平成16年 1月 9日
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環境に優しい鉛フリーの高性能圧電材料の創製

− 新しい原理に基づく巨大電歪1)効果の発見 −

 独立行政法人科学技術振興機構(理事長:沖村憲樹)は、戦略的創造研究推進事業さきがけタイプ「秩序と物性」研究領域(研究総括:曾我直弘)における研究テーマ「点欠陥秩序の対称性と特異なマルチスケール現象(研究者:任 暁兵、独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:岸 輝雄))」で進めている研究の一環として、新しい原理に基づく巨大電歪効果(電場誘起変形)を世界で初めて発見し、有害な鉛を使用しない環境に優しい材料を開発した。本研究の成果は、1月12日(月)付の英国科学雑誌「ネイチャー・マテリアルズ」オンライン版で公開される。
【概要】
 従来の逆圧電2)・電歪効果は圧電材料中のイオンが電場下で微小に移動することによって、結晶構造全体が少し伸縮する。このような過程による電歪は非常に小さい。それに対し今回の研究では、新しい原理(可逆的ドメイン変換)を用いて、はるかに大きな電歪を生じさせることが可能になった。
 この新しい原理を用いて得られた電歪効果(電場誘起変形)が数十年来広く使われているチタン酸ジルコニウム酸鉛(PZT)材料の電歪効果と比べ、低電圧で40倍という桁違いに大きい効果を示すことを見出した。この巨大な電歪効果はセンサーやアクチュエーターなどの電気―機械エネルギー変換に係わる広い分野に革命を起こす可能性を秘めている。また、作製した材料は鉛を使わないチタン酸バリウム系物質であるため、環境に優しい高性能圧電材料の創製にも貢献した。
【ポイント】
1. 新しい原理に基づく巨大電歪効果の発見。
2. 鉛を使用しない環境に優しい高性能圧電材料の創製。
3. この新原理を用いて、巨大電歪・圧電効果をもたらす様々な材料の開発が可能。
4. この巨大電歪効果は、センサー、アクチュエーターなどの電気―機械エネルギー変換に係わる広い分野に革命を起こす可能性を秘めている。
【研究の背景】
 圧電材料は電圧を加えると伸縮し、逆に力を加えると電圧が発生するという効果を持つため、電気―機械エネルギーを変換するアクチュエーターなどに応用され、日常生活におけるブザーやインクジェットプリンター(インクの噴出制御)から最先端技術の走査型トンネル顕微鏡および原子間力顕微鏡(プローブ針と試料台の制御)まで幅広く利用されている。
 圧電材料の構造的な特徴はプラスイオンとマイナスイオンの中心がずれていることである。この材料に電場をかけるとイオンの微小移動が起こり、結晶全体が伸縮する。これは通常の圧電効果の基本原理である(図1a)
 このような圧電効果は原理的に非常に微弱(最も大きい圧電効果を持つPZTでも100V/mmの電場で最大0.01%程度しか変形しない)であるため、この圧電原理を用いている素子の応用が限られている。また、現在最も利用されているPZT圧電材料は有毒な鉛を含有するため環境問題の観点から規制されていく方向にあり、その代用材料の開発は世界的に重要な課題になっている。
 このような背景の中、任研究者は従来の圧電原理と異なる新しい原理を提案し、それに基づく巨大電歪効果を発見した(図1b)。さらに、この効果を持つ材料は鉛を使用しないため、環境に優しい高性能圧電材料の創製に貢献した極めて独創的な研究である。
【内容説明】
1.巨大電歪に関する新しい原理: 可逆ドメイン変換
 原理的に小さい圧電効果による電歪(図1a)とは対照的に、本研究では、理論上桁違いに大きい電歪効果を実現する可能な新しい原理を提案した。この新しい原理は次のように説明できる。
 圧電材料に電気分極3)方向が異なる領域(ドメイン)4)が存在する。ドメインの間の分極方向は結晶対称性によって、180°や90°などの角度がある。 電場を加えると、分極方向が電圧方向に沿うようにドメイン変換が起こる。図1bのように分極が電場に対し垂直であるa-ドメインが、電場印加後電場に一致するようにc-ドメインに変換される。 このドメイン変換に伴い、低い対称性を持つ強誘電相の長軸方向と短軸方向が交換することになる。この過程で得られる歪の大きさは長軸と短軸の差であり、材料によるが理論上最大1−5%である。この値は通常の圧電効果より数十倍以上大きい。 しかし、この巨大電歪効果は通常は不可逆であるため、その有用性は低かった。
 そこで本研究では、以下に説明する点欠陥5)のナノ秩序の対称性(以下は点欠陥の対称性と略す)という性質を用いて、可逆的なドメイン変換を実現し、可逆的な巨大電歪を生み出すことに成功した(図1b)
 図2は点欠陥の対称性の性質を示す。ある点欠陥(添加元素D)の周り(ナノメートル範囲)にほかの点欠陥の占有確率を考える。数年前に任研究者らは、この占有率は平衡時、結晶の対称性に一致することを報告した。これは点欠陥のナノ秩序の対称性原理と呼ばれる。この対称性原理によると、常誘電相6)での点欠陥対称性は高く(図2a)強誘電相6)の点欠陥の対称性(平衡時)は結晶の対称性と同様に低い対称性を示し、しかも点欠陥による点欠陥の分極も自発分極と一致する(図2b)
 図3は上記の点欠陥のナノ秩序の対称性性質を用いて、可逆的ドメイン変換による巨大電歪効果を実現する原理図である。圧電材料の常誘電相状態(図3(a))から、冷却により強誘電相転移6)が起こり、低い結晶対称性を持つ強誘電体状態になるが、点欠陥の対称性が常誘電相の対称性を引き継ぐため(図3(b))、不安定である。時効7)にともなって点欠陥の拡散によって各ドメインの点欠陥の対称性がドメインの結晶対称性に一致するようになる(図3(c))。この状態は最も安定な状態である。電場を加えてドメイン変換が起こる(同時に巨大電歪が発生する(図3f))際に、図3dのような不安定状態になる。そのため、電場を除去すると元のドメイン状態(図3c)に戻り、形状も元に戻る。つまり、可逆的な巨大電歪が実現されることとなる。
2.具体的な方法と材料
 今回の研究では微量なFeまたはK(点欠陥として)を含有したチタン酸バリウム(BaTiO3)単結晶を用いた。Fe-BaTiO3単結晶を強誘電相状態に80℃で5日間時効し、図3cの状態にした。
3.結果
 時効したFe-BaTiO3試料の電歪効果は図4に示す。 200V/mmの低電場において0.75%という巨大な可逆電歪が得られ、この値は代表的な圧電材料PZTより40倍も大きい電歪である。また、最近の話題になったPZN-PT単結晶よりも10倍以上である。
 この新しい原理に基づく巨大電歪効果は通常の圧電効果と異なり、ある臨界電圧より急激な上昇を示す大きい非線形効果を示し、この巨大効果は従来小さい圧電効果が応用できなかった分野を開拓できるものと期待される。
 また、同じような大きい電歪効果はK−BaTiO3単結晶にも発見された。これはこの新しい原理が普遍的であることを示唆している。
 今回の研究にもう一つ重要な成果として、本研究で発見した巨大電歪を示す材料は鉛を使わないため、環境に優しい高性能圧電材料の創製に寄与した。
用語説明
図1 通常逆圧電効果による電歪の基本原理と新しい原理による巨大電歪の比較
図2 点欠陥のナノ秩序の対称性性質:結晶中の点欠陥の普遍的な性質
図3 新しい原理による巨大電歪効果の原理
図4 点欠陥ナノ秩序による強誘電体における巨大電歪
【本件に関する問い合わせ先】
任 暁兵(Ren Xiaobing、にん ぎょうへい)
独立行政法人物質・材料研究機構
材料研究所 基礎物性グループ 主任研究員
〒305-0044 茨城県つくば市千現1−2−1
TEL: 029-859-2731,FAX: 029-859-2701
瀬谷 元秀(せや もとひで)
独立行政法人科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第二課
〒332-0012 埼玉県川口市本町4−1−8
TEL:048−226−5641,FAX:048−226−2144
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