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科学技術振興機構報 第224号

平成17年11月9日

東京都千代田区四番町5-3
科学技術振興機構(JST)
電話(03)5214-8404(総務部広報室)
URL https://www.jst.go.jp/

プラスチック電線の"超微細連結"に成功

- 超極小電子素子への応用に期待 -

 JST(理事長:沖村 憲樹)は、2種類の異なる導電性高分子の"プラスチック電線"を1分子レベルで制御し、基板上で連結させる新技術の開発に世界で初めて成功した。
 これまで、同一の原料を用い基板上に1分子レベルでプラスチック電線を形成させることは可能であったが、種類の異なる原料を用いてプラスチック電線を基板上に1分子レベルで並べ連結させることは、反応性や拡散などの問題から非常に困難であった。
 今回開発した新技術は、気体中や固体中で行う従来法と異なり液中で電気を流しながら基板上に材料を堆積させるというメッキ技術(電気化学的方法)を用いた点に特徴がある。この技術を複数の異なった原料に適用することで従来技術の問題を克服し、基板上で2種類のプラスチック電線を1分子レベルで形成・連結することに成功した。
 今回、2種類の異なるプラスチック電線を連結できたことにより、これまでのプロセス技術(気相法、固相法)では困難とされてきた、電気的性質の異なる分子を思いのままに制御し、プラスチック電線を基板上で大面積に形成させることが可能となった。
 これにより、各種電子部品の分子レベルでの回路設計が現実のものに近づくとともに、これまでにない新しい性質を持つ整流素子や発光ダイオード等の極微電子部品の開発にも期待がもてる。
 本成果はJST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「構造制御と機能」研究領域(研究総括:岡本 佳男)の研究テーマ「分子ワイヤ・シンセサイザー」の研究者・坂口 浩司(静岡大学電子工学研究所 助教授)らによって得られた成果で、2005年11月11日付(米国時間)の米国科学誌「Science」に掲載される。

【成果の概要】

<研究の背景>

 導電性高分子*1とは、2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士らが開発した"電気を流すプラスチック"と言われるもので、通常は幅約0.3ナノメートル*2、長さ数十ナノメートルの1本の極微細な分子電線"プラスチック電線"(図1)が束になった構成となっている。この中を電子が高速に移動するためプラスチックでありながら電気を通しやすい性質を持つ。このため将来、材料の加工や利用サイズをナノメートルレベルに縮小できれば、携帯性に富む小型・軽量・高性能なディスプレイやトランジスタの実現が可能になると期待されてきた。
 導電性高分子をこれらのデバイスとして利用するためには、この材料を電子回路に必要な基板上にナノメートルレベルで任意に、かつ大面積に配置し、電気的性質を操ることが必要となる。特に、異なる電気的性質を持つ導電性高分子を基板上で自在に接合して配置することが可能になれば、希望する極小のデバイスを作る上での大きな一歩となる。
 しかしながら、導電性高分子は溶液に溶けにくく(不溶性)、また溶けてもそれ自身が集まりやすい(会合性)ため、これまでの技術では導電性高分子を分子レベルで基板上に配列したり、電気的性質を制御することは極めて困難とされ、同一原料によるプラスチック電線を1分子レベルで並べるところまでが技術的限界であった。中でも異なる電気的性質を持つ複数の分子を基板上に1分子レベルで並べ、連結させプラスチック電線を作ることは、反応性や拡散などの問題から困難とされていた。

<成果の内容>

 今回、坂口助教授らは電気化学的方法(液中で電気を流しながら材料を基板上に堆積させるメッキ技術)を用いることでこれらの困難を克服し、電気的性質の異なる2種類の分子を1分子レベルで任意に並べ・連結させて新たなプラスチック電線を作る新規技術を開発した(多段階電気化学エピタキシャル重合*3図2)。
 具体的には、ヨウ素で表面処理した金属基板にある種のチオフェン*4(Aと呼ぶ)と呼ばれる分子原料(モノマー)を含んだ電解質溶液中で電圧パルスを与えて、導電性高分子を基板上に1分子ずつ一方向につなぎ合わせ(成長させ)プラスチック電線を得た。更にこのプラスチック電線の付いた基板を別種のチオフェン(Bと呼ぶ)を含む電解質溶液中に移し、電圧パルスを与えると化学反応(重合反応)が起こり、基板上で2種類の異なる分子(AとB)を連結させることに成功した(図3:三連結プラスチック電線を示す)。更に原料溶液の種類を変えることにより、AB型、ABA型、ABAB型など様々な型で異種分子を連結できることが明らかとなった。この結果は、異なる電気的性質を持つ分子を任意に連結させて従来にない新しい性質を持つ有機分子からなる"極微小電子部品"の作成が可能であることを示した世界初の成果である。

<今後の展開>

 今回の研究結果は、基板上に一方向に並べた異種類の分子電線"プラスチック電線"を1分子レベルで"接続"できることを示した世界初の成果であり、ナノスケール次世代高機能電子デバイスの開発に大きなインパクトを与えることが期待される。
 なかでも、分子からなる整流素子(電子を一方向に流す電子部品)や発光ダイオード(表示素子)への応用が期待されるほか、各種電子部品の分子レベルでの回路設計が現実のものとなる可能性を秘めている。

以上
用語解説
図1.1本の"プラスチック電線"の構造
図2.電気化学的方法による2種類のプラスチック電線連結法
図3.電線Aを二つの電線Bで挟んだ"三連結プラスチック電線"

【論文名】

“Direct Visualization of the Formation of Single-Molecule Conjugated Copolymers”
(共役系高分子・異種接合の単一分子直接可視化)
doi :10.1126/science.1117990

【研究領域等】

 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
 「構造制御と機能」研究領域(研究総括:岡本 佳男)
研究課題名: 分子ワイヤ・シンセサイザー
研究者: 坂口 浩司(静岡大学 電子工学研究所 助教授)
研究実施場所: 静岡大学 電子工学研究所
研究実施期間: 平成17年10月~平成21年3月

【問い合わせ先】

坂口 浩司(サカグチ ヒロシ)
 静岡大学 電子工学研究所
 〒432-8011 浜松市城北3-5-1
 TEL:053-478-1312
 FAX:053-478-1312
 E-mail:

白木澤 佳子(シロキザワ ヨシコ)
 独立行政法人科学技術振興機構
 戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第二課
 〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
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