研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
量子固体と非線型光学:新しい光学過程の開拓
2.研究代表者名
白田 耕藏 (電気通信大学電気通信学部 教授)
3.研究概要
 光学遷移のスペクトル幅が極めて狭く、「孤立原子(分子)の量子性と固体の高密度性を合わせ持つ」固体水素を非線形光学、量子光学の視点からとらえ、従来の枠組を超えて、原子系で発展してきた光学過程と凝縮系で発展してきた光学過程の双方を融合する新しい光学過程を開拓する。より具体的には、強結合誘導ラマン散乱の研究を突破口に、一般的な非線形光学・量子光学過程に拡張して発展させる。さらに、真空紫外非線形光学を量子固体系に拡張し、真空紫外固体非線形光学・量子光学の分野を開拓する。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 固体水素を量子・非線形光学媒体として使用する研究代表者のユニークな発想に基づく研究であり、その発想に基づいて、位相整合条件を満たさないインコヒーレント光を用いた強結合誘導ラマン散乱による高効率サイドバンド光の発生、液体水素液滴共振器の巨大Q値の実現など、注目すべき成果を出している。今後は、サブフェムト秒(アト秒)光パルスの発生、超高Q値固体水素共振器の実現などを期待する。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 「孤立原子(分子)の量子性と固体の高密度性を合わせ持つ」固体水素の強結合非線形光学効果に着目した研究代表者のユニークな発想に基づいて、研究が推進されている。従来の非線形光学媒体では位相整合が満足されないインコヒーレントな蛍光に対して、30%近い高効率の強結合ラマン散乱サイドバンド光の発生により、固体水素の強結合非線形効果を実証したこと、直径が100〜1000μmの液体水素液滴を共振器として用いることによって可視光から紫外光にいたる領域で109という巨大Q値を実現し、波長532 nmの励起により200 nm〜1μmの波長領域で水素分子の回転による多数のサイドバンド光の発生を実現したことなど、注目すべきユニークな成果がでている。これらの成果に基づいて、サブフェムト秒光パルス発生や超高Q値固体水素共振器の実現の可能性が出てきており、これらが実現すればインパクトは大きい。但し、真空紫外域非線形光学や超放射レーザー作用の実現という、当初の大きな目標についての進展は見えてきていない。固体水素の結晶成長技術も、本研究チームが開発した極めてユニークな技術ではあるが、結晶の高品質化、薄膜化などと強結合非線形光学効果との定量的な研究が十分でなく、新たな展開のために今後の課題である。
4−3.総合的評価
 固体水素という独創的なアイディアで、対外的にもかなり注目されているユニークな結果については大いに評価出来る。但し、真空紫外レーザーの実現など、一部研究提案時に強く期待された部分の成果が見えていないのが残念である。しかし、サブフェムト秒光パルスの発生と固体水素共振器は実現すればインパクトが大きな成果に成るであろう。成功を期待する。

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