研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
農山村地域社会の低負荷型生活・生産システムの構築
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者  合田 素行  農林水産政策研究所 部長
主たる研究参加者  両角 和夫  東北大学大学院 教授
 西澤 栄一郎  法政大学 助教授
 田上 貴彦  CREST研究員
3.研究内容及び成果
 本研究は、持続可能な農山村のあり方を、地域資源としての有機性資源を可能な限り利用することによって外部から当該地域への投入を少なくすること、そして地域内活動により環境に出される負荷を少なくすることを意味する「自足性 Self-Contained-ness」の概念のもとに、提案することを目標とした。
 

(1) 実態調査

 北海道中札内村・更別村、山形県長井市、長野県臼田町、鹿児島県屋久島において実態調査を行うとともに、日本各地における自足的社会の可能性をもつ地域に関する情報を収集・整理した。

 士幌町、三春町、沖永良部島を代表地点として、主として地域有機性資源を中心に現状と地域の問題点を明らかにし、物質収支とエネルギー収支を含む実態を総合的に把握した。バイオマス量(ふん尿などの廃棄物だけでなく農林畜産物を含む)の資源賦存、利活用度の現状とポテンシャル(家畜ふん尿の排出形態、液肥等の処理など)、需要に対する供給可能量について、推定・評価を行った。有機資源の活用という意味で、得られた結果を、窒素について例示すると、窒素の需要量ポテンシャルとしての供給量と需要量は、士幌町でそれぞれ、2593.7t-N、3924.8t-N、三春町137.9t-N、145.8t-N及び、沖永良部島で526.1t-N 、924.2t-N等である。バイオガス化、バイオマス利用の2つの技術については、社会システム面での検討事例の多いドイツ、デンマーク、スウェーデン等の実情を調査した。

 
(2) 改善案の提案と環境負荷評価
 現状の環境負荷を評価し、有機資源の活用を中心とする、いくつかの選択肢からなる改善案を組み立て、改善を実施した後の環境負荷をLCA手法により評価した。
・士幌町
 畜産農家を主とする士幌町では、バイオガスプラントを中心とするオプションを、次のように設定した。
  1.町内の酪農家のうち、比較的大規模な農家10戸が個別のプラントを建設し、エネルギーを利用する。
  2.町内の酪農・畜産農家のうち、150頭以上を飼養する農家全てで個別のプラントを建設し、エネルギーを利用する。
  3.町内全ての酪農・畜産農家の飼養する全ての牛の糞尿を一箇所に集約し、バイオガスプラントでエネルギー化する。
 以上について、LCAを行うと環境負荷は大いに低減するが、富栄養化インパクトはほとんど変わらない。
 バイオガスプラントによる発電単価は、現状買電を大きく上回るので単純には経済的に割に合わない。余剰電力、余剰熱の活用や、糞尿処理費との相殺を考慮するなどの工夫が必要になる。

 
・三春町
 農業に関連する有機性資源の有効利用をオプションとして選択し、林野・農地を利用するバイオマスエネルギー、家畜糞尿や生ごみを利用するバイオガスエネルギー及び堆肥の生産に関連するものを対象とする。一般家庭から排出される有機性残渣を堆肥化利用水稲の不作付地にエネルギー作物を作付し、エネルギーとして利用、及び林野のバイオマスもエネルギーとして利用する等を組み合わせて環境負荷を評価した。木質バイオマス発電により温暖化負荷を減少させるというオプションは、追加的に投入が必要なエネルギー・資材の増加によって、その効果が相殺されてしまうので環境負荷に関しては現状維持か、或いは若干増加という結果しか得られなかった。
 
・沖永良部島
 沖永良部島では、エネルギーとして、森林および耕作放棄地・不作付地の利用可能性が大きく、肥料としては農業副産物をマテリアル利用していくことが考えられる。
  農業に関連の深いバイオマスエネルギーの利用をオプションとして取り上げ、
1. さとうきび残渣からのエネルギー利用
2. さとうきびを木質系バイオマス栽培に変換し、エネルギー利用
3. その他花卉類まで木質系バイオマス栽培に変換してエネルギー利用
 等の選択肢を組み合わせて評価した。酸性化、温暖化、富栄養化、及び人体毒性等の環境負荷は低減するが経済的費用は現状より増える。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
論文発表(国内誌10件、国際誌2件)、招待、口頭講演(国内12件、国際1件)特許(0件)等、分野の性格上、外部発表は比較的少ない。
代表的な3地点の環境という視点からの実態は、ある程度総合的に捉えられたものの一般的な農村事例調査に止まった。
当初の低負荷型生活・生産システムの構築という大きな目標に対する具体的な提案には至らず、主張するところの持続型農村というコンセプトが、代表的3地点の全てで、経済的に不成立であった。
有機資源の活用を中心に改善案を組み立てたが、いずれも、環境低負荷という意味で、現状と比較した場合、取り立てて有効なものとはならなかったのみならず、経済的なメリット等を生み出すことが出来なかった。
バイオマスプロジェクトにかける比重が大きいが、バイオマスを本格的に展開する上での技術的検討、或いは社会制度上の新しい枠組み等の提案等、一歩踏み込んだ独自の貢献には至らなかった。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 当初の目標として設定した、農山村の低負荷型生活・生産システムの構築という課題に対して、どのようにすれば、その目標に接近できるのか、具体的で、且、普遍的な提案は得られなかった。結果として示された提案は、有機資源の活用という、既に、多くの実施例のある常識的な範囲を越えないものが中心となっており、技術的に、新しい寄与・貢献は無い。更には、農業分野に対する従来にない新しい切り込みが期待されたが、例えば、環境政策に関わる制度を組み入れるなどの、制度設計的な検討は、全くといってよいほど、見当たらず、システム的な枠組みとしての提案等、社会科学的なアプローチからの新しい寄与もない。
4−3.その他の特記事項
 当初から研究目標が不明確であり、また、検討の内容も不十分で、くり返しその改善を指示したが、ターゲットの設定や研究体制、研究方法において、農山村の事例調査という従来手法の枠を越えられなかった。
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