本研究では、酸化物半導体及び強相関電子系酸化物に着目し、自己形成による構造の次元性と乱れの制御による新物質開発と、多様な環境下での基礎物性評価を行うことにより、高い熱電特性を持つ酸化物材料の創成と新物性探索を目指している。
　本年度に得られた顕著な研究成果は、デラフォサイト型酸化物CuCrO₂における磁気励起の次元クロスオーバーの発見^1,2)である。CuCrO₂は、CrO₆八面体が辺共有して形成するCrO₂層と、Cu層が交互に積層した層状構造をしている。（図１）この構造では全ての２次元面は三角格子を形成するが、特にCr三角格子面のCr³⁺イオンはS = 3/2のスピンを持つため、S = 3/2反強磁性三角格子を形成し、反強磁性転移温度（T_N）以下で幾何学的フラストレーションを解消するためにほぼ120°スピン構造を形成することが知られている。
　本年度は、このCr三角格子面間にある非磁性Cu層の一部のCu⁺イオンをAg⁺イオンで置換することにより、磁気励起の次元性が異方的３次元から２次元へと連続的にクロスオーバーを起こすことを磁気比熱（図２）や中性子散乱実験により見出した。特に、15% Ag置換した物質では、理想的な２次元磁気励起が観測され、反強磁性ネール状態からスピン液体へのクロスオーバーが起こっている可能性もあり、今後のさらなる研究が求められる。

図２　デラフォサイト型酸化物Cu_1-xAg_xCrO₂の磁気比熱

(a) 80 Kまでの磁気比熱の温度依存。Ag置換に従い反強磁性転移に伴う磁気比熱のピークが抑制されていることとT_Nが減少していることがわかる。(b) 低温での磁気比熱。T ³の温度依存性は異方的３次元の反強磁性マグノンの特徴であるのに対して、T ²の温度依存性は２次元の反強磁性マグノン又はスピン液体の特徴とされている。これらの全ての結果は、磁気励起の次元性が異方的３次元から２次元へと連続的にクロスオーバーを起こしていることを示している。

（参考文献）

1. T. Okuda, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 78, 013604-1〜013604-4 (2009).
2. 奥田哲治, 固体物理 44, 421〜432 (2009).

【特記事項】

・本研究成果内容を発表した論文（参考文献1）は、日本物理学会欧文誌（Journal of the Physical Society of Japan）から「JPSJ Papers of Editors’ Choice」（注目論文）に選ばれた。
・本研究成果内容は、１月２３日の科学新聞の科学技術総合欄と、日本物理学会誌４月号の「最近の注目論文から」で紹介された。