本研究領域は、芸術と科学技術の融合領域である「メディア芸術」に本格的に取り組んだCRESTとしては初めての試みであり、日本のみならず世界の文化芸術の振興支援の面に加えて、産業育成の面からも非常に重要性の高いプロジェクトである。この研究領域では、「メディア芸術という新しい文化作品の制作を支える先進的・革新的な表現手法とこれを実現するための新しい基盤技術を創出する」ことを目的としているが、このメディア芸術の分野の研究開発の新しいスタイルを構築していくことの価値も非常に大きいものと期待される。今後とも、従来の研究開発の枠にとらわれない斬新なアプローチで取り組んでいただきたい。
研究領域全体としては、研究のねらい、選考方針、採択結果も非常にバランスがとれており、この4年間、それぞれのチームの活動は非常に活発で、研究成果も順調に出ており、研究領域終了時までにさらに高い成果が達成できることが期待される。また、領域全体の運営方針も挑戦的かつ戦略的であり、数々の 新企画や展示イベントも主導して開催を実現している点は高く評価できる。
さらに、これらの研究成果の当該分野の進展への寄与についても、
点から見て、その度合いは大きいものと考えられる。
今後の研究推進にあたっての提言としては、以下の点を挙げたい。
本研究領域は、「文化と科学技術の融合領域であるメディア芸術を支える先進的・革新的な表現手法とこれを実現するための新しい基盤技術の創出を目的とし、芸術・文化、社会・産業、科学・技術それぞれの観点から総合的に取り組もうとしている」ものであり、メディアに関連する技術の進展状況、ならびにメディア芸術の位置づけを考えた場合、時宜を得た非常に重要性の高いプロジェクトであり、その社会的インパクトも大きく、極めて先進的かつ野心的なものと高く評価できる。
課題の選考方針については、研究内容だけで選考するのではなく、メディア作品の制作側との協働・協力を重視して真に革新的な科学技術の創出を意図した点は適切である。
領域アドバイザーについても、芸術と技術、大学と企業、地域等のバランスがうまく取れた上で、それぞれの分野の第一人者が選ばれており、見識および分野の網羅性から見て適切である。また、採択課題についても、多数の応募の中から、我が国トップクラスの研究者による適切な課題が選ばれており、技術系とアート系のバランス、芸術・文化、社会・産業、科学・技術の3つの観点のバランスもうまく取れている。
文化と科学技術の融合領域である本研究領域は、従来の科学技術分野の領域と異なり、その研究マネジメント手法そのものを新たに確立していく必要がある。そのような点から、研究領域総括の強いリーダーシップのもとで、
は、極めて高く評価できる。
さらに、本研究領域においては、研究者相互の理解と意識の共有が重要であると考えられることから、単なる研究発表会でなく作品を中核に据えた発表を重視して取り組まれた「予感研究所」や「先端技術ショウケース」等の先進的な企画の開催は優れた活動として特筆される。
また、課題間の連携については、特にアート側と技術側の協調が特に重要であると考えられる。この観点から、イベントを通じた交流やサイトヴィジットなど種々の活動が実施されており、その点が考慮されたマネジメントが行われている。但し、課題間の連携は、余計なパワーをそこに費やして、本来の目的を阻害する可能性もあるので、その点については配慮をお願いしたい。
研究進捗状況の把握と指導についても、十分になされていると考えられる。さらに、研究費の配分についても、課題に応じてメリハリを付けた配分となっており、適切に処理されている。今後の取り組み、特に後半に向けての課題についても、重要なポイントがしっかりと押さえられている。
本研究領域において設定された3つの目標に対する達成状況については、以下のように考えられる。
以上から、本研究領域の目標は高い水準で達成されていると考えられる。
次に、今後期待される、科学技術の進歩に資する成果や,文化的・社会的・経済的な効果・効用に資する成果の達成状況について述べる。
本研究領域は,メディア芸術の制作を支える先進的・革新的な表現手法と,これを実現するための新基盤技術を創出することを目的としており、世界に類のない我が国のメディア芸術を横断的にとらえた研究領域となっている。この分野において、特に芸術面で現在求められていることは、メディア芸術というジャンルのアイデンティティの確立と高度化、そして体系化である。そのような観点から考慮すると、本研究領域の成果である新しい基盤技術に基づいた作品群から垣間見られるメディア芸術の方向性からは、単なる高度化の実現だけではなく、今後の体系化につながる可能性は高いものと期待される。なお、本研究領域の成果は、メディア芸術という日本独自の新たな文化の創造につながっていくものであり、文化的効果・効用は大きいものと考えられる。
さらに本研究領域においては,デジタルコンテンツ業界が抱える問題点の解決を図る,あるいは,広く国民全般の自己実現に資するという視点も導入されていることは,本領域が社会とのつながりを重視している証として極めて重要であり、研究成果の社会的・経済的な効果・効用にも当然つながっていくものと考えられる。
最後に今後進めていく上での留意すべき点について触れておく。
1つ目は、研究成果の学術的体系化、理論化である。最初に述べたように、それぞれのチームは、新基盤技術の創出や作品として、個別に立派な成果を 挙げているが、それらを体系化、理論化することにより、研究成果やその意義が、研究領域全体として統一的に見える形に持っていく努力を期待したい。
2つ目は、インターネットとの関係である。インターネットの発達により,様々なビジネス,ビジネスモデルがインターネットを舞台に次々と生まれ,また,市民が広くコンテンツ提供者となりうる時代となっている。このことから,今後,開発技術とインターネットの関係について,技術そのものの指向性及び開発した技術と社会の関わりの両面で整理し,その結果必要と認められれば,強化してゆくことが望まれる。
3つ目は、チーム間の連携に関するものである。連携できるものは積極的に領域内で連携して新たな成果を構築する必要があるが、一方、基盤技術の確立が重要なプロジェクトについては学問・技術の深化を優先するのが望ましく、このあたりについては、研究領域総括のマネジメントを期待したい。
4つ目は、人材育成に関するものである。本研究領域においては、既成の組織や従来の専門分野を越えて活躍する若手人材を育成する重要性が指摘されており、バーチャル研究所の日常活動を常態化させ、若手研究者、技術者、アーティストが集い、自由闊達に活動できる“場”を創成されることを望みたい。
なし
(1) 研究領域として戦略目標の達成に向けた状況
(1-1) 研究領域としてのねらいに対する研究成果の達成状況
特に優れた成果が得られつつある。
(1-2) 今後期待される科学技術の進歩に資する成果や、社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果の達成状況
特に優れた成果が得られつつある。
(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われている。