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科学技術振興事業団
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「赤血球の分化過程に関与するDNase(核酸分解酵素)の同定」

 科学技術振興事業団〔理事長 川崎雅弘〕の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「アポトーシスにおけるゲノム構造変化の分子機構」〔研究代表者:長田重一 大阪大学大学院医学系研究科 教授〕で進めている研究の過程で、赤血球から核が除かれる過程にマクロファージに存在する核酸分解酵素(DNaseII)が関わっていることが明らかとなった。この研究成果は、大阪大学大学院医学系研究科の長田重一教授のグループによって得られたもので、平成13年5月25日付の米国科学雑誌「Science」に発表される。

 我々の身体に存在する60兆個にものぼる細胞の大部分はDNAをその核内に持っている。一方、血液に存在する赤血球は、酸素を運ぶ役割を持つ細胞であるがこの細胞には核は存在しない。赤血球は成人では骨髄で作られ、胎児では肝臓において赤芽球細胞が作られた後に赤血球に成熟する。赤芽球細胞には核が存在し、この細胞が成熟する過程で核が除去されると考えられる。しかし、どのようなメカニズムで核が無くなるのか今まで全く知られていなかった。また何故、哺乳動物の赤血球だけ核が崩壊しなければならないのかについてもよくわかっていない。
  動物の形態形成の過程や恒常性維持のなかで、細胞の増殖が進む反面、相当数の細胞が死滅している。細胞死には大きく分けて傷害や病的な死と、プログラムされた細胞死の2種類がある。アポトーシスはプログラム細胞死の過程であり、例えば、手足の指が形成される時期の指と指の間の細胞死などがあげられる。アポトーシスでは細胞の凝縮、断片化とともに核に存在する染色体DNAが急速に分解される。このアポトーシス時にはCAD(※1)と呼ばれる核酸分解酵素が活性化されることが知られている。実際、CAD遺伝子を欠損したマウス(ノックアウトマウス)から調製した細胞を試験管の中で培養し、アポトーシスを起こさせると染色体DNAは分解されなかった。つまり、CADがアポトーシス時の染色体DNAの分解を引き起こす酵素であることが確認された。ところが、動物内でアポトーシスを起こしている細胞を観察すると、CAD遺伝子が欠損している細胞でもDNAの分解は正常に起こっていた。しかもこの分解されたDNAを持つ細胞は白血球の1種のマクロファージの中に存在した。このことは、アポトーシスを起こした細胞はマクロファージによって速やかにとりこまれ、マクロファージがアポトーシス細胞のDNAを分解する可能性を指摘する。
 今回、このことを確かめるために、マクロファージに存在する核酸分解酵素(DNaseII)遺伝子のノックアウトマウスを作成した。その結果、DNaseII遺伝子欠損マウスが生まれないという全く意外な事実を発見した。胎児を調べるとこのマウスは赤血球の数が正常マウスの十分の一以下であり、重篤な貧血症を呈していた(図1)。胎児の肝臓には異常な病巣が多数観察された。電子顕微鏡で観察した結果、この病巣は、DNAが分解されなていない多数の核を持つマクロファージからなることがわかった。このマクロファージの周りには種々の分化段階の赤血球が存在した(図2)。このことは、赤血球の脱核過程はマクロファージによって担われていること、マクロファージが赤血球の核を取りこみ、この細胞が持つDNase IIによって、そのDNAを分解することを示している。
DNase IIは線虫(C.elegans)ではNuc-1と呼ばれ、アポトーシスを起こした細胞のDNAを分解する酵素と考えられており、哺乳動物でもこの酵素がアポトーシスに関与していると考えられる。DNase IIが赤血球の脱核に関与しているという結果は、アポトーシスにおけるDNAの分解と赤血球の核の崩壊が共通のメカニズムで起こっている可能性を指摘しており興味深い。本研究は、赤血球の分化過程、特に脱核の過程の解析に大きな突破口となるであろう。また、本研究で樹立された赤血球の少ないマウスは貧血の治療剤の開発などに応用されるであろう。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
  研究領域:ゲノムの構造と機能〈研究総括:大石道夫、(財)かずさDNA研究所 所長)
  研究期間:平成10年〜平成15年


※1 CAD…caspase-activated DNaseの略。DNA分解酵素の1つで、この酵素がアポトーシス時に活性化され、DNAを崩壊させる。1998年に、長田重一グループによって得られた成果でNatureに報告されている
本件問い合わせ先:
   (研究内容について)
      長田 重一(ながたしげかず)
       大阪大学大学院医学系研究科・生体制御・遺伝学
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This page updated on May 25, 2001

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