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平成25年11月21日

北海道大学
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科学技術振興機構(JST)
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国際協力機構(JICA)
Tel:03-5264-9790(報道課)

熱帯泥炭地のCO排出量を世界で初めて測定
排出抑制に科学的根拠、国際的な制度化にも貢献

ポイント

森林火災などによる熱帯泥炭地からのCOの排出量は莫大で、地球温暖化の大きな要因となる懸念があります。このため熱帯泥炭地からのCO排出を、どう把握し、どう管理していくかが課題となっていました。

北海道大学はインドネシアの研究機関と国際共同研究を行い、熱帯泥炭地からのCO排出量を把握するため、COフラックスをインドネシア中部カリマンタン州の3種類の生態系(熱帯泥炭林のうち、未排水の泥炭林、排水された泥炭林、排水された火災跡地)で測定し、4年間のデータを分析しました。さらに、排水された火災跡地では泥炭地の微生物分解によるCO排出量の連続測定にも成功しました。

いずれのCO排出量も、地下水位の低下に対して単純な増加を示すことも判明しました。よって、地下水位からCO排出量を類推することができ、衛星データを用いた広い地域へのスケールアップも可能になりました。これにより熱帯泥炭地の炭素管理が現実的となり、インドネシア国内やREDDプラス注1)における制度化など、国際的なカーボン・オフセット制度注2)の基準適用への道も開けてきました。

COフラックスとはCOの輸送量を示し、プラスであればCO排出、マイナスであればCO吸収となる。

本研究は、JSTとJICAによる地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)注3)の一環として行われ、北海道大学やインドネシア国家標準庁(BSN)などが参加しています。

研究プロジェクト名 「インドネシアの泥炭・森林における火災と炭素管理」
研究代表者 大崎 満(北海道大学 大学院農学研究院 教授)
国内参加研究機関 愛媛大学、東京大学、宇宙航空研究開発機構、宇宙システム開発利用推進機構、三菱総合研究所、NPO法人北海道水文気候研究所ほか
相手国研究機関 インドネシア国家標準庁(BSN)、バランカラヤ大学(UNPAR)、インドネシア科学院(LIPI)、インドネシア研究技術省(RISTEK)、インドネシア宇宙航空研究所(LAPAN)、林業省(FORDA)、技術評価応用庁(BPPT)
研究期間 平成20年10月〜平成26年3月
ホームページ http://www.jst.go.jp/global/kadai/h2004_indonesia.html

<背景>

インドネシアの熱帯泥炭地は、地球上の熱帯地域に分布する泥炭湿地の面積の半分以上を占め、多量の炭素が蓄積しています。ところが、1990年代からこの地域の開発が急速に進み、それに伴う地下水位の低下と乾燥化、さらには泥炭火災により、インドネシアの熱帯泥炭地は膨大なCOの排出源となりつつあります。その1年あたりの排出量は日本の年間排出量に匹敵するという報告もあります注4)

これに対し、インドネシアのユドヨノ大統領は、2009年9月のG20で、2020年までに国内の温室効果ガス(GHG)の排出量を26%削減することを宣言しました。2011年11月には国家GHG削減計画(RAN−GRK)が大統領令として策定され、2012年末までに全土33州の削減計画(RAD−GRK)の策定が義務付けられました。このうち泥炭からは削減枠の4割が期待されており、泥炭湿地に蓄積された炭素量を科学的に見積もるMRVシステム注5)の構築が期待されていました。

このシステムを開発するうえで大きなネックとなっていたのが、泥炭火災と微生物分解による泥炭地からのCO排出を、どのように定量的に把握するかということでした。欧米のコンサルタント会社が実施する計測方法は、泥炭の沈降量からCO排出量を算出する手法で、科学的な裏付けが弱いものであったため、「精度がよくコストパフォーマンスもよい測定方法があれば採用したい」というインドネシア政府からの要望が強くありました。

そこで本プロジェクトは、泥炭地から排出されるCOの定量的な評価を1つの柱に据え、中部カリマンタン州にあるメガライスプロジェクト(MRP)地域、開発地域外の泥炭湿地林などの熱帯泥炭地を対象とし、熱帯泥炭からのCO排出量を抑制するための統合的泥炭地管理システムを構築し、地球温暖化抑止に貢献することを目的にスタートしました。

<研究手法>

熱帯泥炭地(泥炭とその上に存在する森林)が大気から吸収する、あるいは大気へ排出するCO量(COフラックス)を測定するため、熱帯泥炭地で撹乱の程度が異なる3つの生態系(未排水の泥炭林=UF、排水された泥炭林=DF、排水された火災跡地=DB)に、観測用のタワーを設置しました。大気−生態系間のCO交換量を意味する正味生態系生産量(NEE)を渦相関法(微気象学的方法)注6)により連続的に測定し、そのデータを解析しました。

地下水位は、地面高を基準(ゼロ)として測った地下水面の高さで、UF、DF、DBのサイトごとに塩化ビニル管を打ち込み、孔内の水面までの深さを直接測定して求めています。

さらに、DBでは自動開閉式の円筒形型のチェンバー(直径約20センチ)を泥炭土壌の表面に直接被せ、植物や根のない状態でCOフラックスを測定することにより、微生物による泥炭の好気的分解に伴うCO排出量を評価しました。

<研究成果>

3種類の生態系でのCOフラックス測定は2004年から始まり、2008年まで測定したデータ4年間分を解析しました。環境撹乱の程度の異なる3種類の生態系では、生態系と大気との間のCOフラックスの連続観測データを蓄積してきました。また、同時に気象や土壌、地下水位などの環境データも蓄積しました。その結果、次の3つが世界で初めて実証されました。

1)未排水の湿地林(UF)においても正味でCOの排出源となっていること。

2)CO排出量は環境撹乱が進むにしたがって大きくなること(DB>DF>UF)。

3)エルニーニョ現象注7)の年には、CO排出量が大きくなること。

エルニーニョの年を含む4年間を平均したCO排出量(NEE=炭素換算のCO収支、正値のとき炭素ソース)は、未撹乱の泥炭林(UF)が炭素換算で1年・1平方bあたり174±203グラム(平均値±標準偏差)、排水された泥炭林(DF)が328±204グラム、排水された火災跡地(DB)が499±72グラムとなっています。

これらのデータを統合的に解析し、水文環境(特に地下水位)との関係のモデル化を行いました。その結果、環境の撹乱(排水および森林の有無)によってパラメータは異なるが、熱帯泥炭生態系の光合成によるCO吸収と呼吸(植物呼吸と泥炭の好気的分解)によるCO放出の差し引きである正味のCO排出量(NEE)が、地下水位の変動に対して比較的単純な応答を示すことが明らかとなりました(図1参照)。

さらに、DBサイトで、熱帯泥炭の土壌の微生物分解によるCOフラックスだけを測定することに成功しました。3種類の生態系で測定したCOフラックスは、呼吸や光合成による差し引きの影響を受けており、泥炭の分解だけによるCOフラックスは測定できていませんでした。これが明らかになれば、熱帯泥炭そのものの炭素管理に直接つながることが期待されています。

測定の結果、1年間、1平方メートルあたりのCO排出量は、炭素換算で2004−2005年が382±82グラム、2005−2006年が362±74グラムで、同時に測定された地下水位とも単純な応答を示し、地下水が0.1メートル下がると、1年間、1平方bあたり、CO排出量が89グラム(炭素換算)増えることが判明しました。

<今後への期待>

今回実施した、タワーを利用した渦相関法によるCOフラックスのモニタリング以外に、より広域での炭素収支を定量化するため、次の2つの方法を試験中です。

1)日本のCO観測衛星(GOSAT、いぶき)による地域スケール(中部カリマンタン州)の炭素収支評価

2)太陽の直達光観測から大気中CO濃度を定量化するシステムの開発(火災発生時)

また、衛星を使ったリモートセンシングにより、地下水位を推定する方法が研究チームによって開発され、上記の結果は広く周辺の熱帯泥炭地にもスケールアップできることが明らかとなっています。

以上の手法によってCOフラックスを精度よく把握したうえで、別の研究成果として提案する泥炭火災の予防、火災跡地への植林、堰の設置による地下水位の維持を組み合わせれば、取り組みによって削減されたCOの排出量が把握でき、熱帯泥炭地における炭素管理が可能となります。

熱帯泥炭地からのGHG排出削減量が精度よくモニタリングできれば、気候変動枠組み条約(UNFCCC)におけるREDDプラスおよび検討中の高炭素貯蔵の生態系に関わる枠組みや、日本との2国間オフセット・クレジット制度(JCM)などへも適用可能となることが期待されています。

<参考図>

図1

図1

<用語解説>

注1)REDDプラス
REDDは「Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation in Developing Countries(開発途上国における森林減少・劣化などによる温室効果ガス排出量の削減)」の略称。開発途上国における森林減少・劣化の抑制や森林保全によるGHG排出量の減少に、経済的なインセンティブを付与することにより、排出削減を促進させようという国際的な取り組み。REDDが森林減少や劣化の抑制だけを対象とするのに対し、REDDプラスは森林保全、持続可能な森林経営および森林炭素蓄積の増加に関する取り組みを含む。
現在、気候変動枠組条約(UNFCCC)においてREDDプラスの枠組みなどに関する議論が行われており、まだ国際的なルールは決まっていないが、様々なパイロットプロジェクトや開発途上国の能力開発支援が、先進国や国際機関、民間企業、NGOによって行われている。
REDDプラスに関しては、主に(1)参照レベルの設定、(2)モニタリング手法の確立、(3)ガバナンス、先住民族や生物多様性への配慮――などの課題が指摘され、VCS(Verified Carbon Standard)やCCBスタンダードなど自主的なガイドラインが作られている。しかし、熱帯泥炭地に蓄積されるCO関しては、科学的なモニタリング手法が十分に確立されているとは言えなかった。
詳しくはJICAの冊子を参照:http://www.jica.go.jp/publication/pamph/pdf/redd.pdf
注2)カーボン・オフセット制度
日常生活や経済活動において避けることができない温室効果ガスの排出について、まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行い、どうしても排出される温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資することなどにより、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方。先に欧州で普及していたが、日本でも環境省が2008年2月に取りまとめた「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」に基づき、普及に向けた取り組みを行ってきた。
2008年11月には、国内の排出削減活動や森林整備によって生じた排出削減・吸収量を認証する「オフセット・クレジット(J−VER)制度」を創設。2011年9月には「カーボン・ニュートラル認証制度」も生まれ、「カーボン・ニュートラル認証制度」と「カーボン・オフセット認証制度」を1つの制度として統合した「カーボン・オフセット制度」が、2012年5月より運営されている。
環境省ホームページ:http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mechanism/carbon_offset.html
注3)SATREPS
地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS,サトレップス)とは、独立行政法人 科学技術振興機構(JST)と独立行政法人 国際協力機構(JICA)が共同で実施している、地球規模課題解決のために日本と開発途上国の研究者が共同で研究を行う3〜5年間の研究プログラム。JSTとJICAが連携してプロジェクトを行い、日本国内など、相手国内以外で必要な研究費についてはJSTが委託研究費として支援し、相手国内で必要な経費については、JICAが技術協力プロジェクト実施の枠組みにおいて支援する。国際共同研究全体の研究開発マネジメントは、国内研究機関へのファンディングプロジェクト運営ノウハウを有するJSTと、開発途上国への技術協力を実施するJICAが協力して行う。
JSTホームページ:http://www.jst.go.jp/global/about.html
注4)熱帯泥炭からのCO排出量(火災+好気的分解)
オランダのHooijerらが東南アジア全体で年間554 GgC(炭素換算)という推定を行っている(2006年の報告書)。そのほとんどは、インドネシアからのものと見られる。一方、日本の人為的なCO排出量(化石燃料の消費+セメント製造)は、2010年の統計で311 GgC(炭素換算)。
全国地球温暖化活動推進センターホームページ:http://www.jccca.org/chart/chart03_01.html
注5)MRVシステム
Monitoring,Reporting and Verification Systemの略語。モニタリング、報告、評価の一連の流れをシステム化したもので、炭素の流入量を連続的に定量化してカーボン・オフセット・クレジットなどの政策に展開する基礎となる。
注6)渦相関法(微気象学的方法)
超音波風速温度計と赤外線ガス分析計を用いて、大気中と陸上生態系の間の二酸化炭素の交換量(フラックス)を直接測定する方法。森林や農耕地が一定期間に吸収・放出する二酸化炭素の量を測定するために用いる。
注7)エルニーニョ現象
太平洋赤道域の日付変更線付近から南米のペルー沿岸にかけての広い海域で海面水温が平年に比べて高くなり、その状態が1年程度続く現象のこと。エルニーニョ現象が発生している時には、東風が平常時よりも弱くなり、西部に溜まっていた暖かい海水が東方へ広がるとともに、東部では冷たい水の湧き上りが弱まる。このため、太平洋赤道域の中部から東部では、海面水温が平常時よりも高くなる。インドネシアでは乾季が長引き、干ばつとなることが多い。その結果、泥炭地で地下水位が低下するとともに、大規な森林・泥炭地火災が発生することが多い。

<論文情報>

研究論文:Effects of disturbances on the carbon balance of tropical peat swamp forests (熱帯泥炭林の炭素収支に与える撹乱の影響)

著者:Hirano T1, Segah H1, Kusin K2, Limin S2, Takahashi H3 and Osaki M11 Hokkaido University,2University of Palangkaraya,3Hokkaido Institute of Hydro-Climate)

公表雑誌:Global Change Biology, 18, 3410-3422, 2012.

公表日:米国東部時間2012年8月27日(月)

研究論文:Carbon dioxide emissions through oxidative peat decomposition on a burnt tropical peatland (火災の被害を受けた熱帯泥炭地における泥炭の好気的分解によるCO2排出について)

著者:Hirano T1, Kusin K2, Limin S2 and Osaki M11 Hokkaido University,2University of Palangkaraya)

公表雑誌:Global Change Biology, doi: 10.1111/gcb.12296, 2013.

公表日:米国東部時間2013年10月10日(木)

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

平野 高司(ヒラノ タカシ)
北海道大学 大学院農学研究院 教授
Tel:011-706-3689 Fax:011-706-3689
E-mail:
ホームページ:http://www.agr.hokudai.ac.jp/env/info/erg/index.html

<JSTの事業に関すること>

科学技術振興機構 国際科学技術部 地球規模課題国際協力室
Tel:03-5214-8085 Fax:03-5214-7379
E-mail:

<JICAの事業に関すること>

国際協力機構 広報室 報道課
Tel:03-5226-9780 Fax:03-5226-6396
E-mail:

(英文)Carbon emissions of tropical peatland measured for the first time
Scientific proof of emission control can assist international agreement