研究課題別中間評価結果

 
1.研究課題名
アイソトポマーの計測による環境物質の起源推定
2.研究代表者名
吉田尚弘 (東京工業大学大学院総合理工学研究科 教授)
3.研究概要
 環境分子に多種存在するアイソトポマー(isotopomer:同位体分子種)の自然存在度を計測して環境物質の起源を定量的に推定する。このために、質量分析法とレーザー分光法の新たな計測法を設計・開発し、環境試料への適用をはかる。メタン・一酸化二窒素などの地球温暖化ガスについて国内外重要試料の解析を行う。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 高分解能質量分析計は純物質計測と環境低濃度混合物質計測の2段階で進め、機器としては、両機能を統合して完成度の高い一台の分析計の開発を進めた。第一段階の純物質計測ではデュアルインレットの高分解能開発実験機で精度を0.n 0/00以内まで向上させた。GC(ガスクロマトグラフ)/アイソトポマー質量分析計の第二段階では、質量検出が短時間であることに対応して加速電源の高速化と安定化を図った。精度は0.0n0/00の目標にほぼ達しているが、ソフト面の仕上げの段階であり、一段の安定な精度達成を狙う。レーザー分光法は近接質量における質量分析法を補完するものとして、光吸収度の比較から同位体存在比を決定する。波長安定化した複数の半導体レーザーと長光路吸収セルを組み合わせた分光法を開発し測定に最適な吸収線を対象ガスについて決定した。環境適用では、N2Oの極微量高精度計測を行い、複数イオン種計測によりN2Oのアイソトポマー計測を開始している(NATURE誌投稿)。また、インド洋、太平洋、シベリア、熱帯、南アフリカ沖などの試料について、メタン、非メタン炭化水素、ハロカーボンの分子種ごとの計測も開始している。今後は、計測、分析のためのハード、ソフトの体制がほぼ出揃うので、現在得られている知見をもとに、世界的な研究ネットワークの協力を得て、目標とする環境物質の分子種分析を推し進める。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 高分解能質量分析計および高感度レーザー分光法において当初目標とした精度をほぼ達成している。環境物質の分子種測定分析では、一酸化二窒素を中心に、起源推定の貴重な結果が出始めている。国際的にインパクトの高い学術誌に掲載、あるいは、分子種の基準設定において、国際機関の認知を得るなど、国際的に成果が注目、期待されている。今後、ハード・ソフトの体制が揃ってくる中で、研究ネットワークを国際的な協力体制に広げることで、有効な分析結果を期待し得る。
4−3.総合的評価
 分子種の測定・分析に必須で、有効な高精度質量分析法と高感度レーザー分光法の開発にほぼ成功した。分子種の測定分析でN2Oを中心とする成果では世界的に注目されている。今後、その他の環境物質を含む対象ガスの分析を進め地球温暖化ガスの挙動解明等の科学的知見としての成果が期待される。

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