(お知らせ)
平成12年11月21日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
TEL 048-226-5606(広報担当)

「大脳皮質の運動前野で“動作のプランニング”情報を統合する
細胞活動を発見」

 科学技術振興事業団(理事長 川崎雅弘)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「行動制御系としての前頭前野機能の解明」(研究代表者:丹治 順 東北大学大学院医学系研究科教授)で進めている研究の一環で、動作を行なうにあたってその対象物を決め、身体のどの部位を使うかを決める(動作のプランニング)情報が、大脳皮質の一部である運動前野背側部で統合されていることを発見した。更に、その統合過程を担っている四種類の細胞集団の活動状況を明らかにした。この研究成果は、丹治 順 東北大学大学院教授と星 英司 研究員によって得られたもので、11月23日付の英国科学雑誌「ネイチャー」に発表される。

 動物が運動を行う場合、大脳皮質の運動野からは運動に関係する情報が発信されている。運動野は一次運動野と、運動前野背側部、運動前野腹側部、及びその他からなる高次運動野とから構成されている(註1)が、一次運動野には身体の各部位の筋肉を支配する領域が整然と並んでいて、そこからの指令が脳内を通り脊髄へと下りて行く。そして支配している筋肉の中から、どの筋肉とどの筋肉とをどのように組み合わせて運動させるかを指令し、運動の速さや力の強さが決められる。このような一次運動野が活動するための情報はもう一つの領域である高次運動野から出ていると考えられている。
 運動野の機能を的確に理解するには、脳を構成する神経細胞の働き方を、実際の行動に即して、ミリ秒単位の時間的解像度で調べることが必要である。今回それらの要件を満たし、“動作のプラニング”という機能を時間的に進行させる具体的な実験モデルを設定することによって、高次運動野のうち運動前野背側部の特定な部位に “動作のプランニング”情報を統合する機能があることを発見した。
 タッチパネル上に現れるシグナルに従って行動(註2)することを習得したサルの動作中の背側運動前野の神経細胞活動を調べると、以下の4種類の細胞集団があることが分かった。

一つ目は、動作目標を決める時に活動する細胞
二つ目は、使う身体の部位を決める時に活動する細胞
三つ目は、プランニングの後半で動作そのものを表現する時に活動する細胞
四つ目は、プランニングの前半では動作目標及び使う身体の部位を決める時に活動し、プランニングの後半では動作そのものを表現する時に活動する細胞

 このように、上記四種類の細胞が運動前野背側部にあるということはこの領域で情報が統合され、“動作のプランニング”が行なわれていることを示す初めての成果である。
 従来はこれらの部位に傷害を持ったヒトでの観察や動物での脳破壊例による研究が主体であった。あるいは最近ではPETやfMRIを用いた非侵襲的な研究も行なわれているが、解像度の問題で今回のように動作中の行動に関わる脳領野の部位特定はできなかった。そのため今回の成果は脳の運動機能の理解を抽象的な段階から細胞レベルでの理解という、より具体的な段階へと進めることが出来た画期的な成果となった。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
 研究領域:脳を知る(研究統括:久野 宗 京都大学名誉教授、岡崎国立共同研究機構・生理学研究所名誉教授)
 研究期間:平成11年度-平成16年度
本件の問い合わせ先:
(研究内容について)
    丹治 順(たんじじゅん)
     東北大学大学院医学系研究科 生体システム生理学分野
     〒980-8575 仙台市青葉区星陵町2-1
     TEL:022-717-8071
     FAX:022-717-8077

(事業について)
    石田秋生(いしだあきお)
     科学技術振興事業団 基礎研究推進部
     〒332-0012 川口市本町4-1-8
     TEL:048-226-5635
     FAX:048-226-1164

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