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科学技術振興機構報 第227号

平成17年11月11日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話(03)5214-8404(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp/

「ガラス毛細管で三相系水素化反応の実用化に弾み」

=注射針の太さのガラス管で実用的規模の水素化反応が可能に=

 JST(理事長 沖村憲樹)は、金属触媒−反応溶液−水素ガスの三相系(固体/液体/気体)水素化反応をガラス製毛細管(キャピラリー)内で実施することで生産性の大幅な向上を達成した。
 ミクロの空間で化学反応を行うマイクロリアクターは、従来のバルク方式に比べて様々な利点を有し、次世代の反応装置・化学プロセスとして期待されている。例えば、幅が数十から数百マイクロメートルの流路(マイクロチャネル)では容積あたりの表面積が非常に大きく、接触面積が重要な因子となる多相系反応に適している。しかしながら、単に液体と気体とを流路内で混合するだけでは、それぞれが塊状となり広い接触面積を維持できない。また、ミクロサイズの流路に金属触媒を固定する技術も確立されていなかった。
 本プロジェクトでは昨年、独自に開発したナノサイズ金属クラスター(注1)の製造技術を応用することでパラジウム触媒(注2)をガラスチップ上のマイクロチャネル内に固定し、効率的な三相系水素化反応を実現した。しかしながら、本手法は単位時間当たりの生産量が少ないため、実用化には高価なマイクロチップの積層化と積層化技術の開発が必要であった。
 本研究では、化学工業分野で重要な三相系水素化反応における反応場として、板状のガラスマイクロチップに換えて管状のガラス製キャピラリーを用いて検討を行った。その結果、短い反応時間、高収率、高純度などのマイクロチャネルの利点を保ちつつ、生産性が大幅に向上することを見出した。ガラス製キャピラリーは、マイクロチップと比較して非常に安価、束ねるだけで積層化が容易、流路体積/支持体積が高いことから装置の小型化が可能などの利点を有する。本成果は、昨年開発したガラスチップ上での三相系水素化反応における実用化への課題を解決するものであり、マイクロ反応装置が並ぶ化学プラントの実現に大きく近づいたと言える。
 本研究成果は、JST戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATOタイプ)「小林高機能性反応場プロジェクト(研究総括 小林 修 )」によって得られたもので、ドイツの科学雑誌[Advanced Synthesis & Catalysis]のウェブサイト上にオンライン出版(11月15日:日本時間)されるとともに、12月号に掲載される。
 東京大学大学院薬学系研究科教授

1.背景

 マイクロリアクタ−(ミクロの化学反応装置)は分析化学の分野で開発され発展してきたが、近年は合成化学の分野でも注目されている。ミクロの空間における反応は、容積あたりの表面積が大きいことから温度コントロールが容易、多相系反応では相と相との接触面積が大きいため界面での反応効率が高い、などの利点を持つ。例えば、幅が数十から数百マイクロメートルの流路(チャネル)を持つリアクター(マイクロチャネルリアクター)の比表面積(表面積/容積)は、通常の反応容器のそれに比べて数十〜数百倍に達する。また、工業的には、スケールアップの条件設定や自動化が容易、反応の収率や選択性が高い、省資源・省エネルギー型のプロセスである、有害物質や危険物質を用いる際の安全性が高い、等の利点を有する。
 既に小林プロジェクトでは、有機相(液相)−水相(液相)による二相系のアルキル化反応(注3)が、マイクロチャネルリアクターを用いた連続フローシステム(注4)を用いることで、フラスコ内の反応に比べて加速されることを見出していた。また昨年には、ガラスチップ上の半円筒形マイクロチャネルの壁面にマイクロカプセル化法(注5)によって調製したパラジウム触媒(固相)を固定する技術を開発し、そのチャネル内を反応溶液(液相)と水素ガス(気相)が広い接触面積を保ちつつ流れるパイプフロー(注6)を実現することにより、三相系水素化反応を極めて効率的に進行させることに成功しているが、1枚のチップは単位時間当たりの生産量が少なく、実用化にはチップの積層化が必要であった。 しかしながら、マイクロチップは高価である上、流路体積/支持体積が小さいため、多数を積層化するとコストがかかり装置も大型化する。さらに、積層化技術が確立されていない等の問題点を残していた。

2.研究成果


2−1 マイクロキャピラリーの作成

 本研究に用いたパラジウム固定化マイクロキャピラリー(内径200マイクロメートル、長さ40センチメートル)は、市販のガラス製マイクロキャピラリーの内壁に化学的にアミノ基を導入後、マイクロカプセル化パラジウム触媒を結合することにより作成した。さらに複数(9本)のマイクロキャピラリーを束ねて一方の端を接着剤で固定し、T型のコネクターに接続した。T型のコネクターには水素ガスおよび原料溶液の導入管が接続している(下図)。

図1
参考写真1
水素ガスおよび原料溶液の導入管(左)に接続した9本のキャピラリー(右中央)

2−2 三相系水素化反応

本キャピラリーシステムを用いた三相系水素化反応を下図に示す。

三相系水素化反応の図

 本反応システムでは全ての原料が目的物に変換された(収率100%)。また、溶液の濃度および流速を最適化し、複数のキャピラリー(9本)を並列に用いた場合には、昨年報告したガラスプレート上のマイクロチャネルの280倍の生産性を実現できた。一方、反応の進行を連続的にモニターすることも容易で、生成物中への未反応物や副生成物の混入を防止できるとともに、反応溶液への触媒金属の漏出は認められず、溶媒を留去するだけで高純度の目的物を得ることができた。
 本システムは連続的に目的物を得る事ができることから、1本のキャピラリーカラムでも一ヶ月当たり数十グラムの化合物を得ることができる。また、積層化はキャピラリーを束ねるだけと非常に容易である。さらに、キャピラリー1本の容積はわずか0.5ミリリットル以下と本システムは単位体積当たりの生産量がきわめて大きい。従って、多数のキャピラリーを備えた実用的スケールの卓上型合成装置の開発も可能である。

参考写真2
左:反応溶液の送液ポンプ  右:キャピラリーから流出する生成物の受器

3.今後の展開

 通常、実験室の結果を工業的レベルに移行する際は反応条件の再検討が必要であるが、マイクロリアクターの場合は反応条件を変えずにリアクターの数を増やすだけである。リアクターがキャピラリーの場合は並列に束ねるだけであり、スケールアップのための積層化が極めて容易である。また、本技術は、酸化反応など水素化反応以外の多相系反応にも適用できる可能性が高く、現在検討を進めている。
 本手法の成功により多数のマイクロキャピラリーを束ねた化学プラントの実現に大きく近づいた。

用語説明
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本件問い合わせ先

 小林 修(こばやし しゅう)
科学技術振興機構
小林高機能性反応場プロジェクト 研究総括
〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1
東京大学大学院薬学系研究科有機反応化学教室
TEL: 03-5841-4790、FAX: 03-5684-0634
E-mail:

 星 潤一(ほし じゅんいち)
科学技術振興機構 戦略的創造事業本部
特別プロジェクト推進室 調査役
TEL:048-226-5623 FAX:048-226-5703
E-mail:

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