研究代表者 | 定方 正毅 | 東京大学大学院工学系研究科 教授 |
主たる研究参加者 | 越 光男 | 東京大学大学院工学系研究科 教授 |
徐 旭常 | 清華大学熱能工程系 教授 | |
西岡 将輝 | 東京大学大学院工学系研究科 助手 | |
原野 安土 | 群馬大学工学部 講師 | |
水野 彰 | 豊橋技術科学大学エコロジー工学系 教授 | |
金 熙濬 | 豊橋技術科学大学エコロジー工学系 助教授 |
年々、深刻化する中国はじめ途上国とその影響を受ける国での酸性雨問題を解決するために、わが国をはじめとする先進諸国がこれまで開発した脱硫技術を途上国へ技術移転する試みがなされているが、高コストと水を大量に使用する湿式プロセスが主流であるため、ほとんど成功していない。
途上国に適合する脱硫技術として、 |
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などの特性が望まれている。 | |||||||||
本研究では、まず上記条件を満足する脱硫プロセスとして節水型の脱硫プロセスの開発を行っている。また、その研究成果を取り入れたパイロットプラント製作とそれを用いた実証試験を実行した。 また、本研究では、併行して世界でいまだ達成されていない連鎖反応を利用した乾式脱硫反応を見いだす基礎研究を進めた。すなわち、これまで電子ビーム脱硫、脱硝反応(および硫酸イオン溶液中内反応)で示唆されているSO2→SO3の連鎖反応サイクルを抽出してイオン、ラジカルを吹き込むことにより、これを積極的に生ぜしめ排ガス温度600-800Kの範囲で、SO2の迅速な酸化を具体化できる反応の発見を目指した。 5年間のプロジェクトの得られた代表的な成果としては、
本研究のグループごとに成果を分説する。 |
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(1) 気液反応グループ |
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微小液滴とその液滴内酸化反応を利用してSO2の吸収速度および量を増加させることにより、現行の湿式脱硫法より格段に水処理量の少ない脱硫法の開発を目指し実験を行った。実験としては酸化剤等を添加した微小液滴を静電微粒化により生成しSO2の取り込み量の測定を行った。 液内で酸化反応を起こすことでSO2の吸収が促進し、特に過酸化水素の添加により脱硫率は著しく向上した。その際の噴霧した液量と処理ガス量の比は0.3l/Nm3と従来の湿式脱硫法の1/10程度の水量で処理できることを明らかにした。 |
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(2) 気固反応グループ(放電) | |||||||||
本研究では非平衡プラズマを用いたSO2除去プロセスを検討した。主目的はSO2にNOが共存することによるSO2とNO除去の相乗効果の可能性の追及、そしてNH3など添加剤を必要としない、もしくはNH3の使用を最小限に留めたシステムの検討を行った。 液体の中にアンモニウムイオン(NH4+)が存在することはSO2の液体中への吸収に効果的であることより、NO3-からのNH4+生成を検討した。鉄電極を用いた電気分解および放電を用いることにより液体中のNO3-からNH4+生成が可能であった。放電を用いたときのNH4+収率は3.09×10-3mol/Cであり、電気分解を用いた場合(1.58×10-6mol/C)と比較して1000倍の効率を示した。NO3-溶液にH2O2が共存する場合、電気分解ではNH4+生成が阻害されたが放電を用いた場合は阻害されなかった。またSO42-が共存する場合、NH4+生成の阻害は観察されなかった。これは放電場に液膜を形成させた湿式反応器を用いることにより、NOXの吸収によるNO3-からNH4+生成が可能であることを示した。 |
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(3) 気固反応グループ(TTプロセス) | |||||||||
石炭灰フライアッシュと生石灰CaOから、新規脱硫剤FLASHの開発に成功した。開発された脱硫剤は、純粋な一般的な乾式脱硫剤であるCa(OH)2に比べ、4〜5倍の脱硫活性を有する。この脱硫剤を循環流動層型反応器に投入して脱硫実験を行ったところ、最大83%の脱硫率を達成することができた。さらにNOの代わりにNO2を吹き込むことで、さらに石膏含有率の高い副生成物を生産できることも明らかになっている。この反応機構について研究を進めたところ、NOxが脱硫剤表面上で触媒的な働きをし、Ca(OH)2、CaCO3とSO2との反応速度を向上させていることが明らかになった。 | |||||||||
(4) プロセス化グループ | |||||||||
東京大学で提案されたTTプロセス・ラボスケール実験での良好な結果を受け、中国・清華大学内にTTプロセスのパイロットプラントが建設された。 内径20cm、高さ5.5mの循環流動層を用いて実用化・スケールアップに向けたデータ収集が行われた。脱硫実験では、最大で82%の脱硫率を達成できた(Ca/S=3)。またガス流速1.9m/sが最適流速であること、広いSO2濃度に渡り安定した脱硫性能を示すことが確認できた。脱硫剤の活性も、ラボスケールで作られた脱硫剤に比べ低いため、脱硫剤調整工程を見直すことで脱硫率の更なる改善が見込まれる。 |
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(5) 均相反応グループ | |||||||||
各種燃焼炉からの排ガス中に含まれるSO2を気相連鎖反応により効率よくSO3に酸化する反応系を見出すために、詳細化学反応機構を構築した。多くの燃焼炉の排ガス温度領域(600-800K)においては、SO3は熱力学的にはSO2より安定である。この温度領域において、少量のNO存在下において、NOとSO2のNO2とSO3への同時酸化が以下の連鎖反応により可能となる。
ラジカル発生のためのいくつかの添加物について検討した結果、HNO3がラジカル発生剤として適当であることを見出した。100ppmのHNO3添加により、典型的な排ガス条件下で10%程度のSO2をSO3に変換することができることを実証した。 |
石炭燃焼を多用している発展途上国の多くが半乾燥・乾燥地にあるので、それらの地域では、節水型又は乾式脱硫プロセスは最も望ましい技術である。 本研究では、開発した「水膜式簡易湿式脱硫プロセス」テストプラントを中国瀋陽市市内の化学工場に設置し、実用化試験を実施した。また、新規脱硫剤FLASHを導入した「TTプロセス」パイロットプラントを清華大学内に設置し、基礎試験を実施した。これらは、清華大学徐教授グループとの共同研究により実施された。両方式共に、今後、中国での普及が期待される。また、気相における連鎖反応の研究については、東京大学越教授グループとの共同研究により研究推進がなされた。 これらの研究成果の発表については、論文発表について国内11報、海外49報で合計60報、口頭発表については162報がなされた。また、特許出願は、11件をみた。 |
本研究ではこのようなニーズに対して、上記の2方式のほかに、気相中での連鎖反応を利用した完全乾式脱硫プロセスを見いだす課題に挑戦した。 研究代表者等のほぼ5年を費やした努力の結果、連鎖反応式について、はじめて見通しを得ることができた。すなわち、連鎖反応を継続させるためのOHラジカル供給方法として、硝酸投入によるHO2供給方法及び12CaO・7Al2O3 を利用したO-の連続供給によるHO2供給方法を見いだし、連鎖反応を成立させることに成功した。 連鎖反応を利用した脱硫方法は世界でもいまだ達成されてない高いレベルの研究課題であったが、これを研究室レベルではあるが成し遂げたことを高く評価したい。科学的・技術的インパクトについても大きいと評価する。 しかし、今後、効率向上などについてさらに研究を継続し発展させて行くことが必要である。実用化にむけて、研究を発展させて行くことが強く望まれる。 これらの研究成果は酸性雨の発生源対策に有効であり、地球環境保全に貢献できるという側面をまず第一に評価できる。また、本研究での脱硫技術は化石燃料の中では埋蔵量が一番大きい石炭エネルギーを有効利用する際に必要となる技術であるだけに、わが国においてもこの意味で必要となる技術であり、今後、重要度が増して行くことも大いに考えられる。 |
研究終了直後に国際シンポジウムを開催して研究成果を報告した結果、専門家の間で高い評価を得た。 研究代表者は、平成11年論文「発展途上国のために大気汚染防止技術研究」により化学工学会研究賞を受賞した。 また、定方研究代表者は、中国などに適した脱硫方法の研究による貢献によって、平成11年に清華大学客員教授に就任した。 |