科学技術振興機構報 第164号

平成17年3月29日
東京都千代田区四番町5−3
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シクロフィリンDの関与する細胞死のメカニズムの解明

 JST(理事長 沖村 憲樹)の研究チームは、梗塞(注1)などが原因で起こる細胞死に、ミトコンドリア(注2)が正常な機能を失う現象が関与しているが、その現象にはシクロフィリンD(注3)という酵素が関与していることを突き止めた。
 これにより、シクロフィリンDが心筋梗塞や脳梗塞の治療薬を開発する上で、重要な手がかりとなることが期待される。
 本成果は、戦略的創造研究推進事業 発展研究(SORST)の研究テーマ「細胞死シグナル伝達分子を標的とした疾患治療薬の開発」(研究代表者:辻本賀英 大阪大学大学院医学系研究科教授)で進めている研究により、辻本賀英教授、清水重臣同助教授らの研究グループによって得られたもので、平成17年3月31日付の英国科学雑誌「ネイチャー」で発表される。

 細胞死のメカニズムの破綻が様々な疾患の原因となっている。また、細胞死にはアポトーシス(注4)ネクローシス(注5)など複数のメカニズムがあることが知られている。しかし、疾患の発症に関わる細胞死がどのようなメカニズムで起こっているのかに関しては、不明な点が多い。そのメカニズムを解明することは、実際に疾患の治療を考える上で極めて重要である。
 一方、ミトコンドリアは細胞死の一種であるアポトーシスとネクローシスの双方において重要な役割を演じており、ミトコンドリアの膜の透過性が亢進したり(注6)、ミトコンドリアが正常な機能を失う事で、細胞死が起こることが知られている。その細胞死が起こる過程に、シクロフィリンDの関与が示唆されていたが、詳しくはわかっていなかった。

 今回、辻本グループは、シクロフィリンDを欠損したマウスを作成することにより、細胞死におけるシクロフィリンDの役割の解明に成功した。
 つまり、シクロフィリンDが関与してミトコンドリアが正常な機能を失う現象が、アポトーシスには重要な寄与をせず、ネクローシスに重要な寄与をすることが明らかになった。具体的には、シクロフィリンD欠損細胞は正常な細胞と同様にアポトーシスを起こしたが、酸化ストレスや梗塞などにより誘導されるネクローシスを起こさないことを発見した。また、シクロフィリンD欠損マウスに対し、心虚血再灌流(心筋梗塞のモデル)による組織変性誘導を行ったところ、組織変性を殆ど起こさないことを発見した。

 以上の成果は、細胞死の分子機構の解明に大きく貢献するにとどまらず、心筋梗塞や脳梗塞により起こる組織変性の阻止に対し、シクロフィリンDが有効な治療の為の標的であることを示している。また、これら疾患の有効な治療薬の開発に向け、今回の発見は極めて重要である。

<参考:論文タイトル>

Cyclophilin D-dependent mitochondrial permeability transition regulates some necrotic death but not apoptotic cell death
(シクロフィリンD依存的ミトコンドリア膜透過性亢進現象によるネクローシスの制御)
doi :10.1038/nature03317


この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。

研究領域:戦略的創造研究推進事業(SORST)
研究期間:平成14年11月〜平成19年10月

用語説明
図1. シクロフィリンD依存的ミトコンドリア変性のネクローシス誘導への関与
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本件問い合わせ先:

辻本 賀英(つじもと よしひで)
 大阪大学大学院医学系研究科・遺伝子学
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 Tel:06-6879-3360 Fax:06-6879-3369
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相馬 融(そうま とおる)
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