補足説明資料


 ノックアウトマウスを用いた解析から、マクロファージリソソームに存在するDNase IIが赤血球の成熟過程、特に脱核過程に必須の分子であることを初めて明らかとした。

 哺乳動物の赤血球はヘモグロビンを持ち、酸素を運搬する役割を担っている。この細胞には核はない。赤血球は核を持つ前駆細胞(erythroid progenitor)から分化の最終過程で脱核が起こり形成される。赤血球の分化はエリスロポエチン(EPO)と呼ばれるホルモンによって制御されている。実際、erythroid progenitor をEPOと培養するとヘモグロビン遺伝子が活性化され、大量のヘモグロビン蛋白質が細胞内に蓄積する。しかし、in vitro での培養では脱核した成熟赤血球は形成されず、何らかの他の因子、細胞の関与が予想された。

 DNaseIIは酸性条件で活性を持つDNaseとして30年以上前に同定された酵素である。しかし、この酵素の生理作用は明らかとなっていなかった。近年、我々の研究結果などからこの酵素はマクロファージがアポトーシスを起こした細胞を貪食した後、その細胞のDNA分解に関与している可能性が指摘された。そこで、今回、DNaseIIの生理作用を調べる目的でこの遺伝子のノックアウトマウスを作成した。このマウスは発生途上、貧血のために死亡した。DNaseII遺伝子のノックアウトマウスの発生14日目の胎児肝細胞を用いて、erythroid progenitor を調べると、正常であった。また、この胎児肝細胞を他のマウスに移植すると脱核した正常な赤血球が産生された。このことは、赤血球の分化過程でDNase IIは赤血球で作用する必要はないこと、赤血球以外の細胞でのDNase IIの発現が赤血球の分化に必須であることを示している(non-cell autonomous effect)。

 胎児では赤血球の産生は肝臓で起こる。貧血を起こしているDNaseIIノックアウトマウスの肝臓を調べると大量の病巣が見いだされた。この病巣にはたくさんの核、DNAが存在し、これらはマクロファージの中に存在した。これらはerythroid progenitor 由来の核と考えられた。このことは、赤血球の最終段階に起こる脱核の過程にマクロファージが関与していること、マクロファージがerythroid progenitor からの核を貪食した後、そのDNAをDNase IIを用いて分解していることを示している。DNaseII遺伝子が欠損するとマクロファージは貪食した核を分解できず、消化不良を起こして、赤血球の増殖・分化をサポートできなくなるのであろう。この結果はこれまで、赤血球の増殖分化が骨髄や胎児肝臓のBlood island (注1)と呼ばれる領域でおこなわれるとの知見とも一致する。

注1 Blood island (血島):30年近く前、骨髄の顕微鏡観察により、赤血球の種々の分化段階の細胞が一個のマクロファージのまわりをとり囲んでいることが認められ、この領域がBlood island と呼ばれている。

This page updated on May 25, 2001

Copyright©2001 Japan Science and Technology Corporation.

www-pr@jst.go.jp