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<用語解説>

注1)インスリン抵抗性
 体の中でインスリンというホルモンが働きにくくなった状態です。インスリンは、血中のブドウ糖を筋肉や肝臓などの細胞の中へ取り込ませる働きをしており、これによって血液中のブドウ糖が減る、つまり血糖が下がります。しかし、インスリン抵抗性があるとインスリンが効きにくくなり、血糖を下げる働きが弱くなります。インスリン抵抗性は糖尿病の発症と特に深いかかわりがあると考えられています。高血糖初期には、膵臓のβ細胞がインスリンを大量生産して働きの弱くなった分を補おうとするのですが、だんだんβ細胞も疲れてきてインスリンの分泌量が減ってきます。すると血糖が下がらなくなり、糖尿病が発症すると考えられています。

注2)サイトカインTNFα
 サイトカインは、細胞が産生する細胞間の情報伝達に関与するたんぱく質性の生理活性物質の総称です。
 この一種であるTNFαは、インスリンの作用を阻害するなど、多彩な働きがあることが見出されています。
 近年の分子医学的研究により、TNFαおよびこれと拮抗作用を示すアディポネクチン等を含む、様々なホルモンやサイトカイン等の多くの生理活性物質が脂肪組織から分泌されていることが注目を集めています。これらを総称して「アディポサイトカイン」と呼ばれるようになっています。

注3)インスリン受容体
 細胞膜に存在するたんぱく質の一種で、細胞の外側の部分がインスリンと結合して細胞質側のリン酸化酵素部位を活性化し、細胞内にその信号を伝える役割を担います。信号の受容により、細胞内へのグルコースの取り込み、タンパク合成の促進、細胞分裂の促進、血糖値の低下などを引き起こします。

注4)細胞膜カベオラマイクロドメイン(カベオラ)
 細胞膜には、ラフト(筏=いかだ)と呼ばれるシグナル伝達の中継を担っている微小領域(マイクロドメイン)があり、コレステロールやガングリオシドが多く含まれています。ラフトは、いくつかの性質の異なるマイクロドメインからなっていますが、カベオリンを含むカベオラにはインスリン受容体が集積しています。インスリン受容体がインスリンの作用を正常に伝達し、糖の取り込みを促進するには、カベオラに存在することが重要です。

注5)GM3
 酸性の糖であるシアル酸を有するスフィンゴ糖脂質を総称してガングリオシドと呼びますが、その1分子種であるGM3は、ラット、マウス、ヒトの種を超えて脂肪組織の主要なガングリオシドです。なお、スフィンゴ糖脂質とは、細胞膜を構成する脂質の一種であるスフィンゴ脂質と糖の結合物の総称です。

注6)スフィンゴミエリン
 細胞膜を形成する主要成分であるリン脂質の一種です。スフィンゴミエリンは細胞膜の構成成分として、細胞情報伝達機構にかかわっていると考えられています。

注7)膜の相転移
 細胞膜はリン脂質を主成分とする脂質2重膜で形成されています。この脂質2重相部分は、温度によって物性が液晶相と結晶相の2相間で状態変化することから、この現象を相転移と呼びます。相転移は細胞膜の流動性・透過性などの物性に影響を及ぼします。また、ここに膜脂質としてコレステロールが加わると、相転移を起こす温度が上昇する効果があることから、細胞膜の剛性が上がり、相転移による物性変化が緩和されます。

注8)生細胞分子イメージング
 生物を生きたままの状態で、生体内の遺伝子やタンパク質などの様々な分子の挙動を観察する技術です。本技術では動的で総合的な活動を把握することができるため、部位間の相互関係や時系列上の遺伝子発現のタイミングなどを観察することが可能となります。

注9)マイクロドメイン矯正療法
 本研究グループは、生活習慣病の病態はスフィンゴ糖脂質の発現異常によってマイクロドメインの構成・構造および機能が変化し、シグナル伝達が異常になったマイクロドメイン病である――という新しい病態概念を提唱しています。本グループおよび欧米グループによる一連の研究結果により、ガングリオシドの生成を阻害する物質が、インスリン抵抗性を解除でき、2型糖尿病の治療に有効であることが証明されつつあります。