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別紙1

平成27年度 可能性調査採択課題の概要 一覧

フューチャー・アース構想の推進事業「フューチャー・アース:課題解決に向けたトランスディシプリナリー研究の可能性調査」

<Phase1>

実施期間:6ヵ月、研究開発費:1件400万円以内
題名 研究代表者名
所属・役職
概要
半乾燥熱帯農村部における気候変動レジリアンス構築へ向けた総合的支援策策定のためのトランスディシプリナリー研究の可能性
梅津 千惠子
長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科
教授
本フィージビリティスタディ(以下、FS)は、将来の気候変動が予測される半乾燥熱帯地域において、小規模農民の気候変動への適応能力を強化する総合的支援策の策定を目標に、トランスディシプリナリー研究(以下、TD研究)の実施可能性を調査する。 総合的支援策とは、農業技術普及、食と栄養、天候インデックス保険注)という3つのアプローチを統合し、食料生産技術の向上のみではない包括的なアプローチを意味する。それによって気候変動に由来するリスクの低減と気候変動への適応能力を強化し、農村世帯の食料安全保障を高めレジリアンスの確立に寄与する。FSでは、包括的なアプローチに向けた枠組みの構築、とりわけ研究者が政府機関や民間の開発NGOなどのステークホルダーと協働(Co−Design)することの実現を主な課題とする。 なお、本FSが実現を目指しているTD研究は、アジア・アフリカに広く分布する半乾燥熱帯地域を対象とするものであるが、FSにおいては参加研究者の側にすでに研究蓄積のあるサブサハラ・アフリカのザンビアを対象とする。FSの結果に基づき、インドやタイなどアジアの半乾燥熱帯地域も含むグローバルなプロジェクトを企画したい。
分野間連携による水災害リスク管理の社会実装
小池 俊雄
土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)
センター長
モンスーンで特徴付けられるアジア域には、人口が集中し、活発な社会経済活動が展開されている。この世界最大の水循環システムであるアジアモンスーンの時空間変動性は大きく、洪水による人的被害は世界の8割にも及んでおり、渇水時に受ける経済的、社会的打撃が深刻で、活発な造山帯における土砂災害も頻発している。 防災・減災の一義的責務は国家にあり、被害データを取得し、統計化して、リスクアセスメントにより、社会資本整備の計画と投資を適切に進めることが求められている。また、水災害から迅速に復旧してより良く復興できるレジリエントな社会の構築が求められており、そのためにはコミュニティ−や個々人の防災リテラシーの向上が必要と考えられている。 本研究では、データ基盤開発、分野間連携による統合モデル開発、フィールド研究および地域協力の枠組みのこれまでの成果をもとに、地方レベル、国レベル、アジア地域レベルにおいて、水災害および関連データの統合的アーカイブ、分野間連携による水災害リスクの統合的アセスメント、水災害に対するレジリエンスの確立と能力開発を目指す。
貧困条件下の自然資源管理のための社会的弱者との協働によるトランスディシプリナリー研究
佐藤 哲
総合地球環境学研究所 研究部
教授
経済のグローバル化が加速する中で、アジアの新興国、アフリカおよび南太平洋の開発途上国などにおける経済的格差と貧困層の生活の困難は、解決の兆しを見せていない。貧困層に代表される社会的弱者は、農林水産業を通じた自然資源利用を主たる生業とすることが多く、貧困層の福利の向上を自然資源の持続可能かつ効果的な活用を通じて実現する仕組みが必要とされている。 本FSは、研究代表者らが構築してきたTD研究のプロトタイプである「生活圏における対話型熟議(DDLS)」の理念と方法論を、アジア太平洋・アフリカなどの6地域の現場における社会的弱者との協働を通じて練り上げ、汎用性の高いTD研究手法を開発することを目指す。DDLSを核とした自然資源の持続可能な利用にかかわる課題抽出と、その解決に資する研究の協働設計、地域社会で具体的に進展している内発的イノベーションの抽出と、それにかかわる知識技術の協働生産、弱者自身による内発的な行動変容を支援するフォーマル・インフォーマルな制度や仕組みの協働実装を試み、課題解決に直接貢献できるTD研究を設計・試行する。 これによって、後発開発途上国から新興国にいたる多様な社会生態系システムに適用可能な、社会的弱者との協働による新しいTD研究の理念、方法論、期待される効果を解明し、国際TD研究プロジェクトを協働設計する。
持続可能な社会へのトランスフォーメーションを可能にする社会制度の変革と設計
西條 辰義
一橋大学 経済研究所
教授
現代社会を支える2つの柱が市場制と民主制である。市場制は人々の短期的な欲望を実現する優秀な仕組みではあるものの、将来世代を考慮に入れて資源配分をする仕組みではない。一方、市場制を補うはずの民主制も現世代の利益を実現する仕組みであり、将来世代を取り込む仕組みではない。将来世代は存在しないため、市場や投票に参加することができないからである。 持続可能な社会への転換を可能にするために、存在しない将来世代に代わって仮想将来世代を現世代に導入し、持続可能性を含む新たな社会を創造する枠組みとして「フューチャー・デザイン」を提唱している。ただ、仮想将来世代を現代に導入することを通じて社会制度そのものがどのように変革されるのか、また、どうすれば変革ないしは転換が可能になるのかに関する研究成果を得るにはいたっていない。また、国内外において社会のそのものの転換を具体化する研究ないしは知見はほとんどないのが現状である。そのため、仮想将来世代が機能するのかどうか、機能するならその環境を識別するためにどうすればよいのかに関する可能性調査が本提案である。
グリーンインフラによる持続的な国土構築に関する可能性調査
島谷 幸宏
九州大学 大学院工学研究院 環境社会部門
教授
地球温暖化により地球規模で、豪雨災害、高潮あるいは渇水の頻度が上昇することが予測される。さらに日本では首都直下型地震、東南海地震など大型の地震の発生が予想されるなど、大規模な災害の発生が懸念されている。また世界に先んじて人口が急激に減少しており、都市や流域の環境劣化、国土インフラの維持や管理が大きな課題となっている。これらを解決する持続可能な手法として、自然生態系の機能を活用したグリーンインフラが注目されている。グリーンインフラは、「自然力や自然の仕組みを賢く活用することで社会と経済に寄与する国土形成手法」と定義され、森林、河川、草地、農地などを適正に管理し、連結させることが必要である。しかし、グリーンインフラは概念が先行しており、具体的なプロジェクトイメージ、計画手法、評価手法は確立されておらず、学問的な蓄積がないのが大きな課題である。 本FSでは、都市、流域、災害の3つの領域の6つの対象地に対して、グリーンインフラ素案を作成し、実装研究を行う上でのステークホルダー・研究項目の抽出、評価手法の検討を行い、研究計画の具体化を図る。
物質好循環型社会に向けた技術と暮らしの価値観の共創の可能性調査
吉岡 敏明
東北大学 大学院環境科学研究科
教授
地球環境問題解決や持続可能な社会の実現において、近年の循環型社会の形成への取り組みはゴミの分別とリサイクル技術(Re−cycle)が主役であった。一方、豊かで環境影響の少ない循環型社会の形成のためには、Re−cycleだけでなく、豊かさを感じながらモノの購入(Re−duce)と再利用(Re−use)の方法を変革するライフスタイルのイノベーションや、法整備によって循環社会を進化させることが重要であり、これらを牽引するためには、科学、社会経済、そして自然環境をつなぐTD研究が非常に重要である。 そこで本FSでは、深刻なゴミ問題を抱えるインドネシア・バンドン市を対象に、単に資源の利用効率や生活環境を向上するための手段としてのRe−duce、Re−use、Re−cycle(3R)ではなく、高質なものを長く慈しみながら利用する、時間をかけて3Rの一部を担うといったことが我々の生活にもたらす豊かさを、経済性や暮らしやすさ、持続可能性と矛盾なく実現するためのAffluent 3Rによる好循環型社会の形成を推進するTD研究実施の可能性について調査する。

注)天候インデックス保険:広域で観測可能な天候指標(降水量、気温など)を天候による農作物被害の代理指標として用いて保険金の支払いを決定する保険

<Phase2>

実施期間:6ヵ月、研究開発費:1件800万円以内
題名 研究代表者名
所属・役職
概要
インドネシアにおける小規模アブラヤシ農園の持続可能ガバナンスの樹立に向けて
岡本 正明
京都大学 東南アジア研究所
准教授
本TD研究は、泥炭林を含む熱帯林破壊の主要な一因であるアブラヤシ農園の拡大に着目し、持続可能なアブラヤシ栽培のためのガバナンス・モデルの提示を目的とする。アブラヤシから取れるパーム油は汎用性が高く最安価な植物油なため需要は伸び続けている。東南アジアのみならず、ラテンアメリカや西アフリカの熱帯地方でもアブラヤシ農園拡大の動きがあり、森林伐採以外にもさまざまな問題をもたらしている。西側の環境系NGOを中心とした農園拡大批判もあり、多様なステークホルダーを巻き込んだ円卓会議RSPOが2001年に発足し、持続可能なパーム油生産のための認証制度が始まった。さらに、インドネシアでは、政府が持続可能なパーム油生産の実現をステークホルダーに義務付けた。大企業経営者にとっては可能でも、急速に数を増している小農たちにとっては、コストのかかる持続可能な農園経営は困難である。本FSでは小農たちが多く住む農村地帯に焦点を当て、多様なステークホルダーを巻き込みながら、持続可能な村づくりを目指す村落条例案、さらには全村を視野に入れた県条例案を作る道筋を考えたい。グローバル・レベル、国レベルが求めはじめた持続可能な農園経営をボトムアップの動きで実体化していくことを目指す。
気候工学(ジオエンジニアリング)のガバナンス構築に向けた総合研究の可能性調査
杉山 昌広
東京大学 政策ビジョン研究センター
講師
気候工学は人工的に気候システムに介入して地球温暖化の影響を抑える新たな対策であり、地球温暖化対策の遅れゆえ急速に関心が高まっている。 気候工学の一種である太陽放射管理(Solar Radiation Management, SRM)は未成熟な技術であり、気候冷却の効果はある程度想定できるが、地域的な気候変化やさまざまな副作用、人為的気候制御の倫理的課題など潜在的に多くの問題を抱える技術である。したがってステークホルダーとの協働の上で(研究開発を途中で止めるというオプションも含めた)適切な科学技術ガバナンスが必要である。 本FSのPhase1では日本のステークホルダーとワークショップを開催し、SRM、その中でも成層圏エアロゾル注入に関する研究課題をCo−Designした。Phase2ではこれらの研究課題から一部を選定し、Co−Productionを試行する。これにより、TD研究を本格実施する際の研究計画について、学術的実行可能性、分野横断的協力研究体制、発展可能性などについて検討する。 またPhase1では現実性を鑑みて日本のステークホルダーに焦点を絞ったが、Phase2ではアジアとの協働体制の検討や、各国の市民との対話についても基礎調査を行い、SRMガバナンスのTD研究における望ましい協働のあり方について検討する。
環境・災害・健康・統治・人間科学の連携による問題解決型研究の可能性調査
矢原 徹一
九州大学 持続可能な社会のための決断科学センター
センター長
フューチャー・アースは、気候変動・生物多様性損失など、人類社会の持続可能性を脅かす地球環境問題の解決を目指す科学研究プログラムである。従来のプログラムとの大きな違いは、ステークホルダーとのCo−Design、Co−Productionを重視している点にある。ステークホルダーとのCo−Design、Co−Productionは意思決定プロセスであり、価値観や利害が異なるステークホルダー間の調整が必要とされる。しかし、価値観の違いや利害の不一致を調整し、Co−Designによる意思決定を成功させる方法論は、定まっていない。本FSでは、この意思決定のあり方自体を科学的研究の対象とし、環境・災害・健康・統治・人間科学という5つの学際科学の成果を地球環境問題などの社会的問題解決に結びつける方法論を検討する。具体的には、カンボジア・インドネシア・バングラデシュ・屋久島・対馬などの現場で、科学者・行政・市民・企業による協働を実践し、自然科学的な観測や社会科学的な調査を行うとともに、その成果を生かすための意思決定・合意形成のあり方を検討する。Phase2では、Phase1において試行したCo−Designによる研究を実施する手続きとそこからもたらされる成果の評価法について検討する。

<総評>フューチャー・アース委員会 委員長 安岡 善文(東京大学 名誉教授)

今回2回目の公募となったフューチャー・アース(以下、FEと略記)構想の推進事業「フューチャー・アース:課題解決に向けたトランスディシプリナリー研究の可能性調査」(Phase1)には、昨年度を超える29件の応募があり、グローバルな地球環境問題の解決に取り組む研究者のコミュニティにおけるFEへの関心の高まりが感じられるものとなりました。

FEでは、自然科学研究者、人文社会研究者が協働する文理融合研究を進めること、またステークホルダーを巻き込んだCo−Design、Co−Production、Co−Deliveryを行うトランスディシプリナリー研究(以下、TD研究と略記)を進めることにより、社会の課題を解決することが求められています。今回のPhase1ではその構想をさらに促進するために、人文・社会科学分野の研究者が中心的な役割を担う提案、また、アジアにおけるTD研究を推進する重要性から、アジアを対象とした研究開発課題の設定や実施体制の構築を図る提案を重視し、上記の6件を採択しました。

さらに、昨年度Phase1に採択された課題を対象に、Phase2としてCo−productionの試行に取り組む課題を募集し、TD研究の国際プロジェクト化への展開や、ステークホルダーの拡大・ステークホルダーとの協働の深化が期待できるかなどの観点から、上記3件を採択しました。

FEはいまだ手探りの状態であり、その方法論や研究の仕組みは確立していません。今回採択されたプロジェクトが、FEが必要とする研究の新たな方法論の構築を目指し、研究推進のための国際的なネットワーク作りを進めることによって、FE構想のさらなる発展に資することを期待します。