研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
都市交通の環境負荷制御システムに関する基礎研究
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者  岩田 規久男  学習院大学経済学部 教授
主たる研究参加者  上田 孝行  東京工業大学工学部大学 助教授
 石田 東生  筑波大学社会工学系 教授
 八田 達夫  東京大学空間情報科学研究センター 教授
 清水 浩  慶應義塾大学 教授
3.研究内容及び成果
 都市交通による混雑や環境負荷の軽減を、発生原因に社会的費用を賦課する経済的インセンティブと、負荷軽減の工学技術の総合効果で実現する環境負荷制御システムを開発するため、次の三つの課題を設定した。
(1) 炭素税等の環境税や混雑料金制度の導入による環境汚染物質排出量削減の評価(経済グループ)
(2) 土地利用とロードプライシングによる都市交通制御のあり方(首都圏・環境グループ)
(3) 魅力的かつ低コストの電気自動車を開発(電気自動車グループ)
 
(1) 経済グループ

応用一般均衡交通モデルを構築し、炭素税の二酸化炭素排出削減効果を推定した。
1.国土交通省の運輸部門の二酸化炭素排出削減目標[1990年比で17%増]を達成するための炭素税額(11.0〜11.4[万円/tC])
2.ガソリン価格と軽油価格の必要な値上げ幅
3.低公害車の購入補助率の評価(6.4%引き上げで二酸化炭素排出量を削減目標水準以上に削減)
 等を明らかにした。

車種選択による、燃料税格差解消による窒素酸化物と二酸化炭素の排出削減効果を推定した。
1.軽油課税のガソリン並課税引き上げで、NOx排出量7.7%、CO2排出量0.6%減少、ディーゼル車のシェア5.7%に低下
2.ガソリン課税の軽油並課税引き下げで,NOx排出量2.3%、CO2排出量1.2%増加、ディーゼル車シェア7.5%に低下
 
(2) 首都圏・環境グループ
 混雑する道路を走る自動車は有害物質をより多く排出するから、通常の環境税に加えて、ロードプライシングにより道路混雑を緩和して排出を抑制する。首都圏の環状8号線内に流入する車に対するロードプライシング(以下環八課金)の効果を分析し、便益と費用を明らかにした。第一に、都心の通過交通迂回と都心の道路混雑軽減による排出抑制の直接的便益、第二に、都市のコンパクト化と、土地利用変化による交通量削減と排出削減。副次効果としてコンパクト化による都市の生産性向上である(容積率2割引き上げで都心12区全体で26.5兆円の地価上昇)環八課金は混雑料金や、ロードプライシングにより土地利用の変化を通して、さらに大幅な排出削減をもたらすことを示した。
 
(3) 電気自動車グループ
 電気自動車を内燃機関自動車の改造車としてでなく、ゼロから設計し、電気自動車にふさわしい車体構造を創案した。又高性能化が可能な要素技術を車体構造に組み込み高性能で、かつ新しい特長を付加した電気自動車を開発した。
  車体構造としては
(a)車輪の中にモーターを組み込むインホイールドライブ
(b)床下の約15cmの厚さの中空のフレームに電池等の主要部品を挿入する、コンポーネントビルトイン式フレーム
(c)小径8車輪を特殊なバネ形式で結ぶ、タンデム・ホイール式サスペンション
 を特徴とする。

  また、高性能リチウムイオン電池、モーターの高効率化、及び速度コントローラーの損失を抑えるインテリジェントパワーモジュールにより性能向上をはかり、最高速度311km/h、0-400m加速時間15.3秒、100km/hでの一充電走行距離が300kmを実現した。又車室空間が著しく広く、平らで低い床面を形成し、加速時、悪路走行時、旋回時の高い水準の乗り心地を可能にした。原油を一次エネルギーとした発電を経由して、充電した当電気自動車を走らせた場合、内燃機関自動車で直接燃焼させて走行させた場合に比べ、当電気自動車は約3分の1のエネルギーで走行可能であることを明らかにした。

4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
論文発表(国内誌14件、国際誌4件)、招待、口頭講演(国内25件、国際18件)又、特許出願(国内27件、海外13件、意匠登録4件)等の論文、特許を通じて主要な成果を発表している。
交通経済モデルを構築し、課題等の政策効果を定量的に推定している。日本及び、首都圏の状況を把握するのにかなり有効なものと評価できる。
都市問題はエネルギー環境問題とからんで重要である。このモデルは都市交通モデルとしても、或いは、新しい都市像検討の第1ステップのモデルとしても重要である。
十分、高性能の電気自動車を製作できた。しかし、新しい電気自動車としての成果は大きいが、現在の自動車と、そのインフラにどう組み込めるかという課題にまでは接近していない。
三つの個別課題は夫々に、かなり、独創的な研究であり、国内外で類例は少なく、得られた成果は評価できる。
三つの個別課題の成果が、やや整合性を欠き、当初掲げた、交通制御システムの構築という総括課題にどのように総合されたのか、或いは、今後されていくのか、残念ながら不明である。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
計量経済モデルとしては、統合性・地域性を考慮しても一級と評価できる。
国内外で類似研究はそれ程多くないので、独創的なものとして貢献度は高い。
コンパクトシティーを目指したモデル研究は、現段階においてはアイデアとして評価でき、モデルの検証等、改善の余地を認めるものの、これに具体的な地域別の検討、及び、環境・物流調査を加えると、更に興味深い展開の可能性がある。
これだけの性能の電気自動車は世界的に例が無く、世界記録達成等、自動車の将来の一形態を提起したもので注目できるが、実用への道筋は示すことが出来なかった。
三つの課題の成果が整合的に組み合わされ、交通制御システムという課題に対する、工学と社会科学の協同による総合的な提案に発展することが今後に期待される。
4−3.その他の特記事項
 採択側からの要請で社会科学系と工学系の2つのテーマを合併して成立したプロジェクトの経緯があるとはいえ、全体としての成果は総合的なものとするには至らなかったのは残念である。
<<環境低負荷トップ


This page updated on September 12, 2003
Copyright(C)2003 Japan Science and Technology Corporation