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平成26年11月19日

科学技術振興機構(JST)
東京大学 大学院工学系研究科

「電気代そのまま払い」の実現に向けた枠組み作りを提案
〜くらしからの省エネを進める政策デザイン研究報告〜

ポイント

JST(理事長 中村 道治)低炭素社会戦略センター注1)(「LCS」:センター長 小宮山 宏)と東京大学は、「電気代そのまま払い」(図1)の実現に向けた枠組み作りを提案します。

家庭に省エネ対策を導入することで、エネルギー需要を大幅に削減できる可能性があります。一方で、初期費用やローンの支払いを嫌う傾向が、低炭素技術の導入を進める上で障壁となっています。そのため、個人の購買意欲を高め、低炭素技術を導入しやすくする仕組みとして、LCSと東京大学は共同で「電気代そのまま払い」(図1)を提案してきました。さらに、LCSで実施したアンケート調査(図2)や英国のグリーンディール(図3)の実情調査の結果、「電気代そのまま払い」の実現には、ローンを組みやすくするために、家庭が金融機関などから融資を受けやすくする工夫と、省エネに対する提案や返済の手続きを一括して代行するワンストップサービスの枠組み作りが必要であることが分かりました。

「電気代そのまま払い」は、家庭の低炭素技術導入に必要な初期投資を金融機関などが融資し、導入によって得られる電気代の節約分をローン返済に充てることで、初期費用がゼロでもできる低炭素技術導入を実現します。さらに月々の電気代の支払額は今までの水準以下とし、返済が終了した後は家庭が節約メリットを享受できるようにするものです。例えば1990年頃製造の冷蔵庫を最新機種に買い替えると、年間約1万8千円の電気代の節約となり、本体価格10〜20万円の場合、約6〜12年で返済できます。ワンストップサービスの制度の実施にあたっては、環境省が進める「家庭エコ診断注2)」の活用を、制度に参入する事業者の認証には、国がすでに実施している「J−クレジット制度注3)」の活用を考えており、さらにこれらの制度との相乗効果を期待しています。

英国の実情調査をもとに、日本の金融機関、関係する省庁の政策担当者、研究機関などとの意見交換の一環として、LCSと東京大学 大学院工学系研究科 松橋 隆治 教授の研究室(COI−S注4))は共同で「くらしからの省エネを進める政策デザイン研究国際ワークショップ−英国グリーンディールを参考に」を開催、その結果を報告書としてとりまとめ、公表しました()。

東京大学とLCSは今後も協力して、「電気代そのまま払い」を軸としたくらしの省エネを実現すべく、ステークホルダー間の調整、社会実装のための実証実験やワークショップの開催などを進めていきます。

<研究の背景と経緯>

「日々のくらし」(家庭、オフィス、運輸)からのCO排出はエネルギー起源CO排出量全体の58%を占めており(図4)、その中でも「家庭」の占める割合は20%となっています。また、くらしが変わることによる産業構造変化も含めるとその影響はより大きくなることから、低炭素社会の実現には、くらしからの低炭素化が必須であるとLCSは考えます。これまでLCSの試算では、家庭に省エネ対策を導入した際のエネルギー需要は、約1/4まで削減できる可能性があるという結果を得ています(図5)。(平成24年7月25日プレス発表 科学技術振興機構報 第898号 http://www.jst.go.jp/lcs/documents/presentations/item/20120725press_shiryo.pdf

一方で、初期費用や新たなローンを背負うことを嫌う傾向が、家庭での低炭素技術導入(太陽光発電やLED照明の導入、省エネ家電の購入など)の促進に対するネックとなっており、対策を遅らせているという現状があります。これに対し、LCSでは社会シナリオ研究テーマの1つとして、東京大学と共同で「人間の低炭素行動への意思決定についての研究」を進めており、その一環として新たな事業体のデザインを含む包括的なくらしの省エネルギー政策デザインを行ってきました。

<研究の内容>

「電気代そのまま払い」は、家庭における低炭素技術の導入に必要な初期投資を金融機関などが融資し、導入によって得られる電気代の節約分をローン返済に充てることによって、家庭での初期費用ゼロで低炭素技術導入が実現できます。さらに月々の電気代の支払額は今までと変わりません。そして、ローン返済終了後には、省エネ分のメリットを家庭で享受することができます。

LCSでは、「電気代そのまま払い」の枠組みを日本で実現し、くらしからの低炭素化の仕組みを整備するために、アンケート調査(平成25年3月、12月実施)による「電気代そのまま払い」の低炭素機器導入促進に対する効果を検証し、先行事例である英国グリーンディール政策の実情の調査(平成25年7−8月)を行っています()。さらに日本の金融機関、関係する省庁の政策担当者、研究機関などとの意見交換(国際ワークショップ、ミニワークショップ開催を含む)を行い、各種省エネ対策に基づく事業の経済性評価を行ってきました。意見交換の一環として、LCSと東京大学 大学院工学系研究科 松橋研究室(COI−S)は共同で開催した「くらしからの省エネを進める政策デザイン研究国際ワークショップ−英国グリーンディールを参考に」を報告書としてとりまとめ、公表しました()。

アンケートの結果、太陽光発電・太陽熱温水器・燃料電池・冷蔵庫の買い替え・LED電球への買い替え・ペアガラスへの交換の全省エネ対策において、「電気代そのまま払い」がある場合とない場合の購入意志を比較すると、例えば冷蔵庫では「ない場合」は52%であるのに対し、「ある場合」は、77%にまで上昇し、「電気代そのまま払い」が購入意志へ大きく影響することが分かりました(図2)。また、英国グリーンディール(住宅の断熱改修が中心)の実情調査より、「電気代そのまま払い」の実現には、家庭が信用を得やすくするようなさまざまな工夫をする必要があることが分かりました。各家庭の信用調査を個別に行うにはコストが高く、手数料がかかることになります。英国では、不払い率の低い電気料金に支払額を上乗せして初期費用の返済分を回収することにより、融資元からの信用を得やすくしています。このような公共料金などに上乗せすることで、家庭の収入レベルにかかわらず、金融機関などから融資を受けやすくするという考え方は、日本でも適用できると考えられます。

一方、英国グリーンディール政策では、住宅の断熱改修が主要な対象となっていますが、日本では断熱改修が構造上高コストであり、かつ住宅の耐用年数が短いことから、対象としては適切ではありません。日本の場合は、比較的短期で投資回収を行うことができる冷蔵庫・エアコン・照明機器の買い替えを当面の対象とすることが現実的です。そのほか、太陽光発電、太陽熱温水器についても、補助制度との兼ね合いによっては対象とすることが可能です。また、現時点ではコストが高く投資回収年数が長期になってしまう燃料電池・蓄電池についても、LCSによるコストの見通し()によれば、2020年・2030年には大幅なコスト低下が見込まれることから、対象となり得るとの結論を得ました。この結果から「電気代そのまま払い」は当面、冷蔵庫・エアコン・照明機器の買い替えについて枠組みを整備することで、近い将来に太陽光発電・太陽熱温水器・燃料電池・蓄電池への展開を考えています。

「電気代そのまま払い」が社会に実装されれば、すでに環境省主導で実現している「家庭エコ診断」との相乗効果により、機器選定までワンストップで行うことができるようになり、制度利用者が大幅に増加することが期待されます。「家庭エコ診断」においては機器の推奨は可能であるものの、公平性のためのルールづくりが求められるなど、「電気代そのまま払い」のワンストップサービス実現へ向けて課題も明らかになってきました。さらに、取引に係るトラブルを回避すべく信頼性の高い事業のみを認証するために、既存のJ−クレジットの認証制度を活用することも提案しています。また、より多くの世帯を扱うことができるようにするには、自動化・IT化を前提とする、またはほかの収益事業(たとえば高圧一括受電など)と併せて行う、といった工夫が必要であることも分かりました。

調査結果、構想概要、海外の先進事例およびその担当者や国内の政策担当者との意見交換の詳細などについては、末尾の提案書・報告書をご参照ください()。

<今後の展開>

東京大学とLCSは今後も協力して、日本のくらしの省エネルギー化、そして家庭が再生可能エネルギー普及の中で積極的な役割を果たすことができる時代を実現するための政策提案を進めていきます。具体的には、自治体・企業等、各ステークホルダーのご協力のもとに実証実験を企画していきます。冷蔵庫の買い替え、そして家庭エコ診断から機器推奨、金融まで含めた実証実験を自治体の協力のもとで行うことにより、より具体的な障壁を明らかにし、「電気代そのまま払い」の実現に向けて、研究を進めていきたいと考えています。

<参考図>

図1 「電気代そのまま払い」のイメージ

古い冷蔵庫・エアコン・照明機器を高効率の最新のものに買い替えることや、太陽光発電・太陽熱温水器などの購入を促進する仕組み。家庭は初期費用を支払わず、一定期間、省エネ前と同じ光熱費を支払う。一定期間の節約になった光熱費分が、電力会社などを通じてファンド(金融機関)に返済される。返済終了後は、節約になった分を家庭が享受できます。

図2 電気代そのまま払いがない場合とある場合の購入意思比較

(平成25年3月実施 LCSアンケート調査より)

図3 英国グリーンディールの仕組み

住宅の断熱改修をCO排出削減対策として英国で平成25年1月より実施されている。各家庭に対する、必要な省エネ対策を特定し、費用の概算を見積もるアドバイザー(省エネ診断士)と省エネ機器の導入に関する雑務やローンの手続きをワンストップで行うグリーン・ディールプロバイダの介入により、家庭に対する省エネ化の障壁をなくしています。

返済は、節約された電気料金から支払われ、引越しをした際は、ローンを不動産とともに残すことができます。また、節約される電気代から支払いをするため、初期費用が家庭にとって理論上ゼロになります(電気代の不払い率は低いため、債務不履行になることが少なく、消費者が費用を支払う仕組みであることから、行政府の負担も軽くなります)。

図4 日本の部門別CO排出構造(平成24年度)

(エネルギー・経済統計要覧平成26年版よりLCS作成)


図5 低炭素技術導入による家庭のエネルギー需要変化(試算)

LCSによる試算では、古い家電や燃費の悪い自動車を利用している世帯について、高効率の家電や燃費の良い車に買い替え、太陽光発電や燃料電池を設置し、ペアガラスに入れ変えるなどを行うことで、同じエネルギーによる便益を得ながら、消費量は約4分の1程度まで減らすことができると考えています。

<用語解説>

注1) 低炭素社会戦略センター
明るく豊かな低炭素社会を実現するために、これからの日本がどのようなシナリオをとるべきか、そのために必要となる戦略は何かを研究し、政策立案のための提案を行っています。
注2) 家庭エコ診断
地球温暖化や省エネ家電などに関する幅広い知識を持った診断士が、各家庭の実情に合わせて実行性の高い省CO・省エネ提案・アドバイスを行う制度です。家庭部門の温室効果ガス排出削減を進めるため、環境省が推進しています。
注3) J−クレジット制度
省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用によるCOの排出削減量や適切な森林管理によるCOの吸収量を、クレジットとして国が認証する制度です。
注4) COI−S
JSTの研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムにおいて、COI拠点を構成する中核機関が掲げるビジョンを補完し研究開発を分担する機関(サテライト)を指します。東京大学 大学院工学系研究科 松橋研究室は、九州大学を中核機関とするCOI拠点である「共進化社会システム創成拠点」のサテライトとして研究開発を進めており、COIプログラムによる支援を受けています。
なお、COIプログラムは、どのように社会が変わるべきか、人が変わるべきか、その目指すべき社会像を見据えたビジョン主導型のチャレンジ・ハイリスクな研究開発を支援する事業で、大学などが総力を結集し、企業が事業化をリードする、世界と戦える大規模産学連携研究拠点(COI拠点)を形成し集中的に研究開発を実施することにより、世界市場にインパクトを与える成果の持続的な創出を図ります。

<提案書・報告書>

<お問い合わせ先>

科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター 企画運営室
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
古旗 憲一(フルハタ ケンイチ)、永井 諭子(ナガイ サトコ)、中島 章光(ナカジマ アキミツ)、高瀬 香絵(タカセ カエ)
Tel:03-6272-9270 Fax:03-6272-9273
E-mail:

<COI−Sの研究に関すること>

東京大学 大学院工学系研究科 松橋研究室(COI−S)
〒113-8656 東京都文京区本郷7−3−1
高瀬 香絵(タカセ カエ)、小森 節子(コモリ セツコ)

E-mail:

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

東京大学 大学院工学系研究科 広報室
〒113-8656 東京都文京区本郷7−3−1
Tel:03-5841-1790 Fax:03-5841-0529

(英文)“JST and University of Tokyo proposed a “pay as you save” scheme for drastic deployment of energy efficiency measures within the household sector
- Policy Design for Energy Efficiency Improvement within Daily Life -”