研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
光・電子波束制御エンジニアリング
2.研究代表者
研究代表者 覧具 博義 東京農工大学 工学部 教授
3.研究概要
 本研究チームは、光波束であるフェムト秒光波束とそれが半導体ナノ構造内部に誘起する量子波束の相互作用の実証と応用を研究目的とする。これまでフェムト秒プログラマブル位相制御光源とフェムト秒位相分光法の開発を行い、有機分子や量子構造半導体中での量子波束制御実験を行った。また、波束制御に最適な多準位遷移評価用非対称量子井戸材料の設計と試作を行った。更に、位相制御されたパルス列による核波束干渉操作実験を行い、分子内核波束干渉を利用した単一分子素子への応用を実証している。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 フェムトパルスの各波長に位相信号をもたせるという発想はこのグループ独自のものであり、位相情報を含んだ光パケットによる情報通信という新しい概念により、これまで利用が困難とされていた光パルスの位相情報を利用しようとするもので高く評価できる。

 フェムト秒量子制御グループ(農工大)は、フェムト秒位相変調器を一応完成し位相制御実験で進展が得られた。量子構造材料グループ(NEC)は、非対称量子井戸の設計・製作を着実に進め位相検出の基本となる媒体についても有機分子から半導体量子井戸の利用に一歩前進した。アト秒光量子波束グループ(東北大、13年度から参加)は、単一分子を用いた波束制御において成果を上げている。東北大グループの参入は、極端条件下の実験だが、今後のデバイスコンセプトの確立に向けて有益である。

 個別のテーマの研究については他の研究機関でも研究されているが、光波束・量子波束間相互作用として捉えた研究は殆ど無く、他に先がけて位相制御技術等を開発し全体として高いレベルにある。

4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 光通信における従来の時間軸および周波数軸の変調に加え、位相軸変調の可能性を原理的に示し、0.8μm光源については、任意位相パターンのプログラムを可能にし、チャープ可変光源を作製したこと、1.1〜1.6μm波長可変光源を作製したこと、位相変調器、位相検出器の両方において新しい発想を示した等の技術的インパクトが大きい。有機分子による波束制御と位相/振幅変換の実証、非対称構造量子井戸の設計とキャリア−ダイナミクス、低しきい値量子ドットレーザーの実現、5アト秒の精度をもった双子パルスの遅延時間制御とそれを利用した分子振動波束の観測・制御など、成果の学術的インパクトは大きい。通信技術等への応用の可能性が見えてくれば、これらの技術的インパクトは更に大きくなろう。

 一分子系における分子振動波束をアト秒精度で干渉制御が可能なことを示したのは、本プロジェクトのみでなく、量子コンピューティング研究にとっても興味ある結果である。科学的なインパクトが大きい。

4−3.今後の研究に向けて

 半導体量子ドットが最適なデバイスであるかどうかについては再検討を要する。量子ドットは製作そのものが相当困難で将来的にはその研究は無意味ではないが、提案されている製作法ではゆらぎの限界のために、期間内に有益な成果が得られるか否か予測できない。「量子井戸+励起子」を利用するのも一案で、また等間隔準位が好ましいのであれば放物形井戸なども考慮もされてしかるべきである。

 農工大、NECグループは光通信周波数帯で、半導体ナノ構造を用いて光の位相を検出する研究に努力を集中しており、東北大グループは分子系を用いた光の位相検出に成功している。両者の融合を更に図ることにより、この研究は大きな成功を収めることが出来ると期待される。

4−4.戦略目標に向けての展望
 最初の提案段階の計画から研究をダイナミックに展開しているのは評価できる。東北大グループのような異分野グループの参加はプロジェクト全体に良い影響を与えている。フェムト秒での光波束位相制御というチャレンジングな課題に対して原理的な実証をしたが、本プロジェクト終了までに、どこまでデバイスとして実証すれば第三者が納得するか整理し、残りの期間に集中すべきである。

 分子振動系における長いdephasing time(位相緩和時間) を利用した位相メモリ、量子コンピュータへの展開が大いに期待できる。分子系を用いたアト秒精度の波束干渉の実験が本研究全体に大きな寄与をすることが期待される。位相制御された光波による光パケットを使用する方法は、光通信分野におけるパケット通信を可能にする意味で、今後、解決すべき技術的課題は多いが、大きな価値、インパクトを有する。

4−5.総合的評価
 フェムト秒領域での光波束位相制御の原理的実証段階は完了したものと思われる。今後は少数ビットであっても現実的な実証研究が期待され、最新の技術(結晶成長技術等)を用いて第三者をどれだけ納得させるレベルまで持って行くかが重要である。光・量子波束エンジニアリングプロジェクトとして、まとまった結論を得るためには、分子系による量子位相の形成と検出の方法と、半導体ナノ構造を用いる方法との将来性を評価し、分子による波束制御と半導体量子構造系との研究方向の歩み寄りを図り、最終目標に向けて各グループの成果が収束する方向で研究を進めることが望ましい。
<<電子・光子トップ


This page updated on September 12, 2003
Copyright(C)2003 Japan Science and Technology Corporation