研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
アイソトポマーの計測による環境物質の起源推定
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者吉田 尚弘東京工業大学大学院 総合理工学研究科 教授
主たる研究参加者加藤 義昭日立計測器事業部 副技師長
 上原 喜代治慶応義塾大学 理工学部 教授
 豊田 栄東京工業大学大学院 総合理工学研究科 助手
 角皆 潤北海道大学理学部 助教授
3.研究内容及び成果
 アイソトポマーの自然存在度を利用して環境物質の起源に関する質的情報を読み取る解析手法を開発した。この情報を定量的に読みとる新しいコンセプトの物質解析法として、新たな質量分析法とレーザー分光法の2つの計測法を開発した。地球温暖化ガスとその関連物質のアイソトポマーを計測・解析し、その起源とサイクルを正確に推定する方法を確立した。国内外の測定ネットワークを利用して地球規模での物質収支を解明するために、自然起源レベルでの解明を可能とするような試料の入手、分析、解析を行い地球規模での生成・消滅メカニズムの同定と寄与を評価した。アイソトポマーの地球規模でのマスバランス計算を行い、温暖化ガスの収支の定量化に有用であることを示した。アイソトポマー解析法は将来観測が進むことで必ず有効な指標を与えるポテンシャルの高い評価法であるとしてIPCCに本論文が引用された。日本発の新たな環境物質解析法として注目され、国際原子力機関(IAEA)の「質量分析とレーザー分光法による計測と標準物質に関する有識者会議」(1999秋)にて、モニタリングの標準物質について提言し、答申をまとめた。IAEA主催の第3回同位体技術利用環境変化研究国際会議(2001.4)において、アイソトポマー・セッションをIAEA、JSTで共催した。2001年7月には横浜において1st International Symposium on Isotopomers (第1回国際アイソトポマー会議)をJST主催、IAEAおよびヨーロッパ連合 (European Commission)共催で開催した。
(1)質量分析法開発
 目標分解能10,000、測定相対精度10-4 の同位体質量分析(MS)法を開発した。イオン種間の感度差を低減する計測技術、最大エントロピー法などのデータ処理技術を導入し、測定精度を向上した。環境物質計測ではGCより溶出する試料の検出時間が2〜5秒と非常に短時間であり、イオン加速電源を含めた各電源高速化と高安定化を図り、従来方式より精度を1桁以上向上させた。CO2測定時には、GC導入低分解能、GC導入高分解能とも、ほぼ当初目標に近い段階となった。連続導入時には、測定時間により精度が異なり、検出器を安定化して、測定時間30-240分で目標精度となった。アイソトポマー計測のための質量分析法の国内特許を取得し、外国特許を出願した。
(2)レーザー分光法開発
 質量が同じまたは非常に近い分子間の区別が困難な質量分析法の弱点を補う方法として、同位体シフトにより異なる、光の吸収強度の比較から同位体存在比を決定するレーザー分光法を開発した。メタンの13Cについては0.1パーミル以内の測定精度と確度を実現し、重水素の存在度の計測も可能とした。確度に関しても質量分析法との相互較正を行い、メタンの13Cおよび D、N2Oの15Nアイソトポマー、18Oの各々で測定精度内での確度の一致を確認した。アイソトポマー計測のための吸収分光分析法の国内外特許各々2件を出願した。
(3)環境適用
 既存の精密同位体計測用MSを改造し(以降、改造型MS)、GC/MSシステム(連続フロー型MS)として構築して、環境中の地球温暖化ガスの極微量高精度計測を実現した。高分解能MSおよびレーザー分光法とともに開発した装置を駆使して環境試料の計測を行った。現在および過去の複数地点(波照間島、三陸、名古屋・横浜の都市大気、国内・タイ・イタリアの水田、タイ・シベリアの湿地、英国草地土壌、スウェーデン、南極、南極の万年雪(firn)に保存された大気)の対流圏・成層圏大気を分析し、大気中のメタンとN2Oアイソトポマーの時空間分布とその支配要因を明らかにした。北西太平洋、ハワイ沖、インド洋、黒海、琵琶湖内湖、アドリア海沿岸域において採取した海水試料の分析により、海洋起源のメタンとN2Oのアイソトポマー組成を明らかにした。また鉛直分布が海域によって異なる特徴を示すこと、そのメカニズムを明らかにした。メタンの起源物質である酢酸や、シンク競合物質である非メタン炭化水素などのアイソトポマーによる解析を行って、各化合物のソースの変動などを定量的に明らかにし、N2Oの成層圏における分布を示した。
(4)解析法開発
 N2Oについて、18ボックスモデルに詳細化し、さらにアイソトポマーを組み込んだモデルを作成して、過去百年間に濃度上昇とともに、検知しうる大きなアイソトポマーの変動を予測した。南極万年雪に閉じこめられた過去の大気の観測結果は、この内容と調和的であることを確認した。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
論文発表(国内誌16件、国際誌66件)、招待、口頭講演(国内12件、国際22件)特許(国内3件、海外3件)等、数多くの論文を通じて主要な成果を発表している。
アイソトポマーの存在度を利用して環境物質の起源情報をつきとめる解析手法、そのための質量分析法とレーザー分光法の計測法の開発等、基本の目標は達成した。地球温暖化ガスのアイソトポマーを計測・解析し、その起源とサイクルを推定する方法を確立したといえるが個別の地球温暖化ガス起源を明確にするという究極目標には、更なる研究継続が求められる。
Nature誌(2000, 405,IF25.814)に掲載された論文では、アイソトポマーの地球規模での収支を取り上げた。IPCCはアイソトポマー解析法をポテンシャルの高い評価法であるとして本論文に言及している。日本発の新たな環境物質解析法として、IAEAの「質量分析とレーザー分光法による計測と標準物質に関する有識者会議」(1999秋)における、モニタリングの標準物質についての提言と答申、IAEA主催の第3回同位体技術利用環境変化研究国際会議(2001.4)における、アイソトポマー・セッションのIAEA、JST共催、又、第1回国際アイソトポマー会議(2001.7)のJST主催、IAEAおよびヨーロッパ連合 (European Commission)共催等、アイソトポマーによる環境計測の世界的リーダーシップを取った。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 科学的にも、又応用的に見ても国際レベルの研究として貢献度が高い。解析法の更なるレベルアップと国際ネットワークを駆使した測定・分析の推進における国際的リーダーシップが期待される。アイソトポマー計測のための質量分析法の国内外特許、及びアイソトポマー計測のための吸収分光分析法の国内外特許は、該研究の基盤として、新しい計測器の展開をうながすものと期待される。
4−3.その他の特記事項
 なし。

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