研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
ゲノム情報維持の分子メカニズム
2.研究代表者
研究代表者 花岡 文雄 理化学研究所 主任研究員
3.研究概要
 「ゲノム全体でのヌクレオチド除去修復」機構の初発段階に働くXPCタンパク質複合体がDNA損傷そのものでなく、DNAの部分的な歪みを認識することを見出した。「転写と共役した修復」を欠損するコケイン症候群(Cockayne syndrome;CS)の原因遺伝子産物CSAは、DNA損傷に伴い核マトリックスに移行し、転写伸長するRNAポリメラーゼIIと共局在することを明らかにした。「損傷乗り越え複製」に働くDNAポリメラーゼηが比較的正確な損傷乗り越え複製をするメカニズムを明らかにし、またそれが複製装置と共局在することを見出した。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 花岡グループの研究テーマは、ゲノムワイドにおけるDNAの修復、特にヌクレオチド除去修復に関するものである。既に花岡グループはゲノム全体においてのヌクレオチド除去修復初期段階に働くXPC蛋白質複合体の役割を明らかにし、またこの複合体の損傷認識メカニズムとその後の修復複合体形成過程についての役割を明らかにしてきている。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 花岡グループの研究成果は、ヌクレオチド除去修復のうちで転写と共役した修復(TCR)に関する蛋白質やXP遺伝病に関するタンパク質の一つであるXAB2蛋白質の機能解析を行い、ヒトにおいて転写と共役した修復がどのように行われるのか、またその欠損病態に関してその原因の解明を行ったことである。また、転写と共役した修復を欠損した遺伝病(コケイン症候群)の原因遺伝子産物は、DNA損傷に伴い核マトリクスに移行しDNAポリメラーゼIIと共局在することを明らかにしたことも成果のひとつである。

 田中との共同研究はXAB2遺伝子のノックアウトマウスの研究からXAB2が胎児の発生過程において必須であることを証明している。他にもDNA損傷を受けた細胞におけるCSA蛋白質の核マトリクスの移行メカニズム、CSA蛋白質依存症などの様々な症候群の全遺伝子の決定の試みなどを行っている。一方、複製中のDNAに損傷がある場合、損傷を乗り越えることが出来る新しいDNAポリメレーゼが複数存在すること、このポリメラーゼによる損傷部位を乗り越える複製の分子機構、これらのポリメラーゼの役割などを分子生物学的手法、また遺伝的手法によって明らかにしてきた。特に、XP-Vの遺伝子産物であるDNAポリラーゼηの生化学的研究やこの酵素が損傷部位を乗り越える機構のメカニズム、この酵素の細胞内の研究も引き続き行われている。

4−3.今後の研究に向けて
 花岡グループの研究は、ゲノムワイドにおけるヌクレオチド除去修復の機構を様々な角度から追求しており、この分野では現在世界的にもトップグループの一つとして活躍してきている。今後の見通しとしては、これらのゲノム全体でのヌクレオチド除去修復に関して、まだ解明されていない重要な課題、例えば損傷した塩基の確認機構などヌクレオチド除去修復の解明を目指すと思われる。また、これらの機構がミスマッチ修復など他の修復機構の関与に関しても検討する。一方、様々なノックアウトマウスの作出を進めることにより多くの損傷を乗り越え複製機構の役割、損傷乗り越え機構とヌクレオチド修復などの関係を明らかにすることを目指している。
4−4.戦略目標に向けての展望
 花岡グループの戦略目標は、DNAの修復機構を多岐にわたる方法によって追求し、その成果をまとめて生体のヌクレオチド除去修復に関する総合的な図を描くことであり、現在まで相当なところまで全容が解明されてきた。この分析は、一時ほぼ全容が解明されたとされていたが、花岡グループなどの研究によって更に奥が深い複雑な系であることが明らかになってきた。今後の展望は明るい。
4−5.総合的評価
 花岡グループのDNAの修復を中心とするゲノム情報維持の分子メカニズムに対する評価は高かった。特に、精製した蛋白質を用いての複雑なNERやTCRのメカニズムを解析する手法は花岡グループの特徴であり、今後ともこのような生化学的、分子生物学的手法を中心に研究を進めることが期待される。本分野もまた世界的に競争が激しい分野であるが、花岡グループの実力から見て今後十分に世界の競合しているグループと太刀打ちできると期待されよう。

 一方、花岡グループの中の田中グループの研究については、その成果が必ずしも顕著でないという批判があった。田中グループの同定した遺伝子についての持続的な研究があるにしろ、この遺伝子に関する最近の研究の成果は必ずしも顕著でない。いずれにせよ、今後残りの期間を通じてどのようにして期待されている成果を出し、本研究テーマをまとめていくか、花岡グループの真価が問われるのはむしろこれからのことであろう。今後の研究の発展、特にDNAの修復に関する画期的な且つヌクレオチド除去修復に関して、その包括的にまとめられる成果が出る事を期待したい。

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