研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
内分泌かく乱物質の脳神経系機能発達への影響と毒性メカニズム
2.研究代表者
黒田 洋一郎 財団法人 東京都神経科学総合研究所 客員研究員
3.研究概要
 国内外の疫学調査の結果は、PCB等の胎児期/乳児期曝露が出生後の脳の高次機能に悪影響を及ぼしている可能性を示唆しており、内分泌かく乱物質問題の新たな焦点として注目され始めている。疫学調査の結果を実験等で裏付ける研究は、扱う問題の複雑さ、困難さの故に、国内外共に十分にはなされていないのが現状である。

 胎児や乳児の脳内に侵入した化学物質が引起す影響は、脳の組織・機能の複雑さを反映し、その作用機構、障害等は極めて多様であることが予想されるが、脳神経科学、脳高次機能発達の研究分野では大部分が未知のまま残されている。

 本研究では、脳神経系機能発達の分子生物学的機構を解明し、内分泌かく乱作用の分子機構を解析すると共に、有用な評価系開発の為の基礎データ蓄積を目標とする。

4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 培養細胞系を用いた脳神経系機能発達評価システムの開発、脳神経系発達における甲状腺ホルモンの役割の解析、甲状腺ホルモン依存的遺伝子発現解析等で大きな進展が見られ、分子生物学的機構の一端が解明されつつある。甲状腺ホルモン様物質スクリーング系開発は、国際的にも大きな進歩であり、満足の行く達成度である。同様な研究は国内外共あまりなされておらず、重要でレベルの高い研究と言える。内分泌かく乱物質の影響解析等、今後の展開が大いに期待出来る。

 脳の高次機能評価はげっ歯類等では限界があり、霊長類を用いた解析等が必須になるが、サルを用いた行動学実験系を開発し、ダイオキシン等の影響に関する基礎的なデータを蓄積しつつある。今後、疫学調査の結果を実験的に裏付けるデータが取得されるものと見込まれる。世界的にも類似の研究は殆ど無く、内分泌かく乱物質のヒトへの影響を相当の確度を持って推定する上でも、貴重な研究であり、今後の展開に期待したい。

4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 甲状腺ホルモンの脳神経細胞への作用機構解析、脳機能発達関連遺伝子発現をモニターするDNAマイクロアレイの開発、神経系培養細胞を用いた内分泌かく乱物質評価系の開発、遺伝子改変動物を利用した作用機構の解析、げっ歯類での行動解析法開発等々、分子レベルから個体レベルまでの研究で、各々重要な研究成果を挙げている。これらは、国際的にも大きな注目を集める成果であり、インパクトは高い。脳神経系機能発達に与える影響に付いて、分子、細胞、個体レベルで明白な答えが得られる可能性があり、今後の展開に期待したい。

 ビスフェノールA(BPA)胎仔期曝露によるカニクイサル母子行動、出生仔の知能、行動発達への影響に付いて貴重なデータを蓄積しつつある。BPA血中濃度はラット、カニクイサル、チンパンジーで大きな種差を示し、一般毒性試験で用いられる安全係数を異なる種に単純に適用する事の問題性を示唆している。今後、知能・感情と言った高次機能への影響が解明され、社会的関心事でもある、IQ低下、注意欠陥多動性障害等との関連に対し重要な示唆が得られるものと期待される。内分泌かく乱物質問題の大きな部分を占める重要課題に対する回答は、社会的貢献の点でも高く評価されよう。

4−3.今後の研究に向けて
 細胞・組織レベルでの解析に関しては、実験系がほぼ確立できたものと思われる為、今後は各種の化合物の影響を精力的に解析して欲しい。脳の高次機能への影響は、霊長類を用いた行動学的解析が必須と思われるが、世界的にも殆ど研究されていないのが現状と思われる。今後はこの方面を強化し、成果を挙げることを期待したい。
4−4.戦略目標に向けての展望
 脳の高次機能への影響に関しては、どのような物質が、どのような影響を与えるのか、殆ど何も判っていないのが現状である。本研究は、前者に対してはスクリーニング系の開発、後者に対しては霊長類の行動解析で答えようとするものであり、その結果は世界的にも高い評価の対象となろう。
4−5.総合的評価
 良く練られた研究計画に基づいて着実に成果を挙げていると言える。これまでは実験系確立等の、研究準備期間と捉える事が出来、今後はこれらの系を用いて、我国から世界に発信できる成果を挙げるよう期待したい。

 最近における人間行動異常の原因を外因性物質のみに帰さぬ様注意すると共に、扱う化学物質の純度、異性体比の的確な把握等にも努める事が望ましい。また、開発した試験システムはOECD等での試験システムとして利用出来るよう、早急に、知財権確保、論文公表等を実施し、実用化に向けた検討を期待したい。

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This page updated on September 12, 2003
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