科学技術振興機構報 第131号

平成16年11月22日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
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透明で曲げられる高性能トランジスタを実現

− フレキシブルなディスプレイへのブレークスルー ―

 JST(理事長:沖村憲樹)は、独自に見出した「In−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物半導体」を活性層に用いることで、ポリエチレンテレフタラート(PET)など軽量で曲げられるプラスチックフィルムの上に、高性能透明薄膜トランジスタ(TFT)を作製する事に成功した。活性層に用いたアモルファス酸化物半導体は、アモルファスシリコン、有機半導体に比べて、10倍以上の電子移動度[〜10cm/(V・秒)]を有し、飽和電流、スィッチング速度などのトランジスタ特性が10倍以上に向上する。
 今回の成果は、室温形成と高性能という相反する要求を満足する初めての材料の実現であり、現在関心を集めているフレキシブルなディスプレイ実用化に向けての、大きなブレークスルーとなる可能性が高い。この研究成果は、戦略的創造研究推進事業継続研究(ERATO-SORST)の「透明酸化物のナノ構造を利用した機能開拓と応用展開プロジェクト」(総括責任者:細野秀雄、東京工業大学 フロンティア創造共同研究センター教授)によるもので、11月25日発行の英国科学誌「Nature」に掲載される。

[背景]

 電界効果型トランジスタ(FET)は、マイクロエレクトロニクスの最も基本的な構成要素で、中でも、ガラス基板上などに成膜された半導体膜を活性層として用いる薄膜トランジスタ(TFT)は、液晶や有機半導体発光ダイオード(有機EL)などの平面ディスプレイ類を駆動するスイッチ素子として不可欠なデバイスである。液晶ディスプレイ(LCD)などの応用には、大型の基板の上にTFTを形成することが必要なため、活性層として、単結晶のシリコンに代わって、ガラス板の上に比較的高温プロセスで形成されたアモルファスや微結晶のシリコン膜が、専ら使われている。
 しかしながら、最近では軽量でかつ曲げられるディスプレイなどを可能とするフレキシブル電子デバイスに対する要求が社会的に強く求められるようになっている。この要求を満たすには、ガラスではなくプラスチックの上に半導体の薄膜を形成しなければならない。シリコンを用いた場合、最も低温で薄膜を作製できるアモルファスシリコンでも220℃程度の高温が必要なので、150oC以下でしか使用できないPETなど廉価なプラスチックフィルム上へTFTを作製することは困難である。このため、有機物半導体が専らその候補として世界中で精力的に研究されており、アモルファスシリコン並みの性能を有するTFTも報告されるようになった。しかしながら、その性能は、高精細LCDあるいは有機ELを用いた高性能表示デバイスを駆動するには不十分であり、より高い性能を持つTFTの実現が求められている。また、有機物半導体は、熱的・化学的な安定性が十分ではなく、デバイスの信頼性向上が課題となっている。

[今回の成果]

 本研究プロジェクトは、透明酸化物の機能材料としての可能性を探索したERATO「透明電子活性プロジェクト」の継続研究として推進しているものであり、透明酸化物の機能開拓と並行して、これまでの探索研究の成果をベースとした応用を睨んだ展開をおこなうことになっている。ERATOではInGaO(ZnO)4という透明酸化物半導体の単結晶薄膜を容易に合成できるプロセスを考案して、その薄膜を用いてTFTを作製することで、透明なトランジスタとして、従来よりも1〜2桁高い性能を実現した(Science,2003)。しかしながら、このプロセスでは1000 ℃という高温を必要とするため、透明酸化物半導体のポテンシャルを初めて実証することはできたが、プラスチック上に高い性能のTFTをつくるという実用上の課題に応えることはできなかった。
 そこで本継続研究では、新たな発想でこの実用的な課題に取り組み、アモルファス透明酸化物半導体という、これまでTFTの活性層として全く注目されていなかった物質を採用することで、PETなどのプラスチックフィルム上に薄膜を容易に形成でき、かつ アモルファスシリコンや有機トランジスタを活性層に用いたTFTよりも約10倍優れた高性能を実現することに成功した。開発したアモルファスIn−Ga−Zn−O材料系は、無機物半導体であるため、熱的・化学的な安定性に優れた環境にやさしい材料である。また、本アモルファス半導体材料は透明であるため、ディスプレイ類へ応用したときにバックライト光を有効に利用して省電力化する、窓/フロントガラス上に情報を表示するヘッドアップディスプレイを実現する、といったことも期待できる。

[今後の展開]

 「曲がるディスプレイ」や「電子ペーパー」、さらには「ウエラブルなコンピュタ」の実現を可能とする「フレキシブルエレクトロニクス」は、これまで有機半導体が専ら研究対象とされてきた。本研究成果によって、有機半導体よりも一桁性能が高く、かつ安定性に優れた透明アモルファス酸化物半導体がこの分野に応用可能であることが初めて明らかになった。本トランジスタの活性層に用いたアモルファス酸化物半導体は、N型伝導体であるが、同研究プロジェクトはN型だけでなく、既にP型のアモルファス酸化物半導体も見出しており、これらの成果を契機に、今後、具体的なデバイス応用に向けた研究が大きく加速するものと期待される。

[論文名]

"Room-temperature fabrication of transparent flexible thin-film transistors using amorphous oxide semiconductors" Nature 2004年11月25日号
「室温プロセスで作製したアモルファス酸化物半導体を用いたフレキシブル薄膜トランジスタ」
doi :10.1038/nature03090

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本件問い合わせ先:

細野 秀雄(ほその ひでお)
東京工業大学 フロンテイア創造共同研究センター 教授
〒226-8503  神奈川県横浜市緑区長津田町 4259
 TEL: 045-924-5359、FAX: 045-924-5339

古賀 明嗣(こが あきつぐ)
独立行政法人 科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 特別プロジェクト推進室 調査役
〒332-0012  埼玉県川口市本町4-1-8
 TEL:048-226-5623 FAX:048-226-5703

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