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<用語解説>

(注1)Sld3タンパク質
 同一の細胞に、Dpb11タンパク質(注4参照)の変異と同時に存在することが出来ない変異(合成致死:Synthetic lethality with dpb11-1)を持つタンパク質の一つとして本研究チームにより分離されたものです。Cdc45タンパク質(注5参照)と結合しDNA複製の開始に働きます。サイクリン依存性キナーゼ(CDK)によりリン酸化されるとDpb11のN末端側のBRCTドメイン対に結合します。

(注2)細胞周期
 真核生物の細胞分裂は、DNA を複製(合成)するS期、細胞分裂を行なうM期、その間に位置するG1期、G2期からなります。G1→S→G2→M(→G1)の周期を繰り返すことにより細胞は分裂します。これを細胞周期と呼びます。

(注3)サイクリン依存性キナーゼ(CDK)
 機能制御を行う部分にサイクリンを持つタンパク質のリン酸化酵素(キナーゼ)の総称。サイクリンには色々な種類があり、それぞれ細胞周期の特定の時期に働きます。DNA複製には、S期に発現するサイクリンを制御部分に持つCDKが働きます。

(注4)Dpb11タンパク質
 Dpb11タンパク質は、細胞内での量を増やすと、DNA複製に用いられる酵素DNAポリメラーゼεの変異による欠損が回復する因子として、本研究チームにより分離されました。このタンパク質は2対の直列に配置したBRCTドメイン(注7参照)を持ち、DNA複製の開始に働きます。分裂酵母ではCut5タンパク質、 高等動物ではTopBP1タンパク質がこのタンパク質に相当すると考えられています。

(注5)Cdc45タンパク質
 細胞周期の研究でノーベル賞を受賞したL. Hartwellにより分離された細胞周期の変異cdc45に対応するタンパク質。DNA複製の開始とその後の複製鎖の伸長に関与します。Sld3タンパク質(注1参照)と複合体を作ります。

(注6)Sld2タンパク質
 Sld3タンパク質と同時に分離された、Dpb11タンパク質の変異と同時に存在することが出来ない変異を持つタンパク質です(注1参照)。CDKによりリン酸化されるとDpb11のC末端側のBRCTドメイン対に結合します。この結合がDNA複製の開始には必須です。Dpb11との結合には、アミノ酸配列の84番目のスレオニンがCDKによりリン酸化されることが必要ですが、このスレオニンをアスパラギン酸に置換するとリン酸化されているように振る舞います(リン酸化型変異Sld2タンパク質)。早期老化症状を示すロスモンド・トムソン(Rothmund-Thomson)症候群の原因遺伝子RECQL4が、高等動物におけるSld2ではないかと言われています。

(注7)BRCTドメイン
 乳がん・卵巣がんに関与するBRCA1タンパク質のC末端に見つかった球状部分。直列に並ぶと、その間にリン酸化ペプチドが結合します。乳がん・卵巣がんでは、この部分の変異が多く見つかっています。

(注8)リン酸化ペプチド
 アミノ酸が複数個結合したものがペプチドですが、その一部のアミノ酸がリン酸化されているものを指します。多くの場合、水酸基(-OH基)を持つセリン、スレオニン、チロシンがリン酸基を持ちます。CDKは、セリン、スレオニンにリン酸基を導入する酵素です。