研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
ナノチップテクノロジーの創製とゲノム解析への応用
2.研究代表者
研究代表者 馬場 嘉信 徳島大学薬学部 教授
3.研究概要
 本研究は、ゲノム解析の全基本プロセスの集積化を実現するナノチップテクノロジーを創り、新技術である一分子ゲノム・一細胞プロテオーム解析を実現することを目的としている。これまでに、ナノ微細加工技術を開発し、PCR、LAMP、 タンパク質無細胞合成のチップ化を達成した。また、DNA解析を30-60秒、タンパク質解析を15秒以内に実現できるチップを開発し、高血圧関連遺伝子のSNPs解析、アポトーシスのプロテオーム解析に応用した。基本プロセスの集積化を進め、システムの市販化を進めた。一分子ゲノム解析技術開発のために、一分子DNAマニピュレーション技術を確立した。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 馬場グループは、バイオテクノロジーとナノテクノロジーの融合のために期待されているゲノム解析のプロセスをナノチップで行い、一分子レベルでDNAの解析を行うことを目標としている。その為に様々なDNA解析技術の開発を行っている。まず、ナノ微細加工技術を用いてゲノム解析の基本プロセスを集積するためにマイクロチャンネル中のDNAの泳動挙動形式の開発、これを用いたDNA断片の解析の高速化、チップを用いたDNA及びタンパク質の反応系の開発、DNA一分子解析技術などマイクロチップ・ナノチップの実用化に向けた研究開発を進めてきている。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 馬場グループは、既に微細加工についてはナノチップテクノロジーの開発に必要なナノ微細加工技術を用いたマイクロチャンネルアレイの設計を行い、マイクロチップを実際に試作し、これを超微細加工評価システムを用いて評価を行ってきた。また、マイクロスケールのDNA抽出、PCRの開発のためのマイクロスケールPCR、等温遺伝子増幅法の適用、タンパク質無細胞合成のためのマイクロチャンバー、その為のマイクロ熱源およびマイクロ温度センサーの設計と製作を行った。さらに、これらの成果を十分に実用化し、それらの評価を行うために20種類以上の動脈硬化・高血圧関連候補遺伝子の解析を行い、ゲノムワイド・スキャニングで約20種類の候補遺伝子領域を探し出した。さらに、このうち高血圧関連遺伝子の多型解析を進める為にマイクロチャンネルアレイ電気泳動によりSNPs解析を行い、従来開発した技術の実用化を目指している。
4−3.今後の研究に向けて
 今後の研究に向けて、馬場グループは従来の成果を基に幾つかの計画を持っている。馬場グループの研究は、既に従来アメリカにおいて先行されていたマイクロチャンネルアレイ電気泳動によるDNA解析及びマイクロチップを用いたPCRによる遺伝子増幅において、世界のレベルと互角またはそれ以上の技術レベルに達していると考えられる。特に、マイクロ化によるDNAタンパク質の解析時間の短縮については外国のグループを凌駕しており、またタンパク質無細胞合成や等温遺伝子増幅については世界に先駆けて実現している。これらの成果を生かすべく様々な展開が予想される。特に期待されるのは、アメリカが取得しているマイクロチャンネルアレイなどによる電気泳動の基本特許を凌ぐ新しい技術の開発であろう。
4−4.戦略目標に向けての展望
 馬場グループは、DNA解析の基本的プロセスすべて集積し、またナノオーダーのスケールでこれを実現するための様々の技術開発を行ってきた。既にプラスチックチップ作製技術を用いたDNA解析チップの開発を進めて、これを更に特定遺伝子のプロテオーム解析への応用も視野に入れている。同時に、一分子DNAマニピュレーション技術開発も行ってきている。これらは当初提案された馬場グループの戦略目標と合致しており、更に独創的な技術の開発が必須であるが、馬場グループの実力、組織からみてこの分野で世界的な主導権を握ることも十分可能である。
4−5.総合的評価
 馬場グループの研究プロジェクトは、「ゲノムの構造と機能」領域のうちで唯一の技術開発プロジェクトである。その為、今までの成果の評価に関しては、他の研究グループの評価と比べてやや難しい点があるのはやむを得ない。一般的に言って馬場グループの成果を評価する意見が多かった。特に、従来日本であまり注目を浴びていなかったDNAの解析技術をナノレベルでこれを実現しようとする試みについては、着実な進歩が見られたのは評価された。特に、微細加工技術を用いてDNA解析を中心として、ゲノム、プロテオーム、DNAと蛋白質との相互作用など、幅広い分野において多くの他大学の研究者を巻き込んだプロジェクトを展開しており、着実に成果を出してきている。このことは馬場グループの持っている技術の潜在的な能力を表しているとともに、将来のバイオテクノロジーの発展において我が国におけるナノ技術が世界的に見て極めて適している分野であることを証明しているとも思われる。馬場グループの成果については、一方幾つかの批判的コメントが見られた。まず、馬場グループが開発した様々な技術においての独創性について必ずしも明白でないこと、特に中核技術であるDNAのマイクロ電気泳動について外国企業が開発した技術を使っている点についても問題が提起された。従って、本技術開発の研究成果を海外の特許とどのように折り合いをつけ、独自性を持たせるのか重要なことである。また、将来の方向として単にDNAの解析のためのシステムをマイクロ化するというよりもナノテクノロジーでないと出来ないこと、ナノテクノロジーを使うほうがメリット大であるテーマにターゲットを絞り込むことが重要ではないかという重要な指摘もあった。

 結論からして、馬場グループのDNAナノチップテクノロジーとそのDNA解析の応用は当初の懸念を払底し中間評価としては全般的に見てポジティブな評価が多く、今後の発展に期待するという意見が多くを占めたが、上にも述べたようにどこで本当にオリジナルな成果を出すのかが今後のポイントであろう。

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