研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
超好熱性古細菌転写因子ネットワークの構造生物学的解析
2.研究代表者名
鈴木 理 (工業技術院 生命工学工業技術研究所 室長)
3.研究概要
 本研究では超好熱性古細菌の転写調節機構を系統的に解析する事により、
  (1)転写調節系全体像の解明
  (2)細胞内での生体高分子(蛋白質、核酸)の耐熱化機構の解明
  (3)古細菌を含めた三生物界の進化の機構の解明
 を目標とする。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
上記の各目標について、以下の研究を行ってきた。
研究項目1:転写調節系全体像の解明
  古細菌遺伝子、プロモーターの情報科学的同定
  環境条件特異的古細菌転写系の実験的同定
  古細菌遺伝子の実験的同定
研究項目2:細胞内での生体高分子(蛋白質、核酸)の耐熱化機構の解明
  ゲノム配列の比較解析に基づく耐熱機構の解明
  蛋白質立体構造に基づく耐熱機構の解明
研究項目3:古細菌、真正細菌、真核生物の進化
  古細菌ゲノム遺伝子構成の2層性
  ゲノムDNAのシャッフル
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
1.研究目標(1)の基礎として、古細菌の全ゲノム配列を遺伝子部位とプロモーターとに分離同定する情報科学的方法論を開発した。
 T. volcaniumは好気、嫌気両環境下で生育し、遺伝子群の転写を環境特異的に調節する。さらに分子生物学的研究により、古細菌では初めての条件特異的な転写調節系の同定に成功した。今後は同定したT. volcaniumのプロモーター群をさらに解析することにより、上記研究目標(1)は研究期間後半内に達成できると予想する。
2.研究目標(2)については研究期間前半に大きな進歩を得た。
 @好熱性古細菌T.volcanium のゲノム全塩基配列を決定し、この配列を超好熱性もしくは常温性の微生物のゲノム配列と比較することにより、またA超好熱性、好熱性古細菌由来の蛋白質の立体構造の決定、解析により、特にAからは個々の分子を安定化するための具体的な要因が、@からは、それらの分子を1つの細胞システムへと統合し、高温で機能させるための要因が明らかになった。T. volcanium の最適生育温度は60度で、すでにその全塩基配列が決定されている超好熱性微生物(最適生育温度80〜100度)と常温性微生物(最適生育温度37度付近に集中)の中間に位置し、この事実が、これらの要因の同定のために極めて重要であった。今後はこれまでの成果をさらに深め、研究目標(2)を完成させる予定である。
3.研究目標(3)には、2つの観点からアプローチしており、今後大きな成果が期待できる。
 第1は、T. volcaniumの遺伝子が、異なる翻訳シグナル(真正細菌型と真核生物型)を持つ2群に分かれている事を発見したことである。このような古細菌ゲノム2層性は進化の観点から説明される必要がある。第2は、種の分化に際して、ゲノムDNA配列が複製開始点を中心に対称的にシャッフルされることを見い出したことである。その副産物として、全ゲノム配列をもとに生物の系統樹を描くといったことが可能になりつつある。今後、研究目標3を深めるためのさらなる準備を進める。
 研究項目1〜3以外の成果として、1メガ程度のゲノム全塩基配列をA4 1ページ程度に、オリジナルのデータを失うことなく印刷する方法を開発した。さらに、栄養要求性と遺伝子構成の対応についても成果が得られた。
4−3.総合的評価
 広く活発にやっているが、今一焦点がはっきりしない。発表する雑誌が大部分国内誌(Proc.Japan Academyなど)であるので、もっと国際誌に挑戦すべきであるとの意見が多かった。また、新たに購入した透過電子顕微鏡による成果はあまり出ていない。これらを真摯に受止めて更に努力をして貰いたい。
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