平成17年 4月28日

独立行政法人理化学研究所
独立行政法人科学技術振興機構

紫外線による遺伝子の傷を修復するために働く新たなメカニズムを発見

− 皮膚がんの予防に向けて新たな可能性 −


◇ポイント◇
・ 色素性乾皮症の欠損因子であるXPC複合体とUV-DDBが協力して働く修復メカニズムを解明
・ 紫外線によるDNA損傷を効率よく修復するにはユビキチン化が重要
・ 皮膚がんの予防法の開発への応用も期待される

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と独立行政法人科学技術振興機構(JST,沖村憲樹理事長)は、細胞が紫外線によってDNAに発生した損傷を効率よく見つけ出し、修復するために働く新たなメカニズムを解明しました。理研中央研究所花岡細胞生理学研究室およびJST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CRESTタイプ)「ゲノムの構造と機能」研究領域(研究総括:大石道夫)における研究テーマ「ゲノム情報維持の分子メカニズム」の研究代表者の花岡文雄主任研究員、菅澤薫副主任研究員らと、大阪大学大学院生命機能研究科、東京都臨床医学総合研究所などとの共同研究による成果です。
 ヒトの遺伝病である色素性乾皮症(XP)※1の患者は、紫外線によるDNA損傷を修復する機構に異常があるため、皮膚がんを非常に起こしやすいとされています。XP患者で欠損が見られるXPCタンパク質複合体 ※2と紫外線損傷DNA結合因子(UV-DDB)は、いずれも紫外線によるDNA損傷に結合する性質があり、最初に損傷を見つけ出して修復を開始するメカニズムに関わっています。
 今回研究グループは、紫外線によってDNA損傷が発生するとUV-DDBに結合しているユビキチン・リガーゼが活性化され、XPCタンパク質とUV-DDB自身がそれぞれユビキチン化※3されることを見出しました。このユビキチン化によって両者のDNA損傷に対する結合性に変化が起こり、UV-DDBからXPC複合体に損傷が受け渡されることによってスムーズに修復反応が開始されることが明らかになりました。
 今後、このメカニズムを詳細に調べることによって、病気の治療だけでなく、本来細胞が持つDNA修復活性を高めることで皮膚がんの予防につなげられる可能性も考えられます。
 本研究成果は、米国の科学雑誌「Cell」(5月6日付) に掲載されます。

1.背 景
 細胞に紫外線が当たると、ピリミジン塩基(シトシンまたはチミン)が2個連続した場所で特徴的なDNA損傷が発生します(図1)。このような損傷は、ヌクレオチド除去修復(NER、図2)と呼ばれる機構によって元通りに修復されます。色素性乾皮症(XP)の患者ではこの修復機構が遺伝的に欠損しているため、皮膚細胞が日光にさらされた時にできるDNA損傷を十分修復することができません。そのため、XP患者は非常に皮膚がんを起こしやすいことが知られています。つまり、NERは私たちを皮膚がんから守ってくれる重要な防御機構として働いているのです。
 DNA修復では、巨大なゲノムDNAに発生した損傷をどうやって効率よく見つけ出すか、その最初のステップが重要な鍵を握っています。ヒトのNERでこの過程に必要不可欠なのが、XPの原因遺伝子産物の一つであるXPCタンパク質を含む複合体です。研究グループの菅澤 薫副主任研究員らは、XPC複合体が紫外線による損傷だけでなく、化学物質などが塩基に結合することによって発生する様々なDNA損傷を認識して、特異的に結合する性質を持つことをこれまで明らかにしてきました。一方、紫外線損傷に対してXPC複合体よりもさらに強力に結合できる別の因子として、UV-DDB(UV-damaged DNA-binding protein)が以前から知られていました(図3)。UV-DDBはDDB1とDDB2の2つのサブユニットからなる複合体で、DDB2はXPの原因遺伝子産物の一つ(XPE)です。UV-DDBはNERに必ずしも必須ではありませんが、XPC複合体による損傷の認識を補助することで修復を促進するものと考えられてきました。しかし、実際にXPC複合体とUV-DDBの機能がお互いにどのように関わっているのかについては、これまでわかっていませんでした。

2.研究手法と成果

 今回研究グループは、ヒトの培養細胞に紫外線を照射した時にXPCタンパク質の一部がユビキチン化されることにより、電気泳動上の移動度が遅くなることに気づきました(図4左)。タンパク質のユビキチン化に関する研究は2004年のノーベル化学賞の授賞対象にもなりましたが、近年さらに、生物の様々な機能の調節に重要な役割を果たしていることが急速に明らかになっています。特にユビキチン化の機能としては、タンパク質を分解に導く引き金となることがよく知られていますが、実験を重ねた結果、XPCタンパク質の場合はユビキチン化されても分解されるわけではなく、時間が経つと脱ユビキチン化されて再び元の状態に戻ることがわかりました。
 このXPCタンパク質のユビキチン化を様々な細胞を使って調べたところ、興味深いことにDDB2の異常によりUV-DDBが欠損しているE群XP患者由来の細胞やチャイニーズ・ハムスター由来の細胞ではユビキチン化が起こらないことがわかりました(図4右)。これらの細胞に正常なヒトDDB2遺伝子を導入するとXPCタンパク質のユビキチン化も回復したことから、UV-DDBがXPCタンパク質のユビキチン化に必要であることが明らかになりました。さらに、XPC複合体とUV-DDBが直接物理的に相互作用することが、抗体を使った共沈降実験によってはじめて示されました。
 一方、UV-DDBが細胞内において、ユビキチンをタンパク質に結合させるのに必要な酵素の一つであるユビキチン・リガーゼ(E3)と複合体を形成していることが2003年に報告されていました。研究グループはこのUV-DDB-E3複合体を精製し、試験管の中でXPCタンパク質のユビキチン化を再現することに成功しました。この時XPCタンパク質だけでなく、DDB2も同時にユビキチン化されることがわかりました。次に、XPC複合体とUV-DDB、それぞれのDNA損傷に対する結合が、ユビキチン化によってどのような影響を受けるかを解析しました。その結果、DDB2がユビキチン化されるとUV-DDBはもはやDNA損傷に結合できなくなるのに対して、XPC複合体はユビキチン化されても依然としてDNA結合能を保持していることがわかりました。さらに、試験管内で紫外線損傷のNER反応を行ったところ、UV-DDBを反応系に加えた場合に限り、ユビキチン化を阻害することによって修復反応も阻害されてしまうことが明らかになりました。
 細胞内で発生した紫外線損傷を長大なゲノムDNAの中から効率よく見つけるには、損傷に対して非常に強力に結合する性質を持つUV-DDBのような因子が有利です。損傷に結合したUV-DDBはタンパク質間相互作用によってXPC複合体を呼び寄せると考えられますが、両者の損傷に対する結合力に大きな差があるため、そのままではXPC複合体がUV-DDBと入れ替わることができず、結果として修復反応を先に進めることができません(図5右)。今回の結果は、ユビキチン化によってUV-DDBとXPC複合体のDNA損傷に対する結合の強さが逆転することを示しており、ユビキチン化の助けを借りることでXPCがUV-DDBと入れ替わることが可能になると考えられます(図5左)。このようなメカニズムによって損傷がUV-DDBからXPC複合体にスムーズに受け渡され、修復反応が開始されることがわかったと同時に、ユビキチン化の機能としても従来知られていない新たな側面が明らかになりました。

3.今後の展開
 オゾン層の破壊などにより、紫外線による皮膚がんの発生が人類にとって今後大きな脅威となる可能性があります。紫外線によるDNA損傷を修復するメカニズムを理解することにより、XPなどの病気の治療にとどまらず、本来正常な細胞が持つ修復活性をさらに高めることによって皮膚がんの予防につなげられるかも知れません。例えば、今回新たに見出したUV-DDBとXPCとのタンパク質間相互作用、あるいはUV-DDBに依存したユビキチン化を促進するような化合物や因子が見つけられれば、それを皮膚がんの予防薬として応用できる可能性もあると期待されます。


■補足説明
■図1 紫外線によって発生する代表的なDNA損傷
■図2 哺乳類ヌクレオチド除去修復の反応機構のモデル
■図3 紫外線損傷に対するXPC複合体とUV-DDBの結合性の比較
■図4 細胞の紫外線照射に伴うXPCタンパク質のユビキチン化
■図5 ヌクレオチド除去修復の損傷認識過程におけるユビキチン化の役割


(問い合わせ先)
独立行政法人理化学研究所
中央研究所 花岡細胞生理学研究室

副主任研究員菅澤  薫

TEL: 048-467-9532FAX: 048-462-4673
独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造事業本部

研究推進部 研究第一課佐藤  雅裕

TEL: 048-226-5635FAX: 048-226-1164
(報道担当)
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広報室駒井  秀宏

TEL: 048-467-9272FAX: 048-462-4715
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総務部広報室阿部  学

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