平成16年5月14日
仙台市青葉区星陵町4−1
東北大学加齢医学研究所
研究推進委員会
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埼玉県川口市本町4−1−8
独立行政法人 科学技術振興機構
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骨髄移植の成否の鍵を握る受容体を発見

 骨髄移植の際に起る不適合反応の強さを、免疫細胞上にある受容体の一種であるPIRというタンパクが調節していることを、東北大学加齢医学研究所と独立行政法人科学技術振興機構(JST;理事長:沖村憲樹)の研究チームが突き止めた。
 これは、東北大学加齢医学研究所の中村 晃助手、高井俊行教授(同研究所遺伝子導入研究分野)の研究グループにより、JSTの戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CRESTタイプ)の研究テーマ「IgL受容体の理解に基づく免疫難病の克服」において得られた研究成果。PIR(1)には免疫を強めるPIR-Aと逆に弱めるPIR-Bがあるが、このうちPIR-Bが欠損したマウスでは白血病患者への骨髄移植の際に問題となる移植片対宿主病と呼ばれる不適合反応が増強され、死亡率が高まった。この受容体のはたらきをコントロールする方法が見つかれば、慢性的なドナー(提供者)不足に悩む骨髄移植患者にとって朗報となろう。これらの成果は米国の科学雑誌ネイチャー・イムノロジーでの論文掲載に先立ち、5月16日(米国東部時間)に電子版で公開される。
 白血病の有力な治療法である骨髄移植は、MHCクラスI分子(2)と呼ばれる白血球の型が、ドナーと患者(レシピエント(3))の間で一致していることが成功の鍵を握っている。骨髄移植は、レシピエントの免疫作用を弱めてから行われるため、もしMHCクラスI分子の型が一致していないと、移植されたドナーのT細胞を中心とした白血球が、レシピエント側のMHCクラスI分子の型が違うことを認識して、臓器を攻撃し、移植片対宿主病と呼ばれる、時にはレシピエントの死に至る強い不適合反応を起こしてしまう。しかしながら、人には多くのMHCクラスI分子の型があるために、ドナーとレシピエントの間で完全にその型を一致させることは難しい。そこで実際の骨髄移植では、移植片対宿主病に代表される不適合反応をいかに抑えるかが治療の中心となっている。高井教授らは免疫細胞上の受容体を調べ、その中でT細胞受容体以外に樹状細胞上のPIR-AとPIR-BもMHCクラスI分子を認識していることを突き止めた(図1)。さらにPIR-Bが無いマウスの免疫機能を弱めてから骨髄移植をすると移植片対宿主反応が強くなり、全例が死亡したこと(図2)、さらに移植後のマウスでドナー細胞を活性化するはたらきを持つ樹状細胞の表面にPIR-Aが強く誘導されていることから(図3)、PIRがこの反応の強さを調節していると結論付けた。
 抑制にはたらくPIR-Bの作用を強めたり、逆に免疫活性化にはたらくPIR-Aの作用を抑えるような薬剤を開発することで、骨髄移植の成功率を上げたり、ドナーと患者間の白血球型のマッチングの厳格さを緩めたりできる可能性があり、ひいては慢性的なドナー不足の解消に役立つことが期待される。
論文: Nakamura A, Kobayashi E, Takai T. Exacerbated graft-versus-host disease in Pirb -/- mice. Nature Immunology in press.
(PIR-B欠損マウスではGVHD(移植片対宿主病)が重症化する)
doi :10.1038/ni1074

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域: 免疫難病・感染症等の先進医療技術 <研究総括:岸本 忠三、大阪大学大学院生命機能研究科 客員教授>
研究期間: 平成13年〜平成18年
<解説>
PIR (免疫グロブリン様受容体)
PIRは、免疫細胞上にある受容体の一種で、PIRには免疫を強めるPIR-Aと逆に弱めるPIR-Bがある。
MHCクラス1分子
(major histocompatibility complex 主要組織適合遺伝子複合体)
MHC分子は、細胞内で抗原が分解されてできたペプチドを分子の先端に結合して細胞表面に発現する。T細胞は、抗原を直接認識することができず、細胞表面に発現する抗原ペプチドとMHC分子を複合体として認識する。
レシピエント
他の人から提供された臓器・組織・血液を移植ないし輸血してもらう人
T細胞
胸腺に由来する免疫細胞で,樹状細胞から提示を受けた異物を認識し,これに対抗するための免疫反応を実行し,あるいは制御する細胞
樹状細胞
異物を細胞内に取り込んで加工し,T細胞に提示することで免疫応答を開始させる,組織にくまなく分布する重要な細胞.
図1 B細胞表面のPIR-BがMHCクラスI分子を結合することを示す蛍光顕微鏡写真
図2 移植片対宿主病の生存率曲線
図3 移植片対宿主反応の際のPIR-A・PIR-Bの関与を示す模式図
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<本件問い合わせ先>
高井 俊行 (たかい としゆき)
 東北大学加齢医学研究所 遺伝子導入研究分野
  〒980-8575 仙台市青葉区星陵町4-1
   TEL: 022-717-8501
   

島田 昌(しまだ まさし)
 独立行政法人科学技術振興機構
 戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第一課
  〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
   Tel: 048-226-5635    
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