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平成26年7月30日

科学技術振興機構(JST)
北里大学

リンパ球の細胞接着の制御機構を解明
〜免疫難病の治療法の開発へ期待〜

ポイント

JST 戦略的創造研究推進事業において、北里大学 理学部の片桐 晃子 教授と錦見 昭彦 准教授は、関西医科大学の木梨 達雄 教授らと共同で、免疫細胞の1つであるリンパ球注1)が細胞内の小胞輸送注2)を制御する分子Rab13によって、接着や移動を制御する機構を明らかにしました。

リンパ球は、病原体など体内に侵入した異物を攻撃して排除する役割を担っています。この過程で、リンパ球と血管内皮細胞(血管の内側を構成する細胞)や細網繊維芽細胞などの組織を支持する細胞、あるいは、樹状細胞などの抗原提示細胞との接着が厳密に制御されていることが免疫監視機構にとって重要です(図1)。例えば、リンパ球は血流に乗って全身を移動していますが、リンパ節を巡回したり、感染部位へ移動する際には、血管内皮に接着し停止する必要があります。リンパ節内では、細網繊維芽細胞に接着しそれを足場に移動しながら抗原探索を行い、特異抗原を提示する樹状細胞に出会い、接着することで異物の情報を受け取ることができます。

このようにリンパ球が細胞に速やかに接着するためには、LFA−1という接着因子注3)がその接着性を変化させる能力が必要です(図2)。今回、研究グループはRab13がLFA−1の細胞内における輸送を促すことによって速やかにリンパ球の接着能力を上昇させることを明らかにしました。

この成果は、リンパ球の細胞接着を制御するメカニズムを分子レベルで詳細に明らかにしたものであり、免疫難病の発症機構の解明、あるいは、免疫反応を促進したり、過剰な免疫反応を抑制したりする治療法の開発につながると考えられます。

本研究成果は、2014年7月29日(米国東部時間)に米国科学雑誌「Science Signaling」に掲載されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「アレルギー疾患・自己免疫疾患などの発症機構と治療技術」
(研究総括:菅村 和夫 宮城県立病院機構 理事長)
研究課題名 「接着制御シグナルの破綻と自己免疫疾患」
研究代表者 木梨 達雄(関西医科大学 附属生命医学研究所 分子遺伝学部門 教授)
共同研究者 片桐 晃子(北里大学 理学部 生物科学科 免疫学講座 教授)
研究期間 平成21年10月〜平成27年3月

JSTはこの領域で、アレルギー疾患や自己免疫疾患を中心とするヒトの免疫疾患を予防・診断・治療することを目的に、免疫システムを適正に機能させる基盤技術の構築を目指しています。上記研究課題では、自己寛容における免疫動態制御シグナルが果たす機能と制御を明らかにして、新たな自己免疫発症機構を提示し、難治性自己免疫疾患との関連を明らかにすることを目指します。

<研究の背景と経緯>

リンパ球は異物から生体を守る際に、血管を離れて組織に移動したり、抗原提示細胞と呼ばれる細胞から侵入した異物の情報を受け取ったりします。この過程で、リンパ球は血管内皮細胞や抗原提示細胞と接着する必要があり、これら細胞との接着が不十分な場合、組織への移動や異物に対する応答が生じなくなります。リンパ球が他の細胞と接着する際、細胞内にあるLFA−1が、小胞輸送と呼ばれるたんぱく質輸送システムにより、細胞前方の先端部へと輸送され集積し、細胞表面に新たな膜を形成します。LFA−1が集積した膜の形成により接着力が増し、他の細胞と安定して接着することができるようになります。片桐教授らは、ケモカイン注4)や抗原(異物)の作用により、Mst1というキナーゼ注5)が働くことで、このようなLFA−1の輸送が制御されていることを明らかにしました。しかし、実際にどのような分子が輸送に関与しているのか、また、どのような経路をたどって運ばれているのかといった具体的な輸送機構は解明されていませんでした。

<研究の内容>

一般にたんぱく質の小胞輸送は、Rabファミリーと呼ばれるたんぱく質群により制御されており、哺乳類には60種類以上のRabたんぱく質が存在しています。Rabたんぱく質は、物流システムでいうところの「荷札」のような役割をしており、それぞれのRabたんぱく質ごとに、どの小胞を認識し、どこからどこへ輸送するかが決まっています。片桐教授らは、Mst1と相互作用するRabたんぱく質を探索し、Rab13がLFA−1の細胞内での小胞輸送を制御していることを突き止めました。

さらに詳細に解析したところ、Mst1によってDENND1Cというたんぱく質がリン酸化されて機能を持つようになること、DENND1Cの機能によりRab13が活性型になる(「荷札」として有効になる)ことが明らかになりました(図3A)。活性型Rab13は、Mst1と会合することで輸送小胞にとどまるとともに、モーターたんぱく質注6)ミオシンと結合して複合体を形成し、ミオシンが、アクチン繊維注7)というケーブル上を動くことにより、LFA−1を含む小胞が輸送されることが分かりました(図3B)。また、Mst1の下流でVASPというたんぱく質もリン酸化され、アクチン繊維を目的の方向に伸ばしていることも明らかになりました(図3C)。Rab13を働かなくしたリンパ球では、細胞表面でLFA−1が集まらず、細胞の接着活性や運動能が低下していました(図4)。また、Rab13を持たないマウスを作製したところ、リンパ節などへのリンパ球の移動ができず、これらの臓器の発育状態が悪いことが分かりました(図5)。

これらのことから、Rab13が機能することにより、LFA−1が細胞内を輸送されて、細胞膜の局所に集積すること、また、Rab13機能が破綻すると、リンパ球の接着や移動ができなくなり、免疫機能が損なわれることが明らかになりました。

<今後の展開>

リンパ球が正常に機能するためには、その生体内移動が適切に制御されなくてはなりません。今回の成果は、その制御機構の詳細を明らかにしたものであり、リンパ球を中心とした全身性の動的免疫システムの理解に貢献するものと考えられます。また、多くの疾患やウイルス感染に細胞接着の異常が関与していることが知られていますが、免疫システムの異常に起因する疾患の病態の解明や新たな治療法の確立にも役立つと期待されます。

<参考図>

図1 リンパ球の接着機構は、さまざまな局面で重要な役割を担っている

①〜④血管からリンパ節にリンパ球が移行するメカニズム。

リンパ球は、通常血流に乗って体内を巡回している(①)。リンパ節に近づくと、血管内皮細胞上を転がることにより減速する(②)。最終的に、血管内皮上で完全に停止するが、この現象は、リンパ球表面に集まったLFA−1が血管内皮細胞のICAM−1と結合することによる(③)。血管内皮細胞の間隙を抜けて、リンパ球がリンパ節へ移動する(④)。

⑤リンパ節内には、細網繊維芽細胞が網目のようなネットワークを形成しており、リンパ球はそのネットワーク上を移動する。この際、細胞前縁部で、LFA−1を介して細網繊維芽細胞のICAM−1にしっかりと接着することが、細胞が前進する際の足場となっている。

⑥リンパ球(T細胞)が、樹状細胞から外来異物(抗原)の情報を受け取る際にも、T細胞受容体と抗原の複合体を取り囲むように、LFA1−1とICAM−1による接着帯が形成され、スムーズな情報伝達を促す。

図2 リンパ球におけるLFA−1の輸送と集積

LFA−1は、通常不活性な状態(接着活性のない状態)で細胞表面にまんべんなく存在している(左)。ケモカインや抗原の作用により、LFA−1は活性化され、膜でできた小胞に内包された状態で細胞内を輸送され、細胞前方の先端部に集められる。

図3 LFA−1が細胞内を輸送されるメカニズム

  • A :Mst1がDENND1Cをリン酸化することによりDENND1Cが活性化され、Rab13が活性型になる。
  • B :活性化したRab13はMst1と結合することにより、LFA−1輸送小胞に結合するとともに、ミオシンVaに結合することにより、LFA−1輸送小胞がアクチン繊維上を動くことができるようになる。
  • C :VASPがMst1の下流でリン酸化することにより活性化し、目的の方向にアクチン繊維を伸ばしていくことで、LFA−1輸送小胞が運ばれていく。

図4 LFA−1の集積にはRab13の働きが必要である

リンパ球をケモカインで刺激すると、Rab13やLFA−1が集積した膜(接着膜)が形成される(矢印)。Rab13が働かないようにした細胞では、このような接着膜の出現が見られない。

図5 Rab13欠損マウスにおける脾臓およびリンパ節の低形成

Rab13を欠損させたマウスでは、リンパ球が適切に脾臓やリンパ節に移動できず、通常よりも発育が悪い。

<用語解説>

注1) リンパ球
白血球の一種であり、免疫応答の司令塔的役割を担うヘルパーT細胞、ウイルスに感染細胞などを攻撃する細胞傷害性T細胞、抗体を産生するB細胞などがある。
注2) 小胞輸送
細胞内におけるたんぱく質などの輸送形態の1つ。輸送する物質を小胞(脂質でできた小さな袋のようなもの)に内包し、細胞内小器官(小胞体やゴルジ体など)や細胞膜へ輸送するシステム。小胞が細胞内を輸送される様が、荷物が運送されていく過程に似ていることから、物流システムに例えられて細胞内ロジスティクスと呼ばれることもある。
注3) 接着因子
細胞表面に発現するたんぱく質で、細胞同士、あるいは、細胞と細胞外マトリクスとの接着に関与している。
注4) ケモカイン
リンパ節や感染局所で発現しているたんぱく質で、リンパ球を誘引する作用を持つ。
注5) キナーゼ
他の分子をリン酸化することで構造を変化させ、標的分子の活性や性質を制御する酵素。
注6) モーターたんぱく質
アクチン繊維や微小管といった細胞骨格上を動くことで、小胞の輸送を担うたんぱく質。物流システムでいうところの、トラックや貨車の役割に相当する。
注7) アクチン繊維
細胞骨格の一種で、細胞の形態や運動を制御しているが、小胞輸送においてはモーターたんぱく質の通り道として、道路や線路のような役割をする。

<論文タイトル>

“Rab13 acts downstream of the kinase Mst1 to deliver the integrin LFA-1 to the cell surface for lymphocyte trafficking”
(Rab13はMst1の下流で機能する分子としてLFA−1の極性輸送を制御し、リンパ球の動態に不可欠な役割を担っている)
doi: 10.1126/scisignal.2005199

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

片桐 晃子(カタギリ コウコ)
北里大学 理学部 生物科学科 免疫学講座 教授
〒252-0373 神奈川県相模原市南区北里1−15−1
Tel:042-778-9534 Fax:092-778-9480
E-mail:

<JST事業に関すること>

川口 貴史(カワグチ タカフミ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
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(英文)“Molecular mechanisms for regulating lymphocyte adhesion and migration”