研究課題別中間評価結果

 
1.研究課題名
質の利用を中心にすえた新しい都市水代謝システムの構築
2.研究代表者名
渡辺義公 (北海道大学大学院工学研究科 教授)
3.研究概要
 現代の都市水代謝を支えている近代上下水道は、構造的な渇水と水質汚濁に対処できず破綻しようとしている。本研究は、用途に応じた水質の水を必要な量だけ都市に供給し、不足分を自然との生態学的調和と水再利用を考えて対応する新しい都市代謝システムを構想している。本研究は、そのための技術的あい路となっている要素技術について、ブレークスルーを試みるものである。本研究は、分離膜を用いた高度上水システムの開発、ハイブリット下水処理システム、新しい吸着剤に関する基礎研究、リン回収のための基礎研究、高度水質計測システムの開発などから構成されている。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 膜分離が汎用的な水処理プロセスとなるためには、膜ファウリングの制御と有機・無機溶解成分への対応が課題である。膜分離では、膜のファウリング機構の解明を進めると同時に、粉末活性炭循環型浸漬MF処理ム、回転平幕処理、振動型NF膜分離などの要素開発を行なってきた。リン資源回収では、下水汚泥からリンを回収するための方策として、植物のリン吸収を可能にする植物分泌性フォスファターゼの遺伝子解析を進めた。この結果、下水汚泥に含まれるリンについて、リサイクルの可能性が示された。触媒では、シリカ系メゾ多孔体(直径1.3‐10nmの細孔が規則的に配列した構造)の試作による農薬の吸着、ジルコニアメゾ構造体によるヒ素の吸着について基礎研究をすすめ、吸着の効果を見出した。また、計測システムグループでは、イオンスプレー方式による質量分析法を開発し、17種類の主な農薬(チラニウム、シマジンなど)を一斉分析できる技術を開発している。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 現在までに、要素開発として、膜処理技術の基本検討をすすめ、今後の上水、下水処理の今後の基本プロセスとして見通しを得た。また、本研究の前半では、リン回収技術の開発、ヒ素吸着メゾ構造体の開発などの要素技術の基礎的な研究を行い有益な見通しを得ている。また、ヒ素分析、17種の農薬の一斉分析についても世界に類を見ない最先端技術である。研究期間の後半にかけて、これらの要素技術について、さらに実用化を目指した方向での実証研究をすすめて行く計画である。
 11年度において、札幌市創生川下水道処理場に、開発した要素技術を組み込んだ水再利用システム総合実験設備および貯留・輸送系ない微生物再増殖実験システムを試作し、実験研究に着手している。本実験設備によって、本研究の総合的な実証確認を行い、その結果を取りまとめる予定である。
4−3.総合的評価
 研究目的に合致した研究成果が得られていると判断される。研究期間の前半において、必要な要素技術の開発が行われたが、特に、膜分離はよく進捗したと評価できる。また、植物分泌性フォスファターゼの利用によるリン回収技術は、現在は基礎研究の段階であるが実用化の目途がつけば、枯渇資源であるリンのリサイクルに大いに期待できる。今後、システムとしての取りまとめを十分検討していく予定であるが、実用化スケールにスケール拡大したときの問題点について、十分な検討が必要である。
 

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