研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
大腸菌におけるゲノム機能の体系的解析
2.研究代表者
研究代表者 森 浩禎 奈良先端科学技術大学院大学 遺伝子教育研究センター 教授
3.研究概要
 モデル生物である大腸菌細胞の完全な理解を目的とする為に、(1)網羅的な解析に利用できる研究材料の開発、(2)ゲノム配列および既知の情報学的解析、(3)材料および解析結果などのデータベース化、(4)開発研究材料を用いた網羅的な機能解析、の大きく4つのカテゴリーに分けて研究開発を進めてきた。より具体的には、 (1)においては全予測遺伝子(約4,000)のクローンの完成とそれを利用したDNAチップの作製、全遺伝子の破壊株作製に必要なランダムなクローンライブラリーの完成と1,018遺伝子の破壊、約150箇所の領域の欠失による新規必須遺伝子の候補の確認、RFHRタンパク質二次元電気泳動法によるgene-protein index作製、(2)においては多変量解析を用いた遺伝子ネットワーク解析技術の開発、代謝パスウェイのアライメント技術の開発、多変量解析を利用した遺伝子の分類、クラスター解析による遺伝子の分類、(3)においては大腸菌データベースシステムの見直しとホームページの改良及び拡張、文献データベースのプロトタイプの完成、(4)においては網羅的RNA結合タンパク質検索系の確立、破壊株あるいは欠失株を利用した網羅的発現解析システムの確立、機能未解析遺伝子の機能解析、クローンを用いたタンパク質精製の系の確立などである。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 森研究グループにおける研究課題は、大腸菌におけるゲノム機能の体系的解析である。現在、世界の生物学研究の趨勢が高等動植物を用いた研究に移行しているとは言え、従来の大腸菌における分子生物学の基本的知見の蓄積は圧倒的なものがあり、他の追従を許さないし、それらが現在の分子生物学の発展に貢献した事実は否定し難い。従って、これらの従来から蓄積された様々な大腸菌の情報を組織的、包括的にまとめあげ、それを完全網羅するということは、極めて重要な使命であると考えられる。特に我が国においては、多くの優れた大腸菌の分子生物学者を輩出してきた故に、本プロジェクトは世界からの要請が極めて大きく、有意義なものと思われる。
 このようなプロジェクトの性格上、森研究者を代表として日本における多くの研究グループがこのプロジェクトに参加した。まず、体系的解析に必要な研究材料の作製に関する幾つかのプロジェクトとして約4千と思われる遺伝子の全遺伝子クローンの完成とそれを利用したDNAチップの完成、これらの遺伝子機能推測の為に必要なすべての遺伝子の破壊株の作製、新しい必須遺伝子発見の為の100箇所以上の領域の欠失の作製、遺伝子産物の同定に関わるRFHRタンパク質二次元電気泳動法による蛋白スポットの同定などが計画された。一方、これらの情報を処理する為のバイオインフォマティックスとして、新しい遺伝子ネットワーク解析の為のソフト開発、代謝パスウェイのアライメントに関するソフトの開発、新しいソフトウェアによる遺伝子、及びそのクラスター分類などと同時に一般に供給する為の大腸菌データシステムの改良及び拡充と文献データベースの構築が挙げられる。一方、網羅的な機能解析として、ORFクローンを用いた網羅的RNA結合タンパク質探索系の確立、破壊株あるいは欠失株を用いた網羅的発現解析システムの確立、機能未知遺伝子の機能の推定及び同定、各々の遺伝子産物の分離精製系の確立などが挙げられる。
 今までのプロジェクトにおけるこれらの目的に対して全般的に幾つかの進捗度の状況があるにしろ、概ね満足すべき成果が得られたと思われる。まず、ORFクローンの完成であるが、予想以上の速度で進められ、既にその蛋白質の解析へ可能なクローンへの変換も可能になりつつある。 同様に破壊株作製についても既に1千以上の遺伝子についてそれが完成されているが、これはやや目標値を下回っているとは言え、最近技術的問題が解決され、今後は急速に破壊株の作製が進むものと思われる。欠失株作製に関しては、ほぼ予定通りのスピードで行われつつあり、DNAマイクロアレイ解析による遺伝子ネットワーク解明、代謝パスウェイ解析、機能未知遺伝子群の機能解析などに大きな貢献をすると期待される。
 情報解析に関しては、遺伝子ネットワークのためのアルゴリズム解析、遺伝子クラスター解析などに止まらず、DNAマイクロアレイをつかった解析法についても新しい方法が開発されつつある。
 データベースについても、このプロジェクトで得られたクローン、その他の情報のデータベース化が順調に進んでいるようで、機能解析においてもそのプロジェクトによって進捗状況に些かの差はあるとはいえ、このような遺伝子群の破壊株などを利用した網羅的機能解析は、ポストゲノムシークエンス時代において極めて重要な役割を持つこともあり、特に世界的に見て我が国にこの方面での役割が期待されており、この方面の到達レベルとしては世界に十分通じるものと考えてよいだろう。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 今後の研究の方針としては、大腸菌の作る蛋白レベルでの仕事が中心となるであろうが、いかにこれら蛋白質を遺伝子発現のネットワークの解明のみならず各々の蛋白一蛋白間相互作用の解明にもっていくか、個々の遺伝子産物の機能解析など多くの課題が残っている。森研究グループは、多くの異なったグループから統合されて成り立っており、当初は、その有機的な連関性にやや懸念が持たれたが、結果としてかなり着実に進歩し、当初の目標の完成は、まず間違いないと考えられる。
4−3.総合的評価
 森グループの研究に関する評価委員の評価は、概ね高く、予想以上の成果との意見もあった。特にデータを広範的に集めるための 組織的な努力、グループ相互間の情報の交換など、本プロジェクトの着実な成果を評価する声が多い。一方、今後の見通しについて、プロテオーム解析、蛋白質相互解析など技術的な問題に直面する場合にそれをどう乗り越えて行くかということに些かの懸念もあるとの指摘もあった。ともあれ、ひとつの生物のゲノム機能を体系的にあらゆる方面からまとめあげるということにおいて意義は大きく、今後の着実な発展に期待したい。
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