研究課題別中間評価結果

 
1.研究課題名
複合極限の生成と新現象の探索(超高圧・超強磁場・極低温)
2.研究代表者名
遠藤 将一 (大阪大学 極限科学研究センター 教授) 
3.研究概要
 当研究課題では超高圧、超強磁場、極低温のうち2つあるいは3つを組み合わせた複合極限環境の発生技術の開発、ならびにその環境下での諸物性測定技術の開発を行い、種々の物質について電気伝導度、磁化率、X線回折等の測定、超伝導発生、相変化などの観測を行なう一方、第一原理からの量子論的計算を行なって実験と理論が相い補い、諸物性の興味深い本質を探る。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 当研究チームは超高圧、超強磁場、極低温の極限環境発生技術およびその環境下での測定技術において世界一流のレベルにあり、これらを全て具備した研究グループは他になく、複合極限環境を同時発生するため当研究チームが有するポテンシャルは類を見ない。例えば、複合極限環境として高圧の220GPa(〜220万気圧)と低温の50mKを同時発生させており、これは現在の処、当研究チームにおいてのみ可能である。極限環境の発生技術ならびに測定技術に優れた専門家グループに加えて、固体物性理論に詳しいグループを擁していることは当研究チームの強味である。研究対象として種々の元素、無機・有機結晶、強相関電子系物質など様々な物質を選び、種々の物性測定と理論計算を行なっており、多数の興味ある結果を得ている。今後はこれらの成果を踏まえて、更に複合極限環境の発生技術と物性測定技術の改善・発展、および種々の物質についての測定等を重ねて行く。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 複合極限環境として高圧の220GPa(〜220万気圧)と低温の50mKを同時発生させており、これは他に類を見ない。この環境下で電気伝導度、磁化率等の物性測定を行なっている。また単独環境ではあるがパルス磁場として80.3Tの世界記録を達成した。硫黄に次いで固体酸素の超伝導を125GPa、0.6Kの環境で発生させ、これは専門誌Natureにも掲載された。120GPa下のバナジウムが単体金属元素としては最高の超伝導臨界温度17.2Kを記録した。これら元素の他にイオン結晶CsI、半導体BiI、有機分子結晶C6I4O2、強相関電子系物質CeCuGe2等、種々の物質について超高圧・極低温下で絶縁体-金属転移および超伝導発生を観測した。複合極限環境下での研究成果はこの他多数に上る。 理論グループはFP-LMTO法など最新の電子論的計算法を用い、複合極限環境における種々の物質の物性に関する高度な計算を行なって実験結果の理解・説明に重要な寄与を行なう一方、固体水素の金属化には約400GPaの超高圧が必要である等の示唆を実験グループに与えている。
 当研究チームが目指す課題としては300万気圧級超高圧の安定的発生、鉄族など磁性金属の超伝導探索、更には固体水素金属化の実証に向けての研究技術開発等、種々あり、これらのうちの幾つかが達成されよう。
4−3.総合的評価
 超高圧、超強磁場、極低温の一流研究者多数を共同研究者とする当研究チームは複合極限環境発生技術および測定技術の開発において優れた技量を発揮し、世界一級のレベルの研究を行ない、数多くの成果を挙げている。固体酸素の超伝導発生の実証は科学的インパクトとして大きい。他の優れた成果と相俟ってわが国における極限環境実験技術の高さを広く世界に知らしめた。

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