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平成18年12月14日

科学技術振興機構(JST)
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情報・システム研究機構
国立遺伝学研究所
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リン酸化酵素によるDNA複製開始の制御メカニズムを解明

 JST(理事長 沖村憲樹)と情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所(所長 小原雄治)は、真核生物のDNAの複製開始の制御メカニズムを明らかにしました。
 生命体の遺伝情報を担う染色体とその染色体を構成するDNAは、1回の細胞分裂で一度だけ正確に倍加(複製)するように制御されています。この制御に異常が生じると、細胞1個あたりのDNAの量が変動したり、細胞が異常な分裂を続けることでガン細胞化へと繋がる可能性があります。
 本研究チームは、パンやお酒の製造に用いられてる出芽酵母のDNA複製に必要なSld3タンパク質(注1)が、細胞周期(注2)の移行時に働くリン酸化酵素(サイクリン依存性キナーゼ、CDK(注3))によりリン酸化され、Dpb11タンパク質(注4)との結合で複製開始すること、一方Dpb11タンパク質量の増加やSld3と結合するCdc45タンパク質(注5)への変異の導入により、Sld3がリン酸化されなくても複製が起こることが判りました。さらに、Sld3がリン酸化されなくても複製が起こる状態にしたまま、リン酸化型変異Sld2タンパク質(注6)を持つ細胞では、CDK活性がなくてもDNA複製が開始しました。これは、CDKによりSld2、Sld3タンパク質がリン酸化されたことが、DNA複製開始を制御している主因であることを意味しています。この成果はDNAの複製を人工的に制御することにより、がんの治療に結びつく可能性も秘めています。
 本成果は、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「たんぱく質の構造・機能と発現メカニズム」研究領域(研究総括:大島泰郎)の研究テーマ「核酸合成に関わるたんぱく質複合体の構造と機能解析」の研究代表者・荒木弘之(情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 教授)、田中誠司(同 助手)らによって得られたもので、英国科学雑誌「Nature」オンライン版に2006年12月13日(英国時間)に公開されます。

<研究の背景>

 生命体の遺伝情報を担う染色体とその染色体を構成するDNAは、1回の細胞分裂で一度だけ正確に倍加(複製)するように制御されています。この制御に異常が生じると、細胞1個あたりのDNAの量が変動したり、細胞が異常な分裂を続けガン細胞化へと繋がる可能性があります。
 この制御には、細胞周期を移行させるために働くサイクリンと言うタンパク質に活性を制御されている、他のタンパク質をリン酸化させる酵素(サイクリン依存性キナーゼ、CDK)が働いています。即ち、CDKがDNA複製開始を促進するとともに、一度複製が開始すると再度複製を開始しないようにしています。しかし、複製開始を抑える機構については解明してきてはおりましたが、CDKが何をリン酸化して、どのように複製開始を促進するのかは分かりませんでした。本研究チームは、その一つとしてDNA複製に働くSld2タンパク質がCDKによりリン酸化されると複製開始が促進されることを、2002年にNature(415, 651-655(07 Feb 2002))へ報告していましたが、リン酸化されたSld2タンパク質だけでは複製の開始は起こりませんでした。このことは、Sld2以外にも複製開始時にCDKにリン酸化されなければならないタンパク質があることを示していました。

<本研究の成果>

 本研究チームは、出芽酵母のDNA複製に関わるSld3タンパク質がCDKによりリン酸化され、Dpb11タンパク質との結合で複製開始することを明らかにしました。一方で、Dpb11タンパク質の量の増加や、Sld3と結合するCdc45タンパク質に変異が導入されることにより、Sld3がリン酸化されなくても複製が起こることが分かりました。
 また、もう一つのCDKがリン酸化するタンパク質であるSld2が、リン酸化されているように振る舞うリン酸化型変異を持つ細胞で、Sld3がリン酸化されなくても複製が起こる状態にすると、CDKの活性がなくてもDNA複製が開始しました。このことは、Sld2, Sld3タンパク質のCDKによるリン酸化が、DNA複製を開始させる主因であることを意味します。
 具体的には、Dpb11タンパク質は2対のBRCTドメイン(注7)を持ち、直列に並んだ1対のBRCTドメインはリン酸化ペプチド(注8)に結合します。そして、リン酸化したSld3はN末端側の1対のBRCTドメインと、同じくリン酸化したSld2はC末端側の1対のBRCTドメインと結合します。このことから、Dpb11タンパク質がリン酸化したSld2とSld3を結び付けることが複製の開始に重要なのであろうと考察しています。(図1

<今後の展開>

 今回の成果により、リン酸化酵素CDK がどのようにDNAの複製開始を制御するのかが分かりました。この発見はCDKによる複製開始の制御メカニズムを分子レベルで明らかにする糸口になり、今後急激に制御メカニズムの解析が進むものと思われます。現在は、高等真核生物でSld3タンパク質に対応する因子は見つかっていませんが、CDKによる制御がどのステップで行なわれているかが明らかになってきました。今後、高等真核生物でSld3タンパク質に対応する因子を探すなど、高等真核生物でのCDKによる制御メカニズムを解明していくことになります。将来的には、このDNAの複製開始のステップを制御してDNAの複製を人工的に制御することが可能となれば、がんの治療にも結びつく可能性をも秘めています。

図1 DNAの複製開始
<用語解説>

<論文名>

"CDK-dependent phosphorylation of Sld2 and Sld3 initiates DNA replication in budding yeast"
 (CDKに依存したSld2, Sld3のリン酸化が出芽酵母のDNA複製を開始させる)
doi :10.1038/nature05465

<研究領域等>

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下のとおりです。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域: 「たんぱく質の構造・機能と発現メカニズム」
(研究総括:大島泰郎 共和化工(株)環境微生物研究所 所長)
研究課題名: 「核酸合成に関わるたんぱく質複合体の構造と機能解析」
研究代表者: 荒木弘之 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 教授
研究期間: 平成15年度〜平成20年度

<お問い合わせ先>

荒木 弘之(あらき ひろゆき)
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 細胞遺伝研究系 教授
〒411-8540 静岡県三島市谷田1111
TEL: 055-981-6754 FAX: 055-981-6762
E-mail:

佐藤 雅裕(さとう まさひろ)
独立行政法人科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第一課
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
TEL: 048-226-5635 FAX: 048-226-1164
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