構報 第266号

平成18年3月9日

東京都千代田区四番町5-3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)8404(総務部広報室)
URL https://www.jst.go.jp

紫外光を選択的にカットするフィルタ機能を有した特殊レンズの開発に成功

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業 委託開発の開発課題「紫外光シャープカットレンズアレイの製造技術」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、産業技術総合研究所 光技術研究部門 光電子プロセスグループ主任研究員 角野広平氏らの研究成果を基に、平成15年3月から平成17年9月にかけて五鈴精工硝子株式会社(代表取締役社長 垂水孝至、本社 住所 大阪府大阪市西成区南津守6丁目3番地6号、資本金7,650万円、電話:06-6659-1575)に委託して、企業化開発(開発費約216百万円)を進めていたものです。
 映像情報機器においてますます高精彩、高輝度化が要求され、それに伴って光源の高輝度化が進められています。このような高輝度光源においては、光をカットするフィルタにより、液晶などにダメージを与える紫外線や赤外線を効率良く除去する必要があります。また、これらの映像情報機器は、業務用から家庭用へと市場が拡大しており、光学部品の機能複合化によるコンパクト化、低コスト化も強く求められております。
 本事業では、映像情報機器の1つであるプロジェクターに使われているレンズなどのガラス光学部品の表面層にステイン法注1と呼ばれる手法を用いて紫外光カットフィルタ機能を付与し、多機能化する技術を開発しました。また、この技術を用いて、紫外光シャープカット機能を有したレンズアレイ注2の作製・量産化に成功しました。
 本技術による紫外光カットフィルタは、従来品と比較して、紫外光吸収端の傾斜幅注3が狭い、420 nmより短波長の範囲で吸収端を調整することが可能、照射面における黒化現象(フォトダークニング)注4が抑えられるなどの特徴があります。また、どのような表面形状のガラスにも適応でき、さらに、部分的に紫外光カット機能を付与することも可能ですので、いろいろな光学部品への応用が考えられます。


本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)  映像情報機器における高輝度光源からの紫外線の効果的除去及び光学部品のコンパクト化、低コスト化

 今日、映像情報機器においてますます高精彩、高輝度化が要求され、それに伴って光源の高輝度化が進められています。このような高輝度光源においては、可視光以外の、液晶などにダメージを与える紫外線や赤外線をカットフィルタにより効率良く除去する必要があります。更に、これらの映像情報機器は、業務用から家庭用へと市場が拡大しており、光学部品の機能複合化・多機能化によるコンパクト化、低コスト化が急務の課題となっています。

(内容)  レンズの表面層に紫外線吸収機能を付与

 本事業では、映像情報機器で使用されるレンズなどのガラス光学部品に、紫外光カット機能を付与する技術を開発しました。また、この技術を用いて紫外線を選択的に除去する(シャープカット)機能を有するレンズアレイの作製・量産化に成功しました。
 本技術では、ハロゲン化物イオンを含有したガラスを用いて、あらかじめレンズアレイを作製します。作製されたレンズアレイの表面層に、ステイン法と呼ばれる手法を用いて、一価の銅イオンCu+を導入し、ガラス内のハロゲン化物イオンと反応させ、ハロゲン化銅(I)ナノ微粒子を析出させます。このハロゲン化銅(I)ナノ微粒子が紫外光を吸収するため、紫外光カットフィルタとなります(図1)。 本技術による紫外光カットフィルタは、吸収端の傾斜幅が小さく、透過率の立ち上がりがシャープであり(図2)、ハロゲン化物イオンの種類や作製条件によって吸収端の位置を420 nmより短波長の範囲で調整することが可能であるなどの特徴を持ちます。また、吸収型のフィルタ注5で問題となる照射面における黒化現象(フォトダークニング)も抑えられます。さらに、干渉型フィルタ注6におけるピンホール欠陥注7入射光の指向性注8などの問題もありません。またこれまでの吸収型フィルタと違って、表面層にのみ均一に紫外線吸収機能が付与されていることから、特殊な形状の光学部品に対しても、厚みの違いによる吸収特性のむらが生じません。

(効果)  映像情報機器における光学部品のコンパクト化・低コスト化に貢献

 今回開発された紫外光シャープカット機能付与技術は、
 1紫外光カットフィルタを有する光学系をコンパクト化させます。
 2どのような形状のガラス光学部品にも紫外光カット機能を付与することができます。
 3光学部品の任意の位置に選択的に紫外光カット機能を付与することができます。
 本開発では、プロジェクターで使用されているレンズアレイ(図3)を対象としましたが、レンズ以外の光学部品で紫外線を除去する必要がある部分にも利用可能であるため幅広い用途が期待されます。

用語解説
図1 紫外光カット機能付与技術
図2 紫外光カット機能を付与したガラスの透過率曲線
図3 開発した紫外光シャープカットレンズアレイの外観
開発を終了した課題の評価

【お問い合わせ先】

五鈴精工硝子株式会社 技術開発部 末次竜也
大阪府大阪市西成区南津守6丁目3番地6号 [電話(06) 6659-1575]

独立行政法人科学技術振興機構 産学連携推進事業本部
            開発部 開発推進課 菊地博道、山田寛
東京都千代田区四番町5-3  [電話(03) 5214-8995]