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科学技術振興機構報 第244号

平成18年1月26日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話(03)5214-8404(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp

インフルエンザウイルスが遺伝子を取り込む仕組みを解明

 JST(理事長:沖村憲樹)は、A型インフルエンザウイルス1)が増殖する際、新しく作られたウイルス粒子2)が自身の遺伝子を取り込む仕組みを明らかにしました。
 本研究チームは、様々な動物に由来するA型インフルエンザウイルス粒子の内部構造を電子顕微鏡で観察することに成功しました。その結果、A型インフルエンザウイルスは、8本のウイルス遺伝子を規則的に配置させ、8本まとめてウイルス粒子内に取り込むことを明らかにしました(図1-ab)。このことは、8本の遺伝子を規則的に配置させるステップが、遺伝子の取り込みに必須であることが示唆されます。
 今回の成果により8本のウイルス遺伝子を集合させる仕掛けを阻害できるようになれば、H5N1鳥インフルエンザウイルスなど全てのA型インフルエンザウイルスに対して有効な新規抗インフルエンザウイルス薬の開発につながることが期待されます。
 本成果は、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「免疫難病・感染症等の先進的医療技術」研究領域(研究総括:山西弘一(独立行政法人医薬基盤研究所 理事長))の研究テーマ「インフルエンザウイルス感染過程の解明とその応用」の研究代表者・河岡義裕(東京大学医科学研究所 教授)と野田岳志(東京大学医科学研究所感染症国際研究センター 特任助手)らによって得られたもので、英国科学雑誌「Nature」オンライン版に2006年1月25日(英国時間)に公開されます。

研究の背景:

 ウイルスが増殖するためには、他の生物と同様に、自身の遺伝子を次の世代に受け継がれなければなりません。すなわち、感染細胞で新しく作られたウイルスが自身の遺伝子をウイルス粒子内に取り込む過程は、ウイルス増殖において最も重要なステップのひとつです。
 A型インフルエンザウイルスの遺伝子は8本にわかれています。ところが、8本にわかれた遺伝子がウイルス粒子内に取り込まれるメカニズムについては、ほとんどわかっていません。これまで、不特定の本数と種類のウイルス遺伝子が個々のウイルス粒子内に取り込まれるという仮説と、規則的な仕組みに従って8種類8本のウイルス遺伝子が1つのウイルス粒子内に取り込まれるという仮説が唱えられてきました。しかし、インフルエンザウイルスが分離されて(ウイルスの正体が明らかにされて)70年以上もの間、多くの研究がなされてきたにも関わらず、インフルエンザウイルス遺伝子の取り込み機構はウイルス学の古典的な謎として残されたままでした。

今回の論文の概要:

 感染細胞から出芽するインフルエンザウイルス粒子を電子顕微鏡により観察したところ、個々のウイルス粒子が規則的に並んだ8本のウイルス遺伝子を取り込むことが明らかになりました(図1-ab)。この8本の遺伝子は、周囲の7本の遺伝子が中心の1つを取り囲むという、規則的な配置で存在していました(図1-b)。この特徴的なウイルス遺伝子の取り込み様式は、分離された動物の由来(ヒト、トリ、ブタ)、また粒子の形状(球形・細長い棒状)に関わらずA型インフルエンザウイルスの共通の特徴として認められました(図3)。これにより、すべてのA型インフルエンザウイルスが、8本の遺伝子を規則的に並べ、それを1セットとしてウイルス粒子内に取り込むメカニズムを共有していることがわかります。

今後期待できる成果:

 今回の成果により、A型インフルエンザウイルスがその遺伝子を取り込むには、8本の遺伝子を規則的に配置することが必須の条件であることがわかりました。その段階を阻害できれば、今回の成果が、将来、すべてのA型インフルエンザウイルスに有効かつ致死的な新規抗ウイルス薬の開発につながることが期待できます。また、インフルエンザウイルスを遺伝子ベクター3)として利用するための基礎研究が行われていますが、今回の成果は、外来遺伝子を効率よくインフルエンザウイルスに取り込ませるための重要な知見を含んでおり、今後のベクター開発に大きく寄与するものです。


【用語解説】
図1-a 出芽中のウイルス粒子の内部構造(縦断面)
図1-b 出芽中のウイルス粒子の内部構造(横断面)
図2 大きさが違うウイルス粒子の中にある8つの棒状構造物
図3 いずれのウイルスにも、8つ点がウイルス粒子断面に観察された。
図4 ひも状ウイルス粒子中の8つの棒状構造物の配置

【論文名】

「Architecture of ribonucleoprotein complexes in influenza A virus particles」
 (A型インフルエンザウイルス粒子におけるRNA−核タンパク質複合体の構造)
 doi :10.1038/nature04378

【研究領域】

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下のとおりである。
 ○「インフルエンザウイルス感染過程の解明とその応用」

(研究代表者:河岡 義裕 東京大学医科学研究所 教授)
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CRESTタイプ)
研究領域:「免疫難病・感染症等の先進的医療技術」
(研究総括:研究総括:山西 弘一 独立行政法人医薬基盤研究所 理事長)
研究期間:平成13年〜平成18年

【お問い合わせ先】

 河岡 義裕(かわおか よしひろ)
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス感染分野
〒108-8639 東京都港区白金台4−6−1
TEL: 03-5449-5504,  FAX: 03-5449-5408
E-mail:

 佐藤 雅裕 (さとう まさひろ)
独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造事業本部
研究推進部 研究第一課
〒332-0012 埼玉県川口市本町4−1−8
TEL: 048-226-5635,  FAX: 048-226-1164
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