研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
社会的受容性獲得のための情報伝達技術の開発
2.研究代表者
安井 至 東京大学 生産技術研究所 教授
3.研究概要
 環境技術、特に、資源循環・省エネルギー技術を社会に普及するためには、社会が環境を正しく理解することが必要である。資源循環・省エネルギーと利便性、資源循環・省エネルギーと健康リスク、この2種類のトレードオフについて、市民がどのような応答をするか、さらに環境観を変更するには何が有効か、様々な方法を広く採用して検討してきた。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 資源循環・省エネルギーと利便性、資源循環・省エネルギーと健康リスク、この2つのトレードオフについて、市民がどのような応答をするか、また価値観を変更するには何が有効か、について、様々な社会的調査の手法を駆使して検討した。

 まず、基本的情報を得るために、展示会などで一般多数を対象にコンピュータを用いてアンケートをとる方法を確立した。課題は市民の価値観、及び環境情報への反応である。続いて特定少数を対象に講義形式による環境観の変化を調べ、充分に情報を与えれば、個人の健康リスクに対する過度の関心は低下し、地球環境問題に関する関心が増すことがわかった。

 また、さまざまな研究をする上で基礎となるデータベースとしてLCAによるトレードオフの解析を行っている。インターネットにより収集した一般市民の興味のあるテーマ130件から選び、ホームページで公開している。

4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 現在、HPへのアクセス数は総数117万件、月平均6〜8万件という膨大な数に上っており、市民の関心の高さを物語っている。メディアがセンセーショナルな報道を行った場合でも、中立的な意見を提供し続けること、日常生活に直接つながるような表現を重んずること、トレードオフの関係を二酸化炭素排出量だけで簡潔に表現するような手法を考えること、充分な量の情報を与えることが重要であること、など調査手法に共通の貴重な知見が得られている。使用した一連の教材が最終的な成果となろう。つまり、環境情報の与え方が結果を左右するということである。今後は、環境情報の加工法を検討したいという。

 結論として、特に、学校の先生を対象とした教材用ソフトを作ることに注力したいとしているが、大きな成果と言えるだろう。

4−3.今後の研究に向けて
 与えられた情報によって、行動が大きく変わってゆくことを明らかにした研究で、素晴らしい研究成果と言えよう。このような研究は、そもそも当初計画は立てられないのが当然というべきか。このような研究はおそらく世界でも稀で、類似研究そのものがないだろう。このような調査では、よくグループインタビュー方式が用いられているようだが、一度、試して比較をして貰えばこの研究の価値が一段と高まるだろう。また、環境問題に関心の深いNPOと、共同研究してみるのも一案か。また、対象の人数を増やすとか、地域性(大都市、小都市、農村の違い)、世代別、等のデータも欲しくなってくる。共同研究者の貢献が一部に限られているようなのが気になるところである。
4−4.戦略目標に向けての展望
 「資源循環・エネルギーミニマム型社会システムの構築」という戦略目標によく適合している。このような研究により、真に資源循環エネルギーミニマム型システム技術が社会に取り入れられるようになることを期待する。
4−5.総合的評価
 物質的恩恵で幸福を感じる人間が、どの程度、環境問題を考慮して行動を起こすかという問題は、今後の重要な研究課題であろう。このような問題の解釈に、この研究の成果が役立つのではないか。与えられた情報と、環境問題解釈のための行動の変化の相関、それは豊かさなのか、初等教育なのか、費用なのか、キャンペーンなのか(毛皮を着る人が激減したように)、などが明らかになることを期待したい。

 このような社会学的な研究を工学者が手がけることは大きな意味がある。それはIT技術の活用がポイントと考えられるからである。そのような意味でこの研究の発展を期待したい。学校の先生向けの教育ソフトには、評価委員全員が関心を持った。海外ではゲーム感覚で扱えるものもあると聞く。教条的なものでなく、楽しみながら学習出来るようなソフトの開発を期待したい。

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This page updated on September 12, 2003
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